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人工悪魔は影から  作者: イワスズタ
序章・後

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10.記憶喪失

「······」


(やっぱり怖いか······無理もないよな)


 少女に怜は手を差し伸べたが、少女はまだ先程の恐怖が残っているのか手を伸ばそうとした後すぐに自分の胸元に引っ込めた。

 それもその筈、知らない機械生命体に襲われた上に、いきなり手を差し伸べてきた知らない背の高い男性と短時間で様々な事が起きているのだから怯えるのも無理は無い。

 怜はそんな怯えている少女の気を少しでも緩めてあげようと安心させてあげられるような声を掛けてあげた。


「大丈夫、俺はさっきの怪物みたいに襲ったりはしないよ、君の味方。立てる?」


「······あ、ありがとう、ござい、ます······」


「一人みたいだけど、お母さんとか、お父さんは?」


「······分からない、です······」


 安心するような声を掛けたからなのか、少女は少し言葉が詰まりながらもお礼を言うと怜が差し伸べていた手を取りゆっくりと立ち上がる。

 少女が着ていた白い服は先程転んだ事で湿った土が所々に付いており、決して綺麗とは言い難い服になっていた。

 迷子かもしれないと思って母親や父親は近くにいるのかと尋ねると、両親の行方は分かっていないと言う。

 怜はこの少女が両親不在の迷子の可能性が高いと考え、警察に連絡して保護してもらったほうが良いと思ったのでポケットからスマホを取り出し110番をしようとした時に、自分の服が少し引っ張られているのが感じ視線を落としてみると少女が今にも泣きそうな目で此方を見ていた。


(これ、とりあえず警察に通報した方が良いよな······迷子っぽそうだし······)


「ん?」


「······いや、一人になりたくない、です······」


「大丈夫、警察の人もきっと寄り添ってくれるから」


「それでも、いや、です······」


(どうするのが最適なんだ······?)


 警察もこのような迷子などで一人になってしまった幼い子供には親身に寄り添ってくれるから大丈夫だと伝えても、少女はそれを嫌がっているようで服を強く握って首を横に強く振っていた。

 今は怜の様なずっと傍に居てくれる存在の方が彼女にとって心の支えとなるのだろう。

 しかし、今この状況では少女誘拐に勘違いされてもおかしくないと思った怜はこのまま家に一緒に帰って匿うべきなのか、それとも少女のお願いを申し訳ないが断って警察を呼び保護してもらうべきなのか悩んでいた。

 警察に保護してもらえば確実な安全が保証されるが、ここまで怯えているということは今の彼女にとって確実な安全というのは怜の傍にいる事なのかもしれない。

 怜は悩みながらも今は彼女の為になる事をしようとため息を吐き渋々自分のアパートまで連れて帰る事にした。


「なら、俺の家に来る?」


「はい······」


「とりあえず帰ったらシャワー浴びて汚れを落とそう」


 少女は転んだ事によって彼方此方に泥が付いているので一先ず帰ったらシャワーで汚れを落とすように言ってあげた。

 帰っている最中に少女に少し質問をいくつかしてみた。


「そういえば、名前は?」


「······分からない」


「何処から来たかも分からない?」


「はい」


 名前も住所も分からないと言っており、もしかして迷子ではなく記憶喪失の可能性が高いと考えた。

 何か事故に巻き込まれた影響によるものなのか、もしくは先日のラティオマラの青黒い雨による影響でシステムに記憶を奪われた等の考えが浮かんだ。 

 もしかしたら彼女も雨を浴びた者かも知れないので、先日の雨の事、そしてシステムについて聞いてみる事にした。


「3日前かな、青黒い雨が降ったのは覚えてる?」


「はい、何となくですが······」


「その雨は浴びた?」


「浴びました」


「なら、何か目の前に『Coming Soon』って書かれた

ゲームのウィンドウみたいなのは見える?」


「あります」


(やっぱり、彼女もラティオマラの被害者······)


 怜の思い通り、少女は先日のラティオマラが降らした雨を浴びていたが、その事は朧げながらも覚えているとのことなので記憶を失ったのはそれよりも前という事が分かった。

 ラティオマラは、こんな幼い少女にも無作為でシステムの影響を与えたのだからますます奴の事が怜は許せないという気持ちで溢れていた。


 ゆっくりと歩いている内に怜の住んでいる少し古めのアパートに到着した。

 怜は中学を卒業した頃から両親が突然蒸発し、祖父母の関係も持っていないので高校生からずっと独り身だ。

 なんとか生業扶助という高校生の生活保護と私生活に影響が無い程度のバイトで家賃を払えている。

 怜はあまり物欲が無い方なので無駄な物も昔から買わなかったのでその分お金を貯めることが出来たのが大きかった。


「さ、入って」


「お邪魔します······」


 先に家に入るように促すと他人の家ということもあり少し遠慮気味だが家に入った。

 怜は家に帰るとすぐに自分の部屋に行き、中学生の頃に着ていたジャージを少女に貸すことにした。

 身体だけでなく、彼女が着ている白いワンピースの服も至る所に泥が付着しており洗濯するしかないのでその際に別に着る服が必要だと思ったからだ。

 怜の今の身長は180cm程、中学生の頃はあまり身長が高い訳ではなく大体160cmくらいの身長だったので、今の少女には少し大きいくらいの服のサイズだった。

 そして服を準備した後はバスタオルも用意し、洗面所で待っていた少女に一式を渡して、置いてあるボディソープやシャンプーは好きに使って良いと伝えた。


「これ、俺が中学の時に使ってたジャージ。少し大きいかもしれないけど、今いちばん小さい服がこれしかないから、少し大きくても我慢して欲しい」


「大丈夫です、ありがとうございます」


 先程まで身体を震わせ怯えていた少女だったが、怜の家に来てからというもの、少し表情が柔らかくなったような感じがした。

 怜から着替えとバスタオル一式を受け取ると笑顔でお礼をして浴室に入っていった。

 女の子の風呂の音を間近で聞くのはあまりよろしくないと思った怜は自分の部屋に戻り、問題集の残っていた課題に手を付けることにした。

 これから近い内にラティオマラが何かしら仕掛けてくる事を見据えて、今残っている課題は少しでも終わらせておこうと思ったからだ。

 少女が風呂に入ってから大体30分が経った頃、少し喉が渇いた怜はリビングに飲み物を取りに行こうとドアを開けると丁度少女が風呂から上がって来ていた。


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