通話は切れてない 第3話
「理由は二つ」
友孝は言った。
「一つ。タイミングだ」
了が目を細める。
「……死ぬ直前のことか」
「そう。首を吊る直前に、録音を再生する余裕があるか?」
小町が首を振る。
「無理だよ……」
「もう一つ」
友孝は続ける。
「音の種類。俺たちは三種類の音を聞いた。引きずる音。衝撃音。そして声」
了が言う。
「……全部録音じゃないのか?」
友孝は即座に否定した。
「違う。理由は単純だ」
一拍置いて。
「音のタイミングが合いすぎている」
小町が顔を上げる。
「……え?」
友孝は続ける。
「俺たちが“呼びかけた直後”に音が出ている」
了の目が鋭くなる。
「……反応してるように見えたな」
「そうだ」
友孝は言った。
「録音は“反応”できない」
二人は考え込むように黙った。
友孝が出した疑問点。
録音なら反応できない。
でも実際は反応しているように聞こえた。
しかし怜は応答していない。
小町が震える声で言う。
「……じゃあ何なの。誰がやったの?」
友孝は静かに言った。
「そこだ。俺たちはこう考えていた。“怜の部屋で音が鳴った”」
了が頷く。
「違うのか?」
友孝はゆっくり首を振った。
「確証はない。でも、もし違うとしたら?」
小町が息を呑む。
「……どういうこと?」
友孝は言った。
「あの音は、怜の部屋のものじゃない可能性がある」
了が低く言う。
「……は?」
小町が混乱する。
「でも、通話してたんだよ!?」
「そうだ」
友孝は頷く。
「だから思い込んでいる。通話で聞こえた音=現場の音。本当にそうか?」
了がゆっくり言う。
「……違う場所の音を、聞かされていた?」
友孝は頷いた。
「つまりこうだ」
通話は繋がっている。
だが音は“別の場所”から流れている。
それを“現場の音”だと思い込んでいる。
小町が顔を青くする。
「じゃあ……私たち、全部、騙されてたの?」
友孝は静かに言った。
「可能性は高い」
しかし──
了がすぐに言う。
「待て。それでも無理だ。怜は死んでる。部屋も密室。じゃあ犯人はどこにいる?」
誰も何も言えなかった。
その問いは重い。
友孝は、ゆっくりと顔を上げた。
そして、はっきりと言った。
「通話の中だ」
小町が凍りつく。
「……え?」
了も言葉を失う。
友孝は続けた。
「犯人は現場にいない。最初から。通話の中にいた」
空気が完全に止まった。
「通話の中に犯人がいる、か……」
了が低く呟いた。
小町は完全に言葉を失っている。
友孝は、二人を順に見た。
「ここからは単純だ。できることと、できないことを分ける」
友孝はテーブルに指で線を引くように言った。
「今回の犯人は、これを満たしている」
通話に参加している。
音声を“操作”できる。
怜の状態を把握している。
アリバイがあるように見える。
「この条件に合う人間だけが犯行可能だ」
小町が震えた声で言う。
「……私たちしかいないじゃん」
「そうだな」
友孝はあっさり頷いた。
友孝は了に視線を向ける。
「まず、了」
了は顔を上げる。
「お前はどうやってそれをやる?」
了はすぐに答えた。
「無理だな」
「理由は?」
「俺は仕事してた。22時までは会議。その後すぐ通話に入った」
友孝は頷く。
「つまり準備時間がない」
「そういうことだ。さらに」
了は続ける。
「録音を仕込むなら事前にやる必要がある。怜の行動を読まないと無理だ」
「そうだな」
友孝は言った。
友孝は小町に視線を向ける。
「次、小町」
小町はびくっとする。
「……私?」
「ああ、小町だ」
友孝は冷静に言う。
「できるか?」
小町は必死に首を振る。
「無理だよ! 私、そんなこと……」
「感情じゃなくて条件で答えろ」
小町は息を整えた。
「……準備、してない。録音もない。怜の行動も知らない」
「つまり偶然頼みになる」
友孝が言う。
「それで成立するか?」
小町はうつむいた。
「……しない」
残る人間は一人に絞られた。
空気が重く沈む。
了がゆっくり言った。
「……じゃあ残るのは」
小町が顔を上げる。
友孝は何も言わない。
「お前か」
了の言葉。
小町が息を呑む。
友孝は意気込む。
「俺の番だな」
友孝は落ち着いて言った。
「確かに条件は満たしている」
了が鋭く言う。
「どうやる?」
「通話中に音を操作する方法だ」
友孝はスマートフォンを手に取った。
「例えばこうだ」
友孝はスマホを操作する。
録音アプリを開く。
そして再生。
小さく、ノイズ混じりの音が流れる。
ザ……ザ……
小町が顔をこわばらせる。
「それ……」
「似てるだろ」
友孝は言う。
「通話中にこれを流す。そうすると」
了が続ける。
「マイクが拾う」
「その通り」
だが、了がすぐに言った。
「でもそれだけじゃ足りない」
友孝は頷く。
「そうだ」
「決定的に足りないものがある」
小町が小さく言う。
「……何?」
友孝は静かに言った。
「怜の死だ」
沈黙。
「俺は現場にいない。通話していただけだ。じゃあどうやって殺す?」
了が答える。
「無理だな」
小町も頷く。
「できない……」
通話で音は操作できる。
しかし物理的な殺害はできない。
現場にいない限り不可能。
友孝は言った。
「つまり。俺も犯人じゃない」
三人とも、完全に詰まった。
行き止まり。
小町が震える声で言う。
「……じゃあ。誰なの?」
了も低く言う。
「条件は揃ってる。でも誰も実行できない」
完全な矛盾。
論理が成立しない。
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