三十話【答】
「それじゃあ戦勝を祝してお祝いだよっ!」
そのスズシロの鶴の一声によって、ここ良之城において宴が開催された。
異彩喝祭の後祭という名目で芸者たちを呼び戻し、そこに便乗して出店も開かれたお祭り騒ぎである。
良之国の民草たちはその故も知らずに、ただその楽し気な雰囲気に身を任せている。
「こ、これがボンレイタケの出汁?なんか怪しげな色してるけど……」
「はい!じっくりコトコト煮出し切った、極上のお吸い物です。こんな見た目ですけどおいしいんですよ?」
そんな宴の一角で、姫妃とコンシロゥが一つの鍋を覗き込んでいた。
その傍らには出涸らしとなった代わりに、本来の潤いを取り戻したボンレイタケがぐったりと横たわっている。
「ささ、姫妃さんも一杯……」
「ずずず……カッ!お、おいしい!」
そのあまりの旨味に姫妃がうなる。
服でも弾け飛ばんやと言わんばかりに目を見開いて、姫妃はあっという間に汁を飲み干した。
半透明をした文字通りの"青汁"は、その見た目に反して繊細な味をしていた。
「あ、あの……私、コンさんにちょっとお願いがあるんですけど……」
「はい?なんでしょうか」
「わ、私に料理を教えてください!」
「!!」
姫妃からの突然の申し出に、変化で隠してあったコンシロゥの尻尾がぴこんと立ち上がる。
「私、その……あんまり料理とか得意じゃなくって……」
「まぁまぁまぁ!それはつまりはそういうことですね!」
「えっ」
「————誰かを、おいしいお料理で魅了したいってことです」
「うっ」
コンシロゥがこそりと耳元で囁く。
まるで姫妃をそそのかすように。
「い、いやー?誰かっていうか自分のためっていうか、花嫁修業というかそうじゃないというか……」
図星を突かれた姫妃はしどろもどろ、あからさまであった。それを見たコンシロゥはくすくすと笑う。
「大丈夫ですよ、私に任せてください!そういうのは得意ですから」
「あ……ありがとうございます!」
「それじゃあまずは何から教えましょうか……姫妃さんは覚えたい料理はありますか?何でも教えられますよ」
「あ、それならあのお団子がいいです。コンさんのお団子美味しかったんで」
「ふむふむ、なるほどなるほど……」
「——サネさんはみたらし団子がお好きですよ」
「な゙っ!?」
コンシロゥは狐耳をピコピコと動かすと、ニコリと笑ってそう言った。
「な、ん……どうして?」
「ふふふ、見てればわかります。私も似たようなものなので」
「えっ、え?」
「心をつかむなら先ずは胃袋から……ですよ?」
「えええっ!?」
コンシロゥは口元に手を当てながら妖しく笑う。それは普段のぽわぽわとした表情からは考えられないほどの、獲物を狙う狐の顔だった。
(こ、コンさんももしかしてサネのことを……)
強力なライバルが出現したのかと姫妃が生唾を飲み込んだ、その時。
「ねぇコンちゃ~ん。お団子持ってない?コンちゃんお手製のやつ~」
「あ、スズさん。出店のお料理はもういいんですか?」
「んー、色々食べたけどやっぱコンちゃんのごはんが一番だよ」
「ふふふっ、そうですか」
(————!)
姫妃は気づく。コンシロゥのスズシロを見やるその視線に。
その瞳に宿る、情念の炎に。
それは偏に、彼女がコンシロゥと同じステージに立ったからに他ならない。
「いまから姫妃さんとお団子を作るので、それで良ければいいですよ」
「やったー!有名店のもイイけど、やっぱお団子はコンちゃんのじゃないとね~」
「ふふふ……それじゃあ姫妃さん、行きましょうか」
「あ、はい」
コンシロゥはヒメに振り返ると、小さくウインクをした。その『力』の成果をまざまざと見せつけられたヒメは、さっきとは別の意味でごくりと喉を鳴らす。
「よ、よろしくお願いしまっす!!」
「およ?姫ちゃんえらい気合の入りようだね。戦にでも行くの?」
「スズさん、お料理はいつだって戦いなんですよ?色んな意味で」
「?」
よくわからずに首をかしげるスズシロを肩車しながら、コンシロゥはその真っ黒な尻尾をご機嫌に揺らすのだった。
…
…
…
(なんか……ホントに終わったんだなぁ)
小高い丘に生えている大きな樹の上で、足をぶらつかせながら物思いに耽る一人の少女。
実秋は、そこからお祭りの喧騒をなんとなく見下ろしていた。
姫妃と違って、実秋はこっちの世界に来てから高い場所が好きになっていた。
下からでは見ることのできないそこだけの景色が、そこには広がっていたから。
「やぁサネ、こんなところに居たのかい」
「あ、師範……と、バネさん?」
そんなサネの元にモミジたちがやって来る。
モミジと肩を組んでうなだれているツクバネの表情は、その新緑の髪に隠されていて樹の上からは見えなかった。
サネが木から降りて二人に近づくと、ツクバネががばっと顔を上げる。
「おいサネぇ~!宴の主役がなーんでこんなとこにいるんだぁ?今から私と一緒に飲むぞっ!」
「ば、バネさん?……うわ!お酒くさっ!」
「あははは!いやぁ、バネはババ様との勝負ですっかり出来上がっちゃってね」
クレナイとの呑み勝負にものの見事に敗北したツクバネは、完全に悪酔いをしていた。
「サネ、お前はよくやったよ。あたしはなんもしてやれてないってのに……お前は凄いやつだよ」
「いやいや!私バネさんにもいろいろお世話になりましたよ?カカシ君のこととか月に行くときとか……」
「そうか?お前がそう思ってくれてるならいいんだけどよ……」
ツクバネはサネの肩に手を置いて、酔っているとは思えないほどのキリリとした表情でそう言った。
……が、すぐにへろへろの酔いどれに戻る。
「なんかあったらわたひに言うんだぞぉ~……なんもなくたって言っていい!わたしがなんでもなんとかしてやるからなぁ!……うっ」
「ちょっ、バネさん!?うってなに!?うって!」
「もう、意地はって無茶するからだよ……ほらバネー?どうどうどう」
「忍はこの程度じゃへこたれないっ!」
「————が!わたしは忍じゃないから……おろろろろぉ」
「ば、バネさーん!!」
「あちゃあ、ダメだったか」
あわやサネがゲロまみれになるその前に、モミジが変わり身の術もかくやという速度でバネを樹の根元に運び置く。
丘上の植物たちに、埒外からの栄養が供給されていった。
「ほらバネ?お水を飲むんだよ」
「おうっぷ、鼻に入ったぁ……」
「じゃあ鼻もすすいでおきな」
ツクバネの介抱をするモミジの手つきは、やけに手馴れていた。
ツクバネを頼れる姉貴分だと思っていたサネは、それを微妙な面持ちで見ている。
「ごめんねサネ?バネがどうしても話したいってぐずるから連れて来たんだけど……」
「うぅぅ~アオイぃぃ~!ごめんな役に立てなくてぇ~~……うっうっ」
「バネさんバネさん?私はアオイさんじゃないですよ?」
「うーん、こりゃダメそうだね」
「バネ、ちょいと失礼するよ————そぉい!」
「ぎゃばっ!?」
サネに泣きながら縋り付くツクバネの首筋に、モミジの手刀が襲い掛かる。
その鋭い一撃はツクバネの意識をものの見事に刈り取っていった。
モミジは倒れるツクバネに手やって、そのままそっと地面に寝かせてやる。
「おお、これが伝説の首トンかぁ。客観的に見るとこんな感じなんだ」
「バネのせいでやたら首当てが上手くなっちゃってさ……この首当てでボクの右に出る者はいないよ」
「お騒がせしたねサネ。バネはボクが責任を持って寝かしてくるよ」
「だ、大丈夫ですかね?バネさん……」
「いつものことだよ。心配ないさ」
「ぅぅぅ、アオイ……モミジぃ……」
何やらうなされているツクバネを、モミジは優しく撫でてやる。
「アオイがいなくなってから……バネは時たまこうなるんだ。ま、たまには溜まったものを吐き出させてあげないとね」
「……」
モミジがしんみりとそう言うと、サネは何かを思いついたように口を開いた。
「師範、あの……みんなも言ってたんですけど、私って結構アオイさんに似てるんですよね?」
「んー?……まぁ似てるんじゃないかな。よくよく見ると細かいところはけっこう違うけどね」
「てことは……私って実はアオイさんの生まれ変わりだったり?!」
そんなサネのとんちきな意見にモミジが笑う。
「おお!面白い考察だね……んー、可能性はゼロじゃないと思うけど、それだったらスズがもうちょっと反応してると思うんだよね」
「あ、そっか。スズちゃんはそういうのわかりますもんね」
「……そっかぁ。もし私が生まれ変わりだったら、もっとバネさんに違った形で恩返しが出来ると思ったんですけど」
「——もちろん、モミジさんにも」
「……アオイのことを気にしてくれてるんだ?ありがとねサネ」
しかしモミジは首を振る。
「でも、サネはサネだ……これはサネがアオイの代わりにはならないって意味じゃなくって、ボクらはサネがサネとして好きなんだよ」
「だから、サネはサネのまま、アオイの代わりに成ろうとする必要はないんだよ……サネにアオイを重ねてたボクが言えた義理じゃないけどね」
「たとえ何処にたどり着いたとしても、ボクらは仲間だ。たとえサネが何になろうとも……ボクはサネの姉範で、サネはボクの娣子」
「————それだけは、変わらないことなんだよ」
そうやって言い切るモミジの表情は、憑き物が落ちたような爽やかな顔だった。
「師範……はい!ありがとうございます」
「ふふ、悩める娣子のお役に立てたかな?」
「はい!なんというか……考えがすっきりしました!」
「うんうん、それは良かったよ」
「————ねぇサネ?君のその顔を、もう一度ボクに良く見せてくれないかな」
「?……あっ!へへ、いいですよ」
モミジがサネに手を差し出す。
二人の出会いを思い出したサネは、その手に自分の頭をゆだねた。
いわゆる顎クイのポーズで、モミジはサネの瞳を覗き込む。
サネの瞳に自分の姿を映しこんで、二人は瞳で交わった。
黒い藍色と赤橙の視線が交差する。
モミジは確信を得たように一度瞑目すると……
そのままサネのおでこにキスをした。
「も、モミジさん!?」
「……アオイが眠れない夜は、良くこうやってしてあげてたもんだよ」
「な、なるほど……?」
「————想うがままに進めばいいさ。サネはボクの一番娣子だからね」
「……!はいっ!ありがとうございます師範!」
モミジは気絶しているバネを抱えて、どこかへと駆けて往く。
サネはそれを、丘の上からずっと眺めていた——
「想うがままに……かぁ」
「なにがー?」
「どわぁい!?スズちゃん!?いつの間に!?」
「『想うがままに』って辺りかなー?」
「今じゃん!」
び、びっくりしたぁ!いまのは完全に意識外からの攻撃だったよ。
くそう。今んところスズちゃん相手だと全敗だ。一回もビックリを耐えられた事がないや。
そんな私の反応を見て、スズちゃんは満足そうにニシシと笑っている。
「なーにを戯れとるんだお主らは」
「あ、ガマ殿もやっほー。二人とも何やってるの?」
「わたしはサネをからかいに来た!」
「儂はこやつのお目付けじゃ。ほっとくと何するかわからんでな」
「だから実秋……悪いが犠牲になってくれ」
「私をスズちゃんに捧げようとしてる!?」
「うむ!苦しゅうないぞガマゲロー!スズガミさまのお通りだい!」
スズちゃんがばしばしとガマ殿の頭を叩く。
たぶん、ここに来るまでにさんざっぱら振り回されてきた後なんだろう。ガマ殿にはなんだか覇気がなかった。
まあでも、スズちゃんと遊ぶのはやぶさかではない。色々と考えすぎちゃってたところだし……
「それでそれで?サネはこんなところで何を一人で黄昏てたの?暇だからこのスズガミさまが相談に乗ってしんぜようじゃんか」
「えっ」
とか思ってたら、スズちゃんの方からストレートが飛んできた。
もしかして……師範もそう思って色々言ってくれてたんだろうか?
私ってそんなにわかりやすいの?
「……顔にでてたかな?」
「見なくてもわかるぐらいにはね」
「スズシロよ……この宴はお前が言い出したんだぞ?もう飽きたのか?」
「えー?一通りは堪能したよ?」
スズちゃんはニヤリと笑って可愛らしく首を傾げた。わーお、悪女だねぇ。
「まぁ、スズシロが変なことせんのならなんでもいいわい」
「それじゃあお目付けからも許可がでたところで……ハイ!サネさんからお悩みをどーぞー!」
「え、ええ?ええっとぉ~……」
「……なんというか、道に迷ってるといいますか、今後の身の振り方を悩んでるといいますか……」
「なぬ?後はもうあっちの世界に帰るだけだろう?まだなにかあるのか」
「まさにそこなんだよね、悩んでるのは」
「こっちに残るって選択肢が選べるようになったから……どうしようか悩んでて」
「「……」」
私がそう言うと二人は真剣な顔になった……いや、スズちゃんは相変わらず飄々としてるけど。
もしかすると、シノノメさんの一件で色々と思うところがあるのかもしれない。
真逆だもんなぁ、私の言ってることは。
「贅沢な悩みだな……いや、イヤミではないぞ?むしろ儂はそうあるべきだと思っておる」
「ふむ?」
「ただ一つの道しか選べぬよりは、そっちのほうが幾分といいだろう。大いに悩むといい。それが若い時分の特権だ」
「お、ガマゲローがなんかジジ臭いこといってる」
「名実ともにそうであるからな」
ガマ殿はもっともらしく腕を組んで頷いている。なんというか、その発言には深みがあった。
色々あって忘れてたけど、ガマ殿もちゃんとしたお殿様なんだよね。
「どちらを選んでもそれはお前の歩んだ道に他ならない。所詮選ぶ前に悩めることには限界があるからな。ならば、進むのみよ」
「……進んだその先で、後悔しないかな?」
「後悔はする。必ずする。それは絶対だ」
「ええっ!?」
そしてガマ殿はガマ殿らしく、その大きな口でにやりと笑った。
……なんかこう見ると笑い方そっくりだな、この二人って。
「だが、それすらも飲み込んで我が身となる時がいつか必ずやって来る。お前はそれを、目の当たりにしたはずだろう?」
「ガマ殿……うん、そうだね」
あの時、スズちゃんの告白を聞いたあの時に。
それを、ヒメがぶった切った、その時に。
きっとガマ殿の中では色々と決着がついたんだろう。
良い方向に……長年の抱えていたオモイに、一つの答えを出したんだ。
そのガマ殿の言葉に感じ入っていると、スズちゃんはひっくり返るぐらいの角度で首を傾げた。
「うーん……すっごい良いこと言ってるけど、でもそれなんの解決にもなってないよね。サネの現状は変わんないじゃん」
「むぐ……それはそうだが……」
「わたしが思うに、サネの中で答えはもう出てるんだよ」
「えっ……?」
その体勢のままスズちゃんがちっちと指を振る。
「サネに足りないのは向き合う勇気だね」
「向き合う……勇気?」
「うん。それは選び取ることだったり、すくい上げることだったり、汲み取ることだったりもするよ」
「それはね、全部おんなじことなの。自分の内にある答えを、奥底にあるオモイを、どんな形であれ外に出すってこと!」
「そしたらサネは受け止めないといけない。外に出してあげた『自分』が、どこにたどり着くのかを。その結果を、受け入れないといけない」
「そうして初めて『次』に進めるんだよ。今を味わいつくしたその先で、新たな楽しイイが見つけてもらえるのを……今か今かと待ってるんだ」
外に出した……自分自身。
答えは自分の中にある。
それはつまり、私の答えは————
私が今向き合うべきなのは————
「だからね————まわれー、みぎっ!」
「えっ……えええっ!?ちょっとスズちゃん!?」
スズちゃんがすいと指を振ると、私の身体が勝手に動き出しはじめた。こ、これはまさか!いつのまに!?
「相変わらず"懐"が甘いねぇ。『ぷろ』は発動したことすら気取らせないんだよっ」
スズちゃんは懐からお団子を取り出すと、それを口に放り込んでケタケタと笑っている。
「な、なんでぇ!?」
「一人で抱えてても話は終わらないよ!ちゃんと『二人』で考えなきゃ!」
「っ!」
『……古い未練なんて振り切っちゃいなよ。あの時、風に乗って月にまで行っちゃったみたいに!』
頭の中にスズちゃんの声が響き渡る。
『楽しイイ人生は、待ってくれないんだからさ』
『……うんっ!』
私の身体は、どこかに向かって走り始めた!
私はそれに、身を委ねる。
「スズちゃーん!ガマ殿ー!二人ともありがとねぇ~……」
サネがぎこちなく頭だけで振り返りながら走り去っていく。
スズシロはそれを見届けずに、さっさと鎌下郎の肩に飛び乗った。
まるで、もう手助けは必要ないとでも言わんばかりに。
「……あれでよかったのか?」
「わたしはみんなと違って無責任だからね。こうやって直接背中を押せるんだよ」
「こういうのも人生でしょ?手を引いてくれる人とか、背中を押してくれる人がいるってのもさ」
スズシロは自分が四方に来た時のことを思い出していた。
かつて自分がしてもらったことと、同じように。
サネは『先』へと進み始めた。
かつて自分が示してもらったキラキラの道を。
彼女は今も歩み続けている。
次はどちらに進むのか、その楽しみに身を任せながら。
「……ま、それもそうだな。自分だけではままならんことがあるのもまた人生だ」
「でしょ?……あーあ、わたしもそろそろ帰んないとなぁ。お姉ちゃんにも謝らないとだし」
「なんじゃいスズシロ……お前妹だったのか?」
「そうだよ?意外?」
珍しく純粋に聞き返したスズシロに、鎌下郎が喉を鳴らす。
「カッ!まさか。お前のような姉がいてたまるものか」
「なにおう!ガマゲローなんて昔はあんなにぴょこぴょこと私の後ろをついてきてたくせに!図体も態度もどんどんでっかくなっちゃってさー!」
「今からでもスズ姉ちゃんが昔のことを思い出させてあげよっか?んー?」
「……前言撤回じゃ。確かに姉ではあったな。弟を虐げるほうの」
とびっきりご機嫌な声でそう言うスズシロに、鎌下郎がげんなりとする。
それでも彼はスズシロを振り落とさずに、ゆっくりと宴の中に戻っていった。
別れがきたるその時までに。
彼女に振り回されることを、是としながら。
…
…
…
走る走る、走れ私!どこまでも!
スズちゃんの術はとっくに切れている。今走っているのは、紛れもなく自分の意思でだ。
答えはずっと、私の『底』にあった。
それに気づけたのはみんなの……
ヒメのおかげだ。
「あ!ヒメいたっ!」
「さ、サネ!?どどど、どうしたのそんな慌てて……」
ヒメに駆けよったら何故かびっくりされた。なんか集中してたのかな?
手元を見ると、ヒメは何やらコンさんと一緒にお団子をつくっていた……青空お料理教室?
「おやおやサネさん良いところに。ちょうどヅマさんのお団子が出来あがったところですよ」
「そうなんだ……ヅマさん?」
「それではヅマさん。私はスズさんにこれを持っていかないとなので……後のことはお任せしますね」
「シロコン……わかった。ありがとね」
コンさんがヒメに目配せをすると、なにかが通じ合ったのかヒメは力強くうなづいた。
あれ?なんか二人があだ名で呼び合うぐらいに仲良くなってる!?
「それではサネさん。ヅマさんを任せましたよ」
「あっ、はい」
コンさんはフリフリとふかふかの尻尾を振りながら、お皿を持ってどこかへと消えて行った。
「……なにがあったの?」
「同志として仲良くなったのよ」
「?」
「そんな事より……お団子、作ったんだけど食べる?」
ヒメはみたらし団子がこんもりと乗ったお皿を手に持って、おずおずとそう言ってきた。
なんかちょっと恥ずかしそうだし……もしかして秘密の特訓だったのかな?悪いことしちゃったか。
「うん!食べる食べる!……あ、それならちょっとロケーションを変えようよ!」
「ん……まぁそうね。どっかで座りながら食べましょうか」
『話』のいいお茶請けが出来たことだし……そうなると、邪魔が入らない静かな場所で話したいな。
その辺の雰囲気を考えると————あそこだ!
「ヒメ!飛ぶよっ!」
「へ?……どわぁああ!?」
私はヒメを抱え上げて飛び上がる。
ヒメはもちろん、お団子も落とさないように気を付けて……
「とうちゃーく!」
私たちは良之城の天守閣の、そのさらに真上にたどり着いた。
まさしくお城の『天辺』。その天辺の左右には、何故か鹿の角が生えた金ぴかのしゃちほこがこっちをじっと見てきている。
私はその天辺部分にヒメを腰掛けさせてあげた。
「~っ!なぁんでこんな危なっかしい場所なのよ!なに!?吊り橋効果でも狙ってんの!?望むところよ!」
「いやぁ、ここなら景色もいいし、満月も良くみえると思って……いわばお月見団子だね!」
空を見上げれば、すっかり普通のサイズに戻った満月が煌々と輝いている。
遠くからはお祭りの喧騒も聞こえてきて、かなり良い雰囲気を醸し出していた。
ここに花火でも上がってればさらに完璧だったね。
「二人きりでゆっくり話したいこともあったし……ここなら邪魔も入らないかなって」
「えっ!?は、話したい事!?月を見ながらっ!?二人きりで!?」
「え?う、うん、そうだけど……」
「あわわわわ」
私がそう言うと、ヒメは何故か慌てだした。
そしてものすごいスピードで乱れた髪を整えだす。
おお、相変わらずのサラサラヘアーだね。一瞬で乱れが元に戻った。
「おほん……い、いつでもどうぞ」
「なんでそんなにかしこまってるの?」
「い、いやだって、サネからそんな風に言ってくるなんて……大事な話かなって」
まぁ、それはそうだけど……いや?
私にとっては結構、いやかなりの重大決定だったわけだけど、もしかしてこれってヒメには全然関係のない話なんじゃないか?
ど、どうしよう……ちょっとテンション上がっちゃってこんなところまで来ちゃったけど……これで『なんだそりゃ』って反応されたら恥ずかしいっていうか立ち直れないっていうかショックっていうか傷つくっていうかっ!
「……」
まずい!ヒメなんかすっごい期待した目でこっちを見て来てるし!
やばいやばい!話の期待値上げすぎたぁ!
「お……」「おっ!?」
「————お団子!いっこ貰うね!」
「あ、なんだそっちか……」
私は備え付けのつまようじで、みたらし団子を一つ口の中に放り入れた……むっ!?
この生地のもっちり感……素朴な甘みと、それを包む甘じょっぱいみたらしの絶妙さ……
「うっ……」「う!?」
「————うまいっ!これ美味しいよヒメ!めっちゃうまくできてる!」
「な、なんだそっちか……どう?私の腕も捨てたもんじゃないでしょ」
「うんうん!すごいよ!真っ黒な卵焼き作ってた人とは思えないや!」
「そうでしょうともそうでしょうとも」
「……だから、サネが食べたくなったら、またいつでも『私』が作ってあげる」
「え?ほんとにっ?やった!」
これは素直に嬉しい。
正直、このクオリティのお団子がいつでも食べれるなんて僥倖が過ぎる。
「私は和菓子派だからね……三度のケーキよりもお団子なのだっ!」
「へぇ、そうなの?……それで?大事な話ってのは?」
「うっ、ごまかせなかったか……」
「なによ、そんなに言いにくい事なの?」
「……別に、取って喰いやしないんだから言ってみてよ。何か悩んでるなら相談に乗るし」
期待から反転して、今度はヒメに心配されちゃった。うぅ、今はその優しさが身にしみる……
……別に、言っちゃってもいいのかな?私が気にし過ぎで……いや。
私こそ期待しすぎているのかもしれない。期待しすぎて『いた』のかもしれない。
周りにも……世界にも。
別に、それで期待外れだったとしてもそれらの魅力がなくなるわけじゃないってのに。
私は……私は。
友達とこんなやり取りなんてしたことないからわかんない。けれど……
(……でも、友達だからこそヒメには聞いてほしい)
私はそう思った。ヒメには話しておきたいって。だから、私の足はヒメの方に向かって走り出したんだから。
私のことを。私の気持ちを。私のオモイを……
分け合いたい。
分かり合いたい。
分かち合いたい。
それで————
「ねぇヒメ……私、私ね……」
「うん」
「————私、向こうに帰ろうと思う」
————ヒメはこんな私をどう思うんだろうか。
ただ、それだけが気がかりだった。




