二十二話【葉】
走る走る走れ走れ!風よりも早く!
私はもちろん、師範も全力疾走だ。少しでも気を抜くと置いていかれそうになる。
枝だの葉だのを気にしてられない。最小限の動きで速度を落とさず、最短最速で林を駆け抜ける!
……駆け抜けてる、はずなのに。
「は、速すぎるっ!」
差が離されることもないけど縮まることもない。
まるでジェット機だ。あの燕の貴公子はヒメを捉えた貝殻の羽を折りたたんだまま、弾丸のように空を飛んでいってる。
「サネ!追いつくのは諦めて巻かれないようにするよ!アイツを見失わないようにするんだ」
「え、で、でも!」
「大丈夫!どのみち終着点はあの船だ!そこまでに必ず姫妃ちゃんを取り戻す機会はやってくる!」
「は……ハイ!」
ここは百戦錬磨の師範を信じる!
そうと決まれば、いっそのこと林の上でも通って視界を広く……
————しようと思って見上げた空が、黄金色に輝いた。
「サネ!危ないッ!!」
私は突然モミジさんに突き飛ばされる。
瞬間、私の視界を埋め尽くす金色の光。
私を突き飛ばしたモミジさんの右手が、垂直に迸る熱線に包まれた。
これはあの龍の!?
『ぐわら!』
「ぐっ!?」
「モミジさん!!」
貴公子たちだ!あの龍型の貴公子に乗って、私たちを追っかけて来たんだ!
黒い鼠みたいな貴公子はいないみたいだけど……
『ぬぅん!』
四腕貴公子が空からドスンと降ってきて、私たちの目の前に立ちふさがる。
その体には、あの細い木みたいな貴公子を巻きつけていた。
『ルラララァ~~!』
「ぐあっ!」
「め、目潰し!?」
木の貴公子の真珠みたいな球体から放たれた光が私たちの視界を埋め尽くす。
やばい!魂感知で位置を————
『むん』
裏の領域で見えたのは、四腕貴公子が手に持っている器を私達に振りかざしているところだった。
避けっ、無理、潰される————!?
『御総別』
私の予想に反して、貴公子は私たちに器を被せただけだった。ずしんと、ようやく戻ってきた視界が暗闇に包まれる。
う、器を被せるだけ……?
「しまった!封印術か!」
「えっ……うわっとぉ!?」
世界がぐりんと反転して、私たちは器の中に転がり落ちた。
いつの間にか空が上になっている。私たちは地面ごとあの器で掬われたみたいだけど……その縮尺がおかしい!
空が遠いし木がでかい。器の縁までもなんか高く見える。器が大きくなった?……違う!
「私たちがちっちゃくなってるんだ!」
「やられた……狙いはサネか!」
器の内側はツルツルとしていて全然登れない。全力でジャンプしてみても……ダメだ、縁まで届きそうもない。
……あれ?これ囚われたってこと!?
貴公子は器を覗き込んで私たちが入っていることを確認すると、そのままズシンズシンと歩き始めた。
「あ、でもなんか向こうに連れていってくれてますよ」
「当然だよサネ!竹帝は君とも神婚するつもりなんだから!」
「え……えええ!?私も!?」
「君だって立派な異界の姫なんだから……これはまずいことになったね」
その発想は全くなかった!……けど、そういや確かに帝は姫"たち"って言ってたような……まじか。
「師範……因みに封印術ってどんな感じの代物なんですか?私たち一生このまま小人暮らしですか!?」
「封印術はその名の通り対象を封じ込める術だよ。たぶん、この鉢そのものに術が刻まれてるんだろうね。容れたものを小さくして封じ込める術か……厄介だ」
「この系統ならおそらく器から出れば元に戻るはずだけど、アレじゃそれも難しいか」
「あ……」
器の開いている部分を、あの木の貴公子がシュルシュルと包み込んでいく。
私たちの唯一の出口が閉ざされて、あの真珠みたいな玉が一つ、電球みたいに灯された。
……明かりはつけてくれるんだ?優しいんだかそうじゃないんだか。
「サネ、ちょっと離れてて」
「え、師範?何を……」
「ハァァァアっ!!」
モミジさんは何やら手にオーラを纏わせると、思いっきり地面を殴りつけた!
……けど。
「くそ!上手く鬼力が練れてない……」
「も、もしかしてさっきの光で怪我を!?」
「というより、あの一撃は動きを止めるためのものだったみたいだね。腕が痺れてきたよ」
モミジさんの右手は微かに震えていて、握りこぶしもろくに握れていなかった。
火力だけじゃなくて麻痺も使えるなんて……あの龍厄介すぎる!
「右手がダメなら左手だっ!」
今度はオーラを左手に集中させて、モミジさんはもう一回拳を振り下ろした。今度こそ渾身の一撃が器を震わせる。
——でも、器はビクともしなかった。どころか、殴りつけたモミジさんの手から血が出ている。
「硬い……だけじゃないな。そもそもボクらの力が落ちてるのか」
「師範、手から血が……」
「このぐらいなら大丈夫だよ。それよりもこの状況を何とかしないと」
「で、でもこのまま帝の所まで連れて行ってくれるのなら、別に無理をする必要もないんじゃ……」
「そうも言っていられないよ。ボクたちが解放された時には、もう姫妃ちゃんの神婚が終わった後なのかもしれないんだから」
「え゙」
なんとなく二人揃ってからの挙式をイメージしてたけど……邪魔されたくないから一人一人と結婚してくってこと!?どんだけ結婚を確定させたいんだ帝は!
そもそも、帝がなんで私たちを求めているのかもわからない。ヒメはカグヤさんの代わりにしたいんだろうって言ってたけど……
「神婚の前に姫妃ちゃんが上手く神賭けをふっかけられればいいんだけど、帝のあの態度は頑なだった。最悪、神婚ってのは本人の意思に反してても成立するんだよ」
「え!?そんなの契約としてアリなんですか!?」
もしかしたら……神賭けみたいな取り決めが神婚にも存在するってこと!?
実際、神賭けの強制力は相当なものらしい。神婚がそれと同じだと考えると……かなりまずい。
「だから姫妃ちゃんをあの船に乗せちゃダメなんだ。それも条件の一つだからね」
「そ、そんな……でもこんなのどうやって……」
万一の可能性も二つの意味でふさがれた今、思いつくのはこの器を壊すことだけど……
「……あ!師範!あそこにひび割れが!」
「!これは朗報だよサネ!たぶん鉢そのものは普通の素材なんだ!ただの石なら可能性はまだある!」
「師範の一撃は無駄じゃなかった!ここからは私がやります!」
「え?……でも」
「私はこのとおり五体満足でピンピンしてますから!師範はそこで私の活躍を見ててください!」
「……」
あの時、私がケガをした時のヒメの気持ちが、逆の立場になってみてよくわかった。
自分は大丈夫だって突き進んでいくのは、心配も負い目も、相手が思いやってくれてる気持ちを全部置き去りにすることなんだ。
私だってモミジさんの役に立ちたい。負担を押し付けたくない。無理をしてほしくない。
……ヒメも、こういう気持ちだったんだろうな。
「おりゃぁああ!」
私はひび割れにクナイを思いっきり突き立てる!
……メキリ、と、嫌な感触が私の手から伝わってきた。
「あああっ!私のクナイが……」
ここまで一緒にやってきた相棒が、真ん中どころでぐしゃりと折れてしまった。
「っ!なんのぉ!クナイがダメなら拳を打つまで!」
「あ、ちょっとサネ、素手だと……」
私も師範にならって器を思いっきり殴りつけてみる。
ごつんとした硬い衝撃が、拳を通って私の骨身に染み渡った。
ぐぬ!頑丈になってるとはいえ痛いものは痛い!
「つぅぅぅ……ん゙っ!なんのこれしきぃ!」
「サネ!一旦冷静になろう!闇雲にやっても成果は出ないよ!」
「で、でも師範……」
「幸い、神婚だって今すぐどうこうできるわけじゃない。段階が必要なんだ。だから、今は姫妃ちゃんを信じて策を一緒に考えよう」
「ううぅ……ハイ。不甲斐ない弟子ですいません……」
「そ、そんなことない!そんなことはないんだよサネ!」
「サネは……よくやってくれてるよ。不甲斐ないだなんて、思う必要はないんだ」
……?
そうやって私を立ててくれるモミジさんは、どこかぎこちなかった。
それはおべっかを言ってるからというよりも、どちらかと言えば……不安?なんで……
「そんな顔をしないでおくれ……ボクを心配してくれてのことだろう?ありがとう、嬉しいよ」
モミジさんはそうやって曖昧に笑って……私の肩を、優しく叩くのだった。
* * *
(くそっ、ボクが万全ならこんなもの……)
百回でも千回でも拳を打ち込んで、この鉢を壊してやるっていうのに……情けない。
身体能力に頼ってきたツケがこんなところで回ってくるなんて。こんなことならもっとバネに忍具を作ってもらっとくんだった。
右手の痺れが引いてきた代わりに、今度は全身にまで回ってきている。ボクに神経毒は効かないから、これもあの光の効果ってことか。
光をくらった時間とその後の経過を見るに……痺れが完全にとれるまでにはまだまだかかりそうだった。
「とーう!……ぐぇ!?」
「やっぱり届かないか」
サネは走ったり飛んだりして上を目指しているけれど、それも芳しくない。
この鉢の設計として、届くようにできているとは到底思えない。よしんば届いたとしても、あの金属の身体を持つ貴公子の網を突発できる手段もない。
やはり、ここから出るには鉢そのものを壊すしかない。
ボクの鬼紅煉丹なら岩の一つや二つわけないことだけれど、問題はこの痺れのせいで鬼力が上手く練れないことか……
鬼力を使えないボクはただの気を纏える忍にすぎない。そして、その結果は左手が示している。
「……四の五の言ってられない。やっぱり気功術を使えるボクがやるしかない」
「師範……でもその手じゃ無茶ですよ!」
「そんなことはない。こんなのでも、やらないよりはマシだよ。少しでも可能性が広がるならやるべきだ」
「で、でも……今の師範は万全じゃないんですよね?」
「痛みがなんだ!今!ここがサネと姫妃ちゃんの分水嶺なんだよ!」
「大丈夫!ボクが必ず、君を姫妃ちゃんのところに連れて行くから!」
「……」
サネを安心させるために、ボクはなんとか拳を握りしめた。
気功で守り切れなかった左手から血が滲む。でもこんな痛みがなんだというのか。
こんなもの、こんな、身体の痛みなんて————
あの時、アオイを失ったときのあの痛みに比べれば何ともないことだ。
そんな痛みを、こんな痛みを、苦しみを!
……サネたちに味わわせるわけにはいかない。
「……っ!」
(身体に傷を負ったのはいつぶりだろうか)
気功での強化と封印で弱まった肉体の均衡が取れていない。打撃の度に耐えかねた拳の皮膚が擦り切れていく。
でも、水滴は岩をも穿つ。ボクのこの血潮が現状を打破する一助となるのなら、ボクは喜んでこの拳を捧げよう。
両手を打ち付ける。何度も何度も、この器が壊れるまで、何度だって——
「〜っ!モミジさん!」
見かねたサネに後ろから抱き止められる。
……サネには見苦しいところを見せてしまっている。でも、ボクにはこれしかない。
「サネ、止めないでくれ!ボクには武ぐらいしかっ……君たちにしてあげられることなんてないんだ……!」
「や、闇雲にやったってダメって言ったのは、モミジさんじゃないですか!」
……そんな顔をしないでくれ。
君に、そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。
「師範……いや、モミジさん。モミジさんはどうして……」
「————どうしてそこまでして、私を助けてくれるんですか?」
触れ合った部分からサネの温もりが伝わってくる。
ああ……そんなところまで……
君はアオイに似ているのか。
「サネが……妹に似ていたからだよ」
「えっ……」
「その顔が、その仕草が、その表情が————アオイにそっくりだったから。ボクは……君に亡き妹を重ねていただけなんだ」
「私が、妹さんに?」
「そうさ。ボクは最初君を見た時に……アオイが帰ってきてくれたんだって、そう思ったんだよ」
「そんなこと、あるわけないのに……」
「……妹さんのこと、教えてもらっても?」
「ああ、いいとも。……こっちにおいで。寝ながら話そうか」
ボクは鉢に横になる。それに合わせて、サネもボクの隣に横たわった。
目と目が交わる。サネの、ボクを慕う純粋な視線が、容赦なくボクを射貫いていった。
こうやって改めて近くでサネを見ると否応なく昔を思い出す。
忘れられない、思い出を。
「————ボクらは物心ついた時から二人ぼっちでね。まぁ、俗に言うみなしごだったんだよ。でも、そのことを憂いたことは一度だってなかった」
「だって、隣にはいつだってアオイがいてくれたから。それだけで、ボクはなんだってできたんだよ」
「この、戦国の世を二人で生き抜いていくためなら————」
なんだって。
ボクらはその日暮らしの根無し草で、日々の糧を得るにも一苦労だった。
でも、寒空の下で寝床がなくたって、二人で身を寄せ合えば平気だった。
矢が飛び交う合戦の最中であっても、ボクは単身で飛び込んでいった。
全ては二人で生きるため。
「その内、そんなボクらのことが有名になって、ばあちゃんに拾ってもらえて……ボクは忍になった。でも、アオイは忍にはなれなかったんだよ」
「どうして……」
「アオイは荒事が苦手でね。落武者に睨まれるだけで悲鳴を上げて、ボクの後ろに隠れるぐらい優しい子だったんだよ」
そんなもんだから、ボクはアオイが忍になることには元々反対だった。
だから、ボクはアオイが忍になれなくて、忍定試験に受からなくてホッとしたんだよ。
それに、忍じゃなくたって里に仕事はたくさんあった。
「実際、アオイはボクと違って器用だったからね。すぐにみんなと打ち解けたし、里の中でも引っ張りだこだったんだよ。バネもコンも、あのスズちゃんだってアオイの手をかりて色々やってたっけ」
「ボクはそれが誇らしかった。そして嬉しくもあった。こんなボクらを受け入れてくれて、生きるための仕事を与えてくれて……ヒトとヒトとの繋がりの温かさを、みんなが教えてくれた」
「あの時から、和賀の里がボクらの本当の故郷になったんだよ」
ボクはそんな現状に満足してた。
里のみんなに報いようと、仕事にも身が入って、そうこうしているうちにばあちゃんの直弟子として認められた。
順風満帆だと、そう思った。我が世の春がこれからも続くんだって。
こんな幸せな毎日が、これからも……
……でも、そう感じていたのはボクだけだったのかもしれない。
「アオイは忍になることをあきらめなかったんだ」
「えっ」
そのころからアオイとすれ違うことが多くなっていった。
寝床も分けたがってたし、毎日やってた寝物語もいらないって言いだしたり……
ボクはアオイもお年頃なんだなって、深刻に捉えていなかった。
「だって、ボクらはどんなことがあっても、最後には一つだったんだから。……心も、身体も」
それが致命的にズレだしたのが、忍定試験からだった。
アオイは何度も何度も、何度だって忍定試験を受けた。
「最初はみんなも応援してたよ?それがアオイが試験に落ちるたびに一人減り二人減り……」
ボクは何度も止めた。そんなことは止めて、別のことに打ち込むんだって。
バネのとこでもコンのとこでも、スズちゃんの助手だっていい。アオイにはボクと違って、忍以外の色んな道が開かれてたんだから……
「それでもアオイはあきらめなかった。
それがどうしてだったのか……その頃のボクにはわからなかった。そして……」
「——108回目の忍定試験に落ちた後、アオイはいなくなってしまった。この四方の、どこからもね」
「そ、それって……」
「あの日のことは今でも鮮明に思い出せるよ。バネたちに引っ張られて、ボクもアオイの試験に立ち会ったから」
最初の試験以降、ボクは一度もアオイの戦う姿を見てこなかったし、アオイもボクにだけは助言を求めてくることはなかった。
それでもいつも夜遅くまでどこかで訓練してきて、寝床に帰ってくる姿を何度も見ていたから……
「ボクは正直複雑な気分だった。きっと、いつかは受かってしまうだろうって、心のどこかで思っていたから」
「久方ぶりに見るアオイの動きは格段に良くなってたよ。それでも、やっぱりどこかぎこちなかった。どこまでいってもアオイには……闘志がなかった」
「あの子は優しすぎたんだよ。忍には、致命的に向いてなかった」
見ちゃ、いられなかった。
あの子の努力の果てがこれだなんて、ボクは認めたくなかった。
だから思わず、目の前の現実から目を背けようとして————ボクは、アオイと目が合った。
「その時のアオイの表情が……忘れられないんだよ。今でも、ずっと——」
「結局、その日もアオイのクナイが落武者を打ち抜くことは無かった。流石のボクもこれはちょっと堪えてね。一度、アオイと話し合おうと思ったんだ」
昔みたいに、二人で一緒に寝ながら、夜通し語り合って……でも。
「その夜、アオイは行方不明になった」
「……」
「行き先も告げずに突然いなくなるような子じゃなかったからみんな大慌てでさ。それで、里を上げてアオイを探すことになった」
「確か、スズちゃんが忍の調査能力はすごいって……」
「うん、そうだね……全盛期ほどじゃないにせよ、あの頃の里にはそれだけの力はもちろんあった。それでも、アオイは見つからなかったんだよ」
「ほとんどのみんなは諦めてたよ。でもボクらは……ボクは、諦められなかった。諦められるわけがなかった。アオイはボクの半身で……生きる理由だったんだから」
「アオイさんはモミジさんにとって……たった一人の、かけがえのないヒトだったんですね」
「……どうだろうね。本当にボクは、それだけの愛をあの子にあげられていたんだろうか」
「家族だから、たった一人の肉親だから、妹だから……そんな目に見えない独りよがりを妄信して、目の前のあの子の本当の気持ちを、ボクは思いやってやれなかったんだから……」
「ボクは日中夜問わず駆け回ったよ。ずっとずっと、何年もね。……その果てに、ボクはいつの間にか月にいた」
「え!?つ、月!?」
「そうだ。ボクはその時、月葉御言主に出会ったんだよ————」
…
…
…
『やぁやぁやぁ!今さら来たのかい?やっと来たのかい?!ようやくたどり着いたのかい!?————ねぇ?お・ね・え・ちゃ・ん?』
月の上には月がいた。
それは白く、どこまでも青白い月だった。
まるで鏡のようなその月には、たった一つだけ大きな口が、真一文字についていた。
ボクの目の前で、その小さなお月様が口を広げながらゲラゲラと喋っている。
「ここは……貴方は一体?ボクはさっきまで祠を調べてたはずじゃ……」
『僕は月葉御言主。君も名前ぐらいは聞いたことあるでしょ?』
「こ、事主さま!?これはとんだご無礼をっ……!」
『いいよいいよぉ、そんなに畏まらないでサァ。僕は君をず~っと、"舌"を長くして待ってたんだからねぇ』
『君がやっとこさ祀り林に来てくれたからサ!この僕が直々に"呼びつけて"あげたってわ・け!』
これは願ってもない機会だと思った。
四方を統べる事主さまなら、アオイの居場所がわかると、そう思って……
「お願いします事主さま!アオイの場所を……ボクの妹が今どこにいるのか教えてくださいっ!!」
『それはぁ~……僕に対する神賭けってことか?』
「ハイ!ボクはその為ならなんだって————『遅い』……えっ?」
『それを言うのが五十年は遅いって言ってるんだよお姉ちゃん。そんなもの、神賭けなんてしなくても教えてやるさ。口さがなくね』
『あの子は天寿を全うしたよ————あっちの世界で、あっちの家族に囲まれながらね』
「な、なにを言って……」
『わかんないかなぁ?死んだって言ってるんだよ。還ったって言ってるんだよ。ここじゃない何処かで、あの子はあの子の人生を閉じたってことさ』
『アオイがどこにいるかだって?どこにもいないよ。あの子はもう、この世のどこにもいないんだ』
「————!」
理解できなかった。いや、意味は分かるのに、それをボクの頭が受け入れてくれなかった。
「そんな馬鹿な!五十年!?アオイが天寿!?おかしいよそんなの!だってあの子がいなくなってからまだ……」
『時の潮流は同じじゃ無い。そして、僕は過去に送ることはできても、過去から呼びつける事はできないのさ』
「ならボクを過去に送ってください!アオイが死ぬ前の時間に、ボクを!それならできるんですよね!?」
『あーぁ!できるよできるさできるともぉ!——でもその前に、君には一つ言っておかないといけない事がある』
「……?」
『お姉ちゃん。あの子から、たった一言だけの伝言だよ』
「!!あ、アオイはなんて……」
『「風の赴くままに」……だそうだ。僕は確かに伝えたからね』
「——!」
でも、ボクが一番衝撃を受けたのは、アオイを看取ってやれなかったことじゃない。話が出来なかったことでも、別れを言えなかったことでも、最後まで一緒に居てやれなかったことでもなく————
「————ねぇお姉ちゃん。明日はごはん、見つかるかなぁ」
「大丈夫さアオイ。あのサンカどもも近くに村があるって言ってたからね。きっと、そこでならご飯をもらえるはずだよ!」
今でも覚えてる。明日の不安に震える妹を抱きしめ慰めたときの、その温もりを。
「ね、また河童さんのお話聞かせて?』
「お、いいよぉ。アオイはおみ助の冒険譚が大好きだねぇ」
「うん……大好き」
今でも思い出せる。たった一つの寝物語を何度も語り聞かせて、二人眠りについたあの夜のことを。
「ねぇ、お姉ちゃん……」
「なんだい?アオイ」
「お姉ちゃんは……どこにもいかないでね」
ボクに両親の記憶は全くない。でも、アオイには物心つく前の記憶が確かにあるらしかった。
姿形は思い出せなくとも、その『声』だけははっきりと覚えているらしい。
アオイはその内容についてボクには教えてくれなかった。けれど、そんなものはどうでもよかった。
ただ、この愛おしきたった一人の家族が、ボクの腕の中に居てくれさえいれば……それだけで————
「大丈夫、どこにもいかないよ。例えアオイが南獄海に流れ落ちたって、必ずボクもそこに行く」
「アオイを一人ぼっちになんて、絶対にしてやるもんか」
ボクらはいつだって二人で一つのはずだった。身体は二つあろうとも、心は重なっていたはずだった。
ボクの中にはアオイがいて、アオイの中にはボクがいる。
たとえ離れていたってボクらのたどり着く場所は同じで、ボクらは二人で眠りにつくのだと、そう思っていたのに……
「風の赴くままに」
それは『河童の川流れ』の最後の台詞。
河童のおみ助が流れに流されて辿り着いた世界の果てで、一からまた旅を始めるときの、彼の最後の言葉だった。
その意味が、アオイの伝えたいことが、わからないボクじゃない。だってボクはアオイのお姉ちゃんなんだから。
わかる、わかる。全部分かる。
いまさら全部わかった、その上で————
『……はぁ、君、なんて顔してるんだい。やだやだ、どうしたって僕の眷族はこうも口下手なんだろうね』
『で?どうする?神賭け。するの?しないの?』
「……しま、せん」
『ま、そうだろうね。……一つ、君には厭味を言っておこうか』
『仮に君を過去に送ったとしても、アオイが満足して天寿を全うしたという事実は消えないよ』
「……ッ!」
『過去は変わらない。ただ、君とアオイが向こうで再会できたっていうか細い世界が一つ、無限大の中に増えるだけなのサ』
『……だから言ったろ?お前は遅すぎたんだよ——何もかもが』
————アオイにおいていかれたのは、ボクの方だったんだから。
…
…
…
「だから師範は、私が向こうから来たって言っても驚かなかったんですね」
「まあね……幻滅したかい?ボクが君に良くするのは、君に妹を重ねてのことだ」
「ボクはサネにそうやって……アオイにできなかったことをやってあげて、自分の溜飲を下げているだけなんだよ」
「……幻滅なんて、しませんよ。理由がどうあれ、モミジさんが私にしてくれたことは変わらないから」
「サネは……優しすぎるね」
そんなところもアオイと似ていて、ボクの心を締め上げていく。
「ボクはずっと後悔してるんだ……あの時あの瞬間、アオイから目を背けようとしたことが」
「あの時……ボクは、本当は応援したかったんだ。頑張れって。アオイならできるって……そうやって、言ってあげたかった!」
「そうやって言ってあげれたら……結果は変わってたのかもしれない。アオイは今もボクの隣にいてくれてたのかもしれない。……全部、今更の話だよ」
「あの時、どうしてボクは……いや!それよりもずっと前から、なんでボクは、ボクは————!」
「————あの時のアオイの顔が、ずっと忘れられないんだよ」
「モミジさん……」
これは贖罪ですらない。だって、ボクと別たれたアオイの人生は、決して暗いものじゃなかったんだから。
あの子は向こうで……『家族』に囲まれながら天寿を全うした。自分の人生に満足しながら、その幕が降りていくのを見届けたのだから。
これこそまさしく独りよがりだろう。サネを使って、ボクは自分の後悔を慰めているに過ぎない。
二度とは癒えることのない傷を、サネにふさいでもらっている……塞がせてもらってるだけなんだ。
どこまでいっても。どれだけ似ていようとも。
サネは……アオイじゃないのに……
「……」
ボクの話を聞き終わったサネはゆっくり立ち上がった。サネの藍色の瞳がボクを見下ろす。
ボクは……立ち上がれなかった。なんというか気が抜けて力が入らない。
それは、決して痺れのせいではなかった。
ボクは華々しく紅葉している『モミジ』なんかじゃない。みっともなく地面に落ちて、ぐずぐずと腐ったままの……醜い落ち葉だ。
そんなボクを見下ろすサネの目は、尚も優しい意思に満ちている。
どうしていまだに、そんな目でボクを見てくれるんだろう。
ボクの大好きな……あの目で。
「師範!さっき師範が使ってた術を、私に教えてください!」
「え……い、今からかい!?【鬼紅煉丹】は習得が難しい部類に入るんだけど……」
「やります!やってみせます!それを使って、私が師範の代わりに、この器をぶっ壊してやります!……だから」
「そんな私に、頑張れって言ってください!」
「……!」
「私……なんとなくだけど、モミジさんが何に後悔してるのかわかるんです」
「だからお願いします。……私を、信じてください!」
「——ッ」
そんなこと、あるわけがないのに。
この、硬く閉ざされた檻の中で……確かに。確かにボクは感じたんだ。
一筋の風が吹いたような——そんな気が。
「……鬼紅煉丹はね、気力だけ使えてもだめなんだよ。妖力も同時に操る必要があるんだ」
「妖力って、まさか妖怪の力ってことですか?!コンさんみたいな……」
「古来ではそう思われてたみたいだけど、別にボクらでも練ることはできるよ。問題は、妖力を躰穴から絶えず放出し続けないといけないってことだ。妖力を作り続けながら、外への放出も同時にやらなくっちゃならない」
「な、なるほど……ちなみにそのたいけつっていうのは……?」
「気力、というより魂の力を取り出している部分だね。身体の至る所に開いている、目には見えない力の通り道のことだよ」
「魂力は躰穴を通ることで気力となる。そして、同時に妖力も通すことで……」
重要なのは均衡を保つことだ。気力だけはもちろん、妖力だけでもだめ。
この両方を均等に、同じ量だけ放出してやれば————異なる二つが一つとなる。
「こんな感じで、気力と妖力を混ざりあった『鬼力』となるんだよ。これが鬼紅煉丹の全てだ」
ボクは右手にだけ鬼力を纏わせた。それは鬼紅煉丹によって作られた紅い力だ。
……やっぱりまだだめか。すぐに均衡を失ったその鬼力は、二つの力に分離して弾けてしまう。
一部分だけでもと思ったけど……思った以上に、鬼紅煉丹には力配分の繊細な調整が必要になる。
はたして、一朝一夕のサネにここまで出来るのだろうか——いや。
今は……サネを信じるんだ。
「おお!結構シンプルですね!それじゃあ妖力はどうやって練ればいいんですか?」
「必要なのは強い意志だよ。魂力を外に出さないままで、自分の内側で意識を練りこんでいくんだ」
「意識……ですか?」
「意識をもって力に指向性を持たせるって言えばいいのかな?この場合は『この鉢を破壊する』って感じでさ」
「なるほど……わっかりました!ちょっとやってみますね————」
サネが目をつぶって瞑想をしだすと、その身にまとう雰囲気がガラリと変わる。……相変わらずすごい集中力だ。没入力と言ってもいい。
サネにはアオイにはない、ボクにもない才能がある。
それは自分の内側に入り込む才能だ。
これに関して言うなら、ボクはサネに類する存在を見たことがないぐらいだ。
それに加えて、サネはスズちゃんと同じ系統だ。なら、この段階は難なく突破できるだろう。
これまでの経験から力を取り出すところも問題はない。
「————ハァ!ど、どうですか師範!」
「だめだね。妖力に寄りすぎちゃってる」
この調子でいけば、サネならいつかは習得できるだろう。……でも、やっぱりこんな短時間じゃ——
「万事了解です師範!あとは事を成すのみ!」
——それでも、サネは前向きだった。
「それじゃあ師範はそこで大人しくしながら、私のことを応援しててくださいね!」
「い、いや、サネの気持ちは伝わったから、それをする意味もないというか……」
「何言ってるんですか!むしろ師範の応援が事の成否を分けるといっても過言じゃないんですよ!?」
「え、ええ……?」
「いいからいいから!ささ!とりあえず一回言ってみてくださいよ!」
「えーっと……さ、サネー、頑張れー……」
「もっと強く!大きな声で!」
「ええ!?……サネ!頑張れっ!」
「その調子!」
「サネ!頑張れがんばれっ、頑張って!」
「はぁい!がんばりまっす!」
ぼ、ボクは一体何をやらされているんだろうか?こんなことをしたって、なんにも——
「失敗!でもまだまだぁ!」
「が、頑張れ!頑張るんだサネっ!」
「ハイ!」
でも、ボクが頑張れと応援するたびに、サネの鬼紅煉丹の精度は目に見えて上がっていった。ほ、ほんとにそんなことが……!?
「くぅっ……!」
サネは……本気だった。
本気でこの場で、鬼紅煉丹を習得するつもりなんだ。
……どうして、ボクはそれを疑っていたんだろう。
サネに本気で相対してないのは——ボクの方じゃないか。
どうしてサネを応援してあげない?可愛い一番娣子が、こんなにも頑張っているというのに。
ボクはサネを……信じていないのか?サネにはできるわけがないって、そう諦めてるのか!?
……違う。そんな事はない。
「ううぅぅ……!」
「サネっ……頑張れ……!」
絞り出したその言葉は……紛れもない本心だった。
あと少し、あと少しなんだ。
もう少しで……届くんだ!
あと一歩!もう一歩で……その手が!クナイが!その一撃が————
その、最後の一押しを。
ボクは、言えなかったんだ。
「サネーっ!大丈夫!あと少しだ!」
「はぁい!」
それはお為ごかしでもなんでもない。
心の底からでた、ボクの本音だった。
ああ……サネ、アオイ……
頑張れ。
上手くいってほしい。
報われてほしい。
ボクは……幸せになってほしかったんだよ。
どんな形であっても。
いつだってボクは、そう思ってた。
ずっと……本気で。
ああ、ボクはちゃんと……
君のことを想えてたんだね————アオイ。
「サネぇぇぇぇ!がんばれぇえええ!」
「——サネならできるよ。ボクは……そう信じてる」
だって君はボクの、一番娣子なんだから。
——瞼の裏からボクを見つめるアオイが、笑ってくれたような、そんな気がした。
「うぉおおおおおお!」
そしてついに、サネの右手から紅い鬼力が立ち昇った。
「せ、成功した!?すごいよサネ!」
でも右手だけだ!これじゃ出力が不安定すぎる!
「取り出す部分を片手に限定しました!でもまだ、まだですよ師範!こいつをこのまま……凝縮しますっ!」
「無茶だサネ!それだと調整が失敗したときの反動も大きくなってしまう!それに最悪の場合……躰穴はおろか、手まで壊れてしまうよ!?」
基本的に力は全身の躰穴から外に放出される。確かにそれを一部だけに限定すれば配分調整はしやすいだろう。けれど、それは細い水路に濁流を流し込むようなものだ。
その上鬼力を凝縮させるだなんて……あまりにも危険すぎる!
……でもっ!
「これでっ……いいんです!一発で、一点を、全力で————打ち抜けばっ!!」
「この一瞬に!このチャンスにっ!この一撃にッ!全てをかける!!!」
ボクでもきっと、そうしただろう。
そして、ボクの弟子ならきっと……
やってやれないはずはない!
「サネ!いけ、行くんだ!そのままっ!————真っ直ぐに!!!」
「ハイッ!師範ッ!!」
全身全霊、一点から迸る鬼力の暴風が、ぐるぐると荒ぶりながらゆっくりとサネの掌に収束していく。
密度を増していく鬼力の光が、赤く、紅く輝きだした。
薄暗い鉢の中を紅い光が満たしていく。
サネはそれを握りしめた。目もくらむような、紅色の煌めきを!
「「いっけぇええええええ!!!」」
————この時、実秋は妖力に『器を打ち抜く』というただそれだけを練り込んだ。そして極限にまで凝縮された鬼力は、その意志をもって打ち込まれた拳の衝撃をただ純粋に増幅する。
実秋の拳が器に触れる。その瞬間、紅き輝きの奔流が幾重にも瞬いた。
エネルギーは容易く増幅していく。
出口を限定するだけで。それを一所に集めるだけで。ただ、握りこむだけで……そして。
高まった極限のエネルギーは、あらゆる全てを凌駕するのだ————
「……ねぇ師範。私もこれで紅夜叉を名乗れますか?」
「ああ————君はボクの自慢の弟子だよ、サネっ……!」
サネの間違いなく渾身の一撃は、貴公子の御鉢を粉々に打ち砕いた。
ボクらは地面に落下する。それはまるで空から落ちているみたいだったけれど、地面に衝突する前には身体の縮尺は元に戻っていた。
そして、ボクの身体の調子も……
(いつのまにこんな成長を……いや、サネは最初からこうだった。それをきちんと見れていなかったのは、他ならないボクだ)
サネにアオイを重ねて、サネのことを何も見れあげれていなかった。
なにが姉範だ、なにが紅夜叉だ。
サネは、吹き抜ける風だったんだ。
するりとボクの心に吹き込んできて、ボクの後悔を吹き飛ばしてくれた。地面で腐っていたボクを舞いあげて……背中を押してくれた。
『君はアオイと違って……弱いなぁ』
あの時、事主が吐き捨てた言葉の意味が、今ならよくわかる。
ボクはいつだって気づくのが遅い。
ボクらはいつだって並び立っていないとだめだって、ボクはそう思い込んでいた。
でも、それは違うかったんだね。
ボクはアオイがいないとだめだった。アオイもボクがいないとだめだった。
でも、ボクらは二つに別たれて、アオイはそれでも前に進みだした。その場でうずくまっていたのはボクだけで……
それでもボクらは繋がってい。確かに、想い合っていた。身体でなく、心で。
それに気づけていなかったのは、ボクだけだったんだ。
(いつまでも、こんな情けないお姉ちゃんのままじゃ……アオイに顔向けができない)
。
この風に乗ってどこまでも……舞い踊る木の葉のように、どこまでも!
一人でどこまで行けるかわからないけれど、ボクも飛んでいってみるからさ、アオイ……
————この風の、赴くままに。
『むぅん!』『ラァ~~!』『ぐわら!』
「ここはボクに任せて!サネは姫妃ちゃんのところへ!」
「————ハイっ!」
サネは迷わなかった。振り返らなかった。それのなんと頼もしいことか。
サネに信頼されて任されることの、サネを信頼して送り出すことの、なんと喜ばしいことか!
ボクはアオイの背中を押してあげるべきだった。繋いだ手を離してあげて、送り出すべきだったんだね————こうやって!
「……ここから先には行かせないよ」
————モミジの全身からオーラが立ち昇る。それは以前までとはうって変わって、荒々しく揺らいでなどはいない。
ただ一心不乱に、穏やかに迸っていた。
それに紛れて、モミジの目から雫が零れる。
紅い輝きに照らされた、涙の雫が。
溢れた気持ちのその所以は、ただ彼女のみぞ知る。
モミジはサネの折れたクナイを拾い上げる。元々はモミジが使っていた一本を、サネの為に譲り渡したもの。
握りしめられたそのクナイは、元来の主を思い出した。
長年を共にした主の決意に、樹霊の残滓が静かに応える。
注ぎこまれる紅き力に呼応して、クナイの傷口から滲み出したのは赤茶色の樹液だ。
それはどんどんと固まり形を成してゆき、クナイはいびつな刀となった。
「——」
モミジは一度だけ、その刀を振り抜く。強く、速く、そして鋭く。
たったのそれだけで、樹液の刀身が研ぎ澄まされた。
でこぼこだった刀身は薄刃となりて、鋼とみまごうほどに紅く艶めく琥珀の刃。
ここに刀心合一は果たされる。
それは鬼紅煉丹の極地点。
清流のように揺蕩い濁流のように渦巻く紅きエネルギーは、ただ一点を目指して天を衝いた。
「君たちに恨みは無いよ。でも……ボクはサネのために、自分の為に修羅となる」
「怖くないならかかっておいで。今のボクは、神さまだってぶったぎっちゃうんだから!」
かくして夜叉鬼は仁王立つ。
万感をオモイで、その瞳を濡らしながら————
「【紅夜叉】のモミジ————いざ参るっ!」




