二十六話【風】
その『星』を目撃したのはなにも民草たちだけではない。
「あれは……サネだっ!」
『むぅぅん』
三人の貴公子を完全に無力化したモミジが空を見上げる。彼女の身体は考えるよりも早く、その下へと向かい始めていた。
「おお!あれはまさに伝説の【風魔忍】!まさかお目にかかれる日がこようとは!」
「あれが何か知っているのか左衛門」
左衛門と鎌下郎の周りには炭と化した破竹兵の残骸が山のように連なっている。
竹帝からの追加も途絶えた今、良之城での戦いは終結に向かっていた。
「原初の忍が修めた『忍法』の一つでございます。神道術を修めたものにしか扱えぬ故、忍法は使える者が途絶えて久しいのですが……」
「とすると、あの輝きは神の力か」
「左様。しかしそれを身に纏っているのはサネ殿です。であれば、林の神々は彼女の味方に付いたと見て良いでしょう」
「"樹を見るは今"……か」
「よし!左衛門!儂らも化身の下へと向かうぞ!」
「かしこまりましてございっ!」
「あっ!わたしもいくー!」
鎌下郎がいち早く動き出し、それに合わせてスズシロたちも呼応した。
「コンちゃーん!背中のーせてっ」
『はいはーい!』
「全くやれやれだねぇ。そいじゃバネちゃんはアタシと城で後処理をしようか」
「ババ様!……あたしも向こうに行ってきていいか?」
ツクバネの申し出にクレナイが面をくらう。
いくつかの否定の言葉が思い浮かんだ後に……クレナイは頭を振ってそれを払った。
偏に、ツクバネの視線が真剣であったが故に。
「……はぁ、しょうがないねぇ。ここは私がやっとくから、バネちゃんも行ってきなね」
「助かるっ!」
「……アンタに何かあると大恩あるお二方に顔向けできないからねぇ。気を付けていくんだよ」
「そんなの……もう十分に返してくれただろ?家を無くした私を引き取ってくれた時に……」
「まだまだ足りないねぇ」
クレナイは照れ臭そうに頭をかくと、そのまま戦後処理へと飛び消えた。
『バネさーん。行くなら私の背中に乗ってくださいな』
「あ、おう。頼むぜコン!」
「珍しいじゃん。バネが前に出てくるなんてさー。どういう風の吹き回し?」
スズシロはからかうように問いかける。
いつも引いた目線で物事を俯瞰し、率先して前に出るようなことをしてこなかったツクバネに対して。
「どうもこうもねぇさ……ただ、後ろに引っ込んで裏から遠まわしに手を貸すだけじゃダメだと思ってな」
ツクバネは頬をかきながらそう言った。
その脳裏には、かつて同じ釜の飯を食った蒼色の少女が思い浮かんでいる。
それは、今もなお突き刺さり胸を痛めつけている後悔である。
彼女とさらけだし合った胸の内に、分かち合った心の中に。
交わした言葉がトゲとなって刺さっているのだ。
他の誰でもない、ツクバネだけは。
彼女の苦悩を、理解していたのだから。
「あいつらに……『仲間』の為に、もっと何かしてやりたい。あたしは戦闘はからっきしだが、まぁなんかできることもあるだろ」
「ふぅん……ようやく領主の娘としての自覚が出て来たってわけだ!」
「よせよ、あたしはそんなタマじゃないって!そもそも没落領主になんの力があるってんだ」
「いいじゃんいいじゃん!そういうの。熱血ってやつだね」
「そ、そうかぁ?」
「————だってさー火鼠。どうする?お前もお姫様たちを助けにいく?」
『ぢゅぢゅう……』
「見守るだけじゃ物語は始まらないよ?まずは自分から動かなきゃ」
スズシロの手の中には、小さく丸まった火鼠がすっぽりと収まっていた。
何故か貴公子と意思疎通をしているスズシロにツクバネが首をかしげる。
「スズ、そいつはホントに大丈夫なのか?一応敵だったわけだが……」
「だいじょーぶだよー。わたしたちは戦いを通じてお互いをわかり合ったんだからさ。んねー?」
『ぢゅ!?ぢゅぢゅぢゅっ!』
「すっげー抗議してるようにも見えるが……」
火鼠の尻尾をくるくると弄びながら、スズシロはコンシロゥの背に仁王立つ。
「モミジもバネも、火鼠もみーんな一緒だよ。想うだけじゃ、支えるだけじゃ、眺めてるだけじゃ本当に欲しいものはやってこないんだから」
「楽しイイは自分で手繰り寄せないとね!」
「耳が痛いね、まったく……」
『ぢゅ……ぢゅぢゅっ!』
「うん、よく言った!それでこそカグヤさんの一のしもべだよ!」
覚悟を決めた火鼠がスズシロの手の中から飛び出していく。
大きくなって地面に降り立った火鼠は、威勢よくその黒い毛皮から炎を立ち昇らせた。
それを見たスズシロは腕を組んで、満足そうに一つ頷く。
「んじゃ!みんなで仲良くカチコミといこっか!」
「応っ!」『はーい!』『ぢゅう!』
「遊びではないのだぞスズシロぉ!」
「まぁまぁ殿、良いではないですか」
相も変わらないスズシロの態度に唾を飛ばす鎌下郎と、それを取り持つ左衛門。
そんなスズを見て嬉しそうに尻尾を振るコンシロゥに、迷いなく化身を睨みつけているツクバネ。炎で道を照らしながら、皆を先導する火鼠。
星の輝きに導かれ、今、サネの下へと仲間たちが集結しようとしていた。
* * *
「どわあああ!?これっ、全然制御できないんですけどおおおおっ!?」
そんな当の本人であるサネは、風魔忍を制御できないでいた。
あっちにふらふらこっちにふらふらと空を舞う……というよりも、道しるべを失ったミツバチのようにサネは空の中を無軌道に彷徨っている。
星が落ちてきたという表現もあながち間違いではない。サネの高度は祀り林を抜け出した時よりも、明らかにどんどんと下がってきているのだから。
「名無しさんたちー!?使い方も教えといてよぉ~~!!!」
————林の神々がサネに施した【風魔忍】の術は、大小それぞれ二つの手裏剣を背中と足首に形成する。
神の力のその輝きが凝縮された手裏剣は、背中側に羽のように、足首の側面に車輪のように配置され、それらがぐるぐると空を切ることで風を生んでいるのだ。
皆が落ちてくるサネを星と見まごうたのも、その輝きはもちろん背中で回っている大きな五つ刃の手裏剣を見てのことである。
星が存在しないこの隔裏世において、『星』という概念を知らしめた逸話はただの一つしかないのだから————
「サネー!落ち着くんだっ!」
「し、しはぁん!?無事だったんですね!」
「ボクの方はね!ほら、一旦ボクにつかまって————」
バチっ
「っ!?」「どわあ~~……」
(なんだこの術は?風がボクを弾くみたいに……)
墜落しているサネを抱きとめようとしたモミジが『風』に弾かれる。
そして、それに反発するようにサネ自身は再び高く舞い上がった。
通常、術とは既存の法則に則りそれらを組み合わせるものである。風を生むのもそれを操るのも、全ては万象定理の延長線上に過ぎない。
だが、忍法はその名の通り『法則』そのものを定める。それはすなわち、忍法の下では既存の定理からは考えられない挙動が観測されるのだ。
世界の理を己のままに。
故に忍法とは極意なのである。
風魔忍は風を支配し、空を自在に翔る為に編み出された唯一無二の飛翔術である。
手裏剣が回し切った空気は術士の周囲を渦巻いて、その輝く風の層はあらゆる全てと反発する。
————例えそれが、重力であっても。
「おおお!地面に降りれない……私浮いてる!」
「なるほど、この星型の手裏剣が反発する風を生んでいるんだ。これはどういう原理なんだろうか……」
「師範師範!ほら私、地面と平行に移動できますよ!」
「そしてこうやって下方向に移動しようとすると~……?」
なんとか地面に降りたった二人は風魔忍を分析する。
サネが羽手裏剣を回して浮いている足裏を地面に押し付けると、まるで跳ねる前のゴムまりのように風の層が楕円に広がった。
押し付ければ押し付けるほどに風の輝きは増していく。
「とーう!」
「おお!なんて反発力だ!」
そしてサネが押し付けるのを止めると、その反動と言わんばかりにその身体は空を舞う。
垂直に飛び上がったその距離は有に林の木々をも超えて、サネを空へと連れ去った。
時間対効果を考えれば破格のエネルギー交換性である。
「師範!私はこれでどうすれば月に戻れますか!もうヒメの婚儀が始まっちゃってるんです!」
「なるほど、それじゃあ急がないとなんだけど……」
「……これはすごい術だよ。でも多分、ボクが全力でサネをかっ飛ばしても月までは届かないだろうね」
「うむむむむ……」
「だから、『アレ』を使おう!」
モミジが指をさしたのは、彼女らの後方で今もなお聳え立つ巨大な像。
「帝の化身?」
「この術は反発で力を蓄え飛びあがり、それを風力に変換しながら空を飛ぶとみた」
「だからボクがサネに初速を与えて、そのまま化身に術を擦り付けながら上を目指す!」
「おお!?」
「そして、その頂点で蓄えた力を全て風力に変換して……月まで一気に飛び抜けるんだ!」
「なるほどっ!化身を滑走路にするってことですね!」
サネの脳内には帝の頭頂部から飛び立つ自分の姿が映し出されている。それは飛行機というよりは、どちらかと言えばロケットであった。
もしくは足裏からジェットを噴き出して飛ぶ古のロボットか。
「か、かっそうろ?……はよくわかんないけど、これなら力も蓄えられるし出発点の高さも確保できる。ただ地面から飛び立つよりも現実的だよ」
「すごいっ!流石ですよ師範!完璧な作戦じゃないですか!」
「いやいや、それほどじゃないよ」
モミジはちょっと照れ臭そうに頭をかく。その仕草はクレナイとそっくりであった。
娣子に喜ばれるのは嬉しいことだが、そう楽観視はできないと彼女は考えていた。
「正直この術は未知数だ。あとは実際にやってみてどうなるかだけど……」
「大丈夫ですよ師範!私、なんだか行けるような気しかしてませんから!」
「————だから私に、『いつもの』をくださいモミジさん」
「……!」
サネは拳を握って何か乞う様にモミジを見た。
モミジは、彼女のその眼を見たことがあった。あの時、鉢に閉じ込められた中で見せた、強い意志が込められた瞳だ。
目と目が合うだけで姉娣は通じ合う。それだけで、モミジの心中を満たしていた様々な不安が風と共に流されていった。
「ふっ、もちろんいいとも」
モミジはサネの背を軽快に叩く。
まるで行って来いと、やってこいと背中を押すように。
背中から伝わる師からの激励が、サネの心を震わせた。
「がんばれボクの一番弟子!サネにならできるさ!」
「はいっ!不詳、武者転ばしのサネ!頑張りまっす!」
「……ふふっ」「へへへ」
二人はどちらともなく笑い合った。
これはただの根性論だ。
何の保証も根拠もない、ただの言葉の応酬にすぎない。
それでも二人の間には、きっと何とかなるという不確かな、だけれど確かな実感の火が灯された。
エネルギーは増幅していく。それはなにも、物理法則だけに限った話ではない。
「よし!それじゃあいっちょやったろうか!」
「はいっ!やったります!」
「いざ!月を目指してロケット作戦だっ!」
オモイの風に吹かされて、決意の炎は燃えあがる。
ちっぽけな灯りを抱えたまま、それでも不明の未来を必死に駆けて往く。
人はそれを、勇気と呼ぶのかもしれない。
* * *
「しはーん!お願いしまっす!」
「よし!バッチコーイ!」
私は出来るだけ林の中で助飛翔をすると、そのままモミジさんめがけて突っこんだ。
モミジさんの刀が紅く煌めく!
「サネ!ボクの力を……受け取ってくれっ!」
私はその意図を一瞬で理解した。
モミジさんの鋭い一線を、足の手裏剣で受け止める。
紅いキラメキが弾けて瞬く!
「いっくぞおおおお!」
薄黄色だった手裏剣が、色のない透明な風の層が、モミジさんの力を受けて紅く染まってゆく。。
「サネ!行ってらっしゃい!」
「ハイっ!行ってきまーす!」
私はそのまま、空に向かってモミジさんにかっ飛ばされた!
ヨシ!いい速度だ!
この勢いのままに風を操作!化身に押し込むようにぃ~……!
「んぐぐぐぐぐぅ~!!!」
弾かれちゃダメだ弾かれちゃダメだ!
もっと、もっともっともっと!
できる限り力を蓄える距離が長くなる様に、私はわざとぐるぐると遠回りに化身の体を這っていく。
引っかかりそうなステージを避けながら、外に外れないように常に中心を意識して。
ぎゃりぎゃりと音を立てている風の層は、今にも弾け飛びそうになっていた。
(術の制御は意志の力っ!)
モミジさんに教えてもらった術制御の極意!私が気を緩めない限りは、この状態を維持できる……はず!
まだ飛び立ってもいないのに、私の移動スピードは過去最高速度を更新し続けている。
「うぉおおおおおおっ!」
目が回るのもお構いなしに、私はトップスピードで化身の顔面をこすり上げた。
風の勢いに耐えきれなくなった竹がバキバキと砕けていく。
「発射ぁーーーっ!」
頭のてっぺんで、ちゃんと真上に弾かれるように調整して。
私は宙を目指して飛び立った。その反動で帝の頭が半壊する。
「うおおおお!?」
はっ……やい!
瞬きする間に雲を突き抜け、宇宙船私号は空の境界に到達した。
……けど。
「減速してる!?」
それでも月には届かない。
風の層が何かに接触している感覚だけがある。それで変換されたエネルギーをその都度風に変えて推進力にしてみるけど……ダメだ!全然足りなさそう!
「それならもう一回だ!」
勢いが尽きる前にUターンして、今度は頭の方からぐるぐる巻き付いて二周分蓄える!
実質的なストロークはさっきの倍以上だ!
「これならどうだぁ!」
……ダメだ!まだ足りない!
速度は充分なのに……多分風が足りないんだ!宇宙には風を生む空気が無いから!
術を支える風の層がなくなって減速してるのかも……
いわば、燃料がどんどんと減っていってる状況だ。
だから、そうならないように空気をたっぷりと含ませて、風の層を大きくしないとなんだけど……でもそんなのどうやって!?
……いや、重力も宇宙も成層圏も、その全部をぶち抜けるぐらいの勢いで突き抜ければいいんだ。
あと何周すれば宙を突き抜けられる?そもそもこの術でそこまでできるのか……否!
「できるまで何度だってやるだけだよっ!」
できるまでやればなんだってできる!
今の私の辞書には、諦めるっていう言葉に二重線が引かれてるんだから!
できるまでリベンジだ。次は三周……いや!四周してから————
『サネー!こっちだよサネー!』
「っ!?す、スズちゃん!?」
頭の中に、突然楽し気な声が鳴り響く。
『足りない"ぴーす"を埋めにきたよっ!————加速は十分!あと足りないのは風力だってー!』
「やっぱり!じゃあ私はどうしたらいい!?」
「————だいじょーぶ!風はわたしたちが起こすよっ!」
高速で移動している刹那の一瞬、今度はちゃんとしたスズちゃんの声が、確かに私の耳に届いてきた。
「みんなぁ!」
スズちゃんが、コンさんが、バネさんが、もちろんモミジさんにガマ殿と左衛門さんとなんでかわかんないけどあのネズミの貴公子も!
みんなが、化身のステージに立っていた。
「スズ!こいつを好きに使っちまってもいいんだな!?」
「使い捨ててるんだからこいつはただの木偶の坊!やっちゃってバネ!」
「よしきたぁ!」
「こんな良い素材を使えるなんて腕がなるぜっ!」
バネさんがハンマーを化身に振り下ろす!
砕かれた竹材が独りでに浮かび上がって、何かが組み立てられていった。あれは……
「扇風機!……の、羽!」
「ぃよいしょー!!」
扇風機の羽が瞬く間にたくさん作られたかと思うと、バネさんの手によってその中心に棒が突き刺される。
そして、そいつはその全部を覆えるほどの大きな竹筒にすっぽりとはめ込まれた。それは先端の方が細くなってて……
「これっ、ドライヤーだ!」
「スズ!この磁石はここでいいのか!?」
「うん!そこにはめ込んどいて!」
「モミジぃ!土台を支えといてくれ!左衛門さんは私の組み立ての手伝いを頼む!」
「了解だよっ」
「ハッ!おまかせあれぃ!」
もはやドライヤーも超えて、飛行機のエンジン部みたいになってきた。ジェット機!?竹でジェット機作っちゃうの!?
「それじゃあお次はコンちゃんの出番!」
『はいはーい!カタユキコンコン、こぉーーーーん!」
コンさんが可愛らしい遠吠えをすると、その目の前にでっかい氷塊が作り出される。
「次は火入れ組!」
「よしきた!いくぞネズ公!」
『ぢゅう~~~!!!』
ネズミの貴公子が身体から炎を出して……ガマ殿がそれを吸い込んだぁ!?
「オン!ソワカぁ!!!」
ガマ殿の口の中から、さっきよりも勢いの強くなった炎が噴き出される。それがコンさんの出した氷を包み込んで、ものすごい勢いで蒸気が上がった!
「【火餌流】の鎌下郎とは儂のことよぉ!」
『ぢゅう!』
「そして仕上げはこのわたしっ!
————シャクライタイテン!インドラハぁーーーー!」
天に突き立てたスズちゃんの指先から、紫色の雷が迸る!
それがバリリと組み立てられた絡繰に通電していって……
「おお!羽が動き出したっ!」
「よし!オメーら成功だぁ!」
————ぶぅんと動き出した絡繰は、後方の蒸気を吸い込んでその先端から風を吹き出した。
火鼠の炎は特別性だ。それは通常の術で熾された火と比べて、数倍ものエネルギーを含有している。
それを鎌下郎がさらに増幅させ、コンシロゥ渾身の氷塊と干渉させることで膨大な蒸気を生みだした。それはそのまま暖められた周囲の空気と共に上昇し、大きなうねりを伴った気流となる。
それだけでは単なる空気の流れ。それをツクバネが作り出した絡繰がその全てを余すところなく吸い込んでいく。
その原理は至極単純だ。スズシロの紫雷がモーターを高速回転させ、シャフトに合わせてファンが動く。ファンが回れば空気が吸い込まれ、その流れは風となって筒の中を進む。
先細り狭くなっていく筒の中で風は更に圧縮されていき、その勢いを増してゆくのだ。
そして重要なのは、この一連の流れが物理法則に従った自然現象ではなく、いくつかの術の連係によって引き起こされたものだということだ。
その全ての過程はエネルギーの変換と増幅によって説明できる。
つまり。
ドライヤーの先から放出されるまでに費やされた全てのエネルギーはそれぞれの過程で流動しながらも増幅されていき————
結果。莫大なエネルギーを伴った指向性の暴風となって、サネの下へと届けられたのだ。
『サネー!左衛門からの伝言!手裏剣を縦に重ねて、それで風を受けろだって!』
「っ!わ、わかった!」
言われた通りに手裏剣を互い違いに重ねると、周囲の風の流れが明らかに変わった。
なんというか薄く広く、この手裏剣に向かって渦を巻くように……
まるで、何かを受け入れる準備をしているみたいに!
そして、それに合わせて術の範囲も広がったのか……わかる!下からもの凄い突風が吹いてきていることが!
「来る……くるくるくるっ————キタっ!」
ドライヤーから吹き出した突風を、風の層が絡めとって中心に!その全てを手裏剣が吸い込んで、ぐるぐるぐるぐると回りだす!
風を受ければ受けるほど、くすんで色を失っていた周囲の風が。紫、赤、オレンジ、黄色、緑とどんどん変わっていって————
青をも超えて藍色に。
風が輝きを放ちだす!
これなら……いけるっ!
『サネー!絶対ヒメちゃんを奪い返してねー!帰ったらみんなで"ぱーてぃー"だよっ』
『やったれサネー!』『応援してますよー』
『モミジはいいの?』『ああ、ボクはもう伝えたからね』
『実秋!儂の分まで帝の鼻を明かしてやるのだっ!』
『サネ殿、どうかご武運を……』
『ぢゅぢゅぢゅっ!』
スズちゃんとの魂結びを通して、みんなの声が届いてくる。
というかあのネズミさんはどうしてこっち側にいるんだ?……まぁいいか。
みんなの声を背中に受けて————私はいま、飛び立つ!
「綾小路実秋!いっきまーす!」
手裏剣の配置を変更!イメージは二つのブースター!
軸を中心に渦巻く二つの風を、合わせて一つの竜巻に!
私の周囲の風の流れが、螺旋を描いて後ろへと流れていく。
これはまさに、宙の真空を穿つ風の弾丸だ!
「いっけぇええええええ!!!!」
最高速度に竜巻の推進力を加えて!そこにみんなの力を風力に変換する!
惜しげもなく注ぎ込んで、アクセル全開だっ!
「う お お お おぉぉぉ!?」
こっ、これがジェット機の気分!?
私はまさに人間ロケットっ!
私を大地に縛り付ける煩わしいしがらみを全部吹っ飛ばして————
私は宙を、突き抜けた。




