9.謎の少女
「Evil System······」
Evil System【冷徹な見えざる装置】と命名した理由というのは邪神の一柱であるラティオマラの外見が人の心を持ち合わせない冷徹な機械であることに加えて、人間達から見えないどこかでその残酷非道なシステムを操作しているからという理由からだそうだ。
確かに最後に残した言葉から考察するに、ラティオマラは人間の事を自分のシステムの実験体としか思っていないのだろう。
しかし今大事なのはラティオマラの理由よりも今後の人間側の動きだ。
システムがウィンドウに『間もなく』と表している事から早くとも1週間、長くとも一ヶ月以内にはラティオマラがシステムを使って何か動きを見せるのは間違い無いと怜は思っていたので、霧野に今後の動きについて質問をしてみた。
「······俺はこれから何をすれば?」
「システムが何かしらの動きを見せるまでは、今まで通りの生活をして構わないとの事ですが、警戒は怠らずと仰っていました」
「なるほど。そういえば、最近現れた生命体はどうなっていますか?」
「そちらについても局長から伺っております。その生命体は現在も地球全体に出現しており、それらには【テラポーン】と命名しました。テラポーンについては現在強力な個体は確認されていないので、日常生活で見つけ次第各自討伐をお願いします」
霧野曰くシステムに何らかの動きが見えるまでは今まで通りの生活をしていて良いとの事だが、それでもいつシステムが動きを見せるか分からないので警戒はしておくようにと伝えられた。
しかし今はそれよりも怜は最近出現していたラティオマラが前座と言っていた生命体の対処をどうすれば良いか悩んでいたが、対策本部はそこも抜かり無く協議を進めていた。
現段階で強力な力を持ったテラポーンは出現したという情報が無い為、生活を送る中で見つけ次第各自討伐してほしいとの事だった。
しかしながら、ラティオマラが自信のシステムを利用し行おうとしている事がとても気になる。
憶測でしかないが怜はこのゲームウィンドウから察するに、デスゲームに近しい何かを人間達に行わせ、目的を達成した後に最終的に地上を名も無き地にするのではないかと考えた。
だがしかしあちら側が姿を隠している上にゲームウィンドウは操作不可能のこの状況では考えが浮かんでもその対処のしようが無かったので、霧野の言っていたテラポーンの討伐に目を向けることにした。
「分かりました。何から何までありがとうございます」
「いえ、これも仕事、地球をいち早く救う為ですから。では、失礼します」
霧野は怜からお礼を言われ軽く笑みで返して椅子から立ち上がり、深々と一礼をすると静かにドアを開けて帰っていった。
青黒い雨を浴びたことによる負傷や体調不良も無いので着替えて退院の手続きを行い病院の外に出ると、本当に邪神と称する者がこの世界を脅かしているのだろうかと疑う程に近くの公園にいた親子は楽しそうに会話をしながら遊んでおり、空を見上げると綺麗な青空が広がり、太陽が眩しく輝いていた。
それらを見た怜は、この美しい世界を壊させる訳にはいかないと強く拳を握った。
怜は一先ず家に帰宅し、その後は対策本部に顔を出して安否を確認させようとスケジュールを練りながら歩く。
(テラポーンを倒すのは今までも出来ていたから良いとして、ラティオマラの動きが分からないのがキツいな······バイトもまた何か理由付けて調整してもらわないといけないし、もし長期戦になったら高校の方も何か理由を付けて休まないといけなくなるし·······)
怜は首を少し傾げながらスマホの画面を見ながら今後の動きを考えていたが、ラティオマラの事で前回のエピドロメアスの時の様に今働いているバイト先のシフトを調整してもらったが、今回もまた同じ様に何か理由を付けてシフトを調整してもらわないといけない事に加えて、もしもラティオマラの討伐に時間がかかる場合は高校も休む日を入れなければならないが、それだと授業や課題などに支障が出る可能性があったので、どうしようかと悩んでいた。
暫く歩き、怜が住んでいるアパートの近くにある路地裏の辺りを通り過ぎる寸前で、何か少女の様な声とテラポーンの様な化け物の声が聞こえてきたのでそちらに向かい顔を出してみると、金髪、というよりブロンドの髪色をしたロングヘアーにエメラルドグリーンの目をした少し幼い、中学生程の少女がテラポーンに襲われそうになっており、少女はか細い声で言葉を発していた。
「······い、嫌······」
ここは路地裏ということもあり、じりじりと後ろに下がっていく少女の後ろに逃げ道は無く、壁がゆく道を塞いでおりこのままではテラポーンに殺されてしまう状況だった。
幼くまだ未来の残っている少女の命を守ろうと思った怜はすぐさま亜空間魔法を使い短剣を取り出し、テラポーン目掛けて地面を蹴り上げ全速力で走った。
もしも青黒い雨による影響で今持っている人工悪魔の力が使えなくなったらどうしようかと思っていたが、生憎今まで使っていた能力は問題無く使うことが出来た。
そして少女を襲おうとしていたテラポーンの背後に駆け寄り、少しいつもより声のトーンを落とし殺気を向けて胴体に短剣を刺し込んだ。
「おい、何やってる」
刺した箇所が丁度弱点のコアだったということもあり、剣を抜くと刺した箇所から徐々にテラポーンは消滅していった。
襲われていた少女は何が起こったのかまだ理解できていないのかガクガクと身体を震わせて尻餅をついていた姿勢だったので、あまり怖がらせないようにと怜は少女の元にゆっくりと歩み寄り、少女と同じ高さほどまで膝を折り目線を下げて優しく微笑みながら手を差し伸べた。
「大丈夫? 怪我は無い?」




