鍵のない密室 第2話
固まった空気の中で、三上が言った。
「……その時間」
森川が顔を上げる。
黒田も黙ったままだ。
太陽はゆっくり聞いた。
「どうした?」
三上は言った。
「昨日の9時って、俺たち……」
森川が震える声で言った。
「……オンラインで」
黒田が続けた。
「四人で通話してた」
佐伯の目が細くなる。
太陽の頭が真っ白になった。
四人で通話。
つまり、全員のアリバイが互いに成立している。
それなのに。遺書は言った。
「犯人は、この中にいる。」
太陽は部屋を見回した。
密室。
消えた鍵。
四人のアリバイ。
そして――犯人はこの中。
太陽はゆっくり思った。
この事件は、普通の密室じゃない。
もっと奇妙な何かだ。
書斎を出たあと、太陽たちは一階のリビングに集められた。
古いソファと低いテーブル。
どこにでもある家庭の居間だが、今は取調室のような空気だった。
刑事の佐伯が椅子に座る。
「では、順番に話を聞かせてください」
四人は黙って頷いた。
太陽はまだ頭の整理がついていなかった。
密室。
消えた鍵。
犯人はこの中。
そして何より――昨夜9時、四人は同時に通話していた。
それは事実だ。嘘ではない。
佐伯が言った。
「まず確認します。昨日の夜、あなたたちはオンライン通話をしていた」
三上が答える。
「はい」
「時間は?」
「だいたい九時から十一時くらいまで」
佐伯はメモを取る。
「何の通話ですか」
黒田が言った。
「雑談です。久しぶりに話そうって」
佐伯が聞いた。
「きっかけは?」
三上が答えた。
「神崎です」
全員の視線が三上に集まる。
三上は続けた。
「昨日の夕方、神崎からグループにメッセージが来たんです」
太陽は思い出した。
スマホを取り出し、ログを開く。
確かにあった。
「久しぶりに話さない?」
それだけの短いメッセージ。
三上が言う。
「それで夜に通話しようってなった」
佐伯は聞いた。
「神崎さんは通話に参加しましたか」
三上は首を振った。
「最初だけです」
「最初?」
森川が言った。
「九時ちょっと前に、少しだけ」
太陽も思い出した。
確かに。通話が始まったとき、神崎はいた。
そして、こう言った。
「ごめん、少し用事ある」
それだけ言って、通話から抜けた。
黒田が言った。
「そのあと戻ってこなかった」
佐伯はメモする。
「つまり」
「九時以降、神崎さんは一人だった可能性が高い」
三上が言う。
「そうなります」
太陽は聞いた。
「……待ってください」
佐伯が顔を上げる。
「なんでしょう」
太陽は言った。
「死亡推定時刻。九時から十時ですよね」
「はい」
「つまり」
太陽はゆっくり言った。
「神崎が通話を抜けたあとに死んだ」
佐伯は頷く。
「その可能性が高い」
部屋が静かになる。
太陽は四人を見た。
つまり。神崎が最後に話した相手は、この四人。
佐伯は言った。
「次に聞きます。通話の途中で、誰か抜けましたか?」
四人は顔を見合わせた。
三上が言った。
「……いや」
森川も言う。
「ずっと四人だった」
黒田も言う。
「俺も覚えてない」
太陽も言った。
「ずっと話してました」
佐伯は少し考えた。
「トイレや席を外した人は?」
三上が言う。
「それはあります」
「誰が?」
「全員」
太陽も思い出す。
確かに、雑談だった。
飲み物を取りに行ったり、トイレに行ったり。
数分離席することはあった。
佐伯が言った。
「その間、音声は?」
三上が答えた。
「マイクは入ったままです」
「つまり、席を外した音も聞こえる」
「はい」
佐伯は腕を組んだ。
「なるほど」
太陽はふと気づいた。
「……待って」
三人が太陽を見る。
太陽は言った。
「俺たち昨日、何の話してた?」
森川が少し考える。
「雑談」
黒田が言った。
「仕事の話」
三上が言う。
「あと」
三上は言葉を止めた。
太陽が聞く。
「あと?」
三上は小さく言った。
「……大学の話」
太陽の胸が少しざわついた。
大学時代、五人でよく集まっていた。
だが、途中から神崎はあまり来なくなった。
理由は――森川が言った。
「事故の話」
空気が一瞬で冷えた。
佐伯が顔を上げる。
「事故?」
黒田が言う。
「大学三年のときです」
太陽の頭に、ぼんやりした記憶が浮かんだ。
夜。
雨。
サークルの帰り。
そして――交通事故。
三上が言った。
「覚えてるだろ」
太陽は頷いた。
「ああ」
あの日。サークルの帰り道。交差点で事故が起きた。
車と人。被害者は重傷だった。
森川が言った。
「神崎、あのときから変だった」
黒田も頷く。
「ああ」
太陽は眉をひそめた。
「どういう意味だ?」
三上が言う。
「事故のあと、神崎、こう言ったんだ」
三上はゆっくり言った。
「あれは事故じゃない」
太陽は驚いた。
「え?」
森川が言う。
「神崎は、あれは殺人だって」
佐伯の目が鋭くなる。
「殺人?」
三上が頷く。
「そう。でも警察は事故って結論だった」
太陽は聞いた。
「神崎は何を見たんだ」
黒田が言う。
「分からない。でも……」
黒田は低く言った。
「昨日の通話で、神崎の話になったとき」
太陽は息を止めた。
「何て言った?」
黒田は答えた。
「真実を知った」
部屋の空気が凍る。
森川の声が震える。
「それで神崎、言ったんだよ」
太陽はゆっくり聞いた。
「……何を」
森川は言った。
「犯人は、俺たちの中にいる」
太陽の心臓が強く打った。
四人の中。
それはつまり――ここにいる誰か。
おもしろかったら評価、ブックマークよろしくお願いします




