83.自由な男
飛行機内でCAを人質として捕まえ、空いている片手には拳銃を持っており、下手に刺激したら真っ先に発砲しかねない状況に乗客全員が陥ってしまった。
ひとまず下手に刺激しないようにと動かずにジャック犯の方を見ていると、横で怜の服が引っ張られる感覚がして横を見ると、エルが体を縮ませて震えていた。
それもその筈、エルは先日上城戸によって拳銃で運悪く殺害されてしまった影響もあって銃に対してかなり強い恐怖感が身についてしまったようで、席の隙間から少しだけ拳銃が見えてしまったことが引き金になってしまったようだ。
怜はそんな震えているエルの手を優しく包み込むように握り、安心させれるような言葉をかける。
「大丈夫、万が一があったとしても、俺が必ず助ける」
「……っ」
「とりあえず、今は静かにして状況が良くなるまで待とう」
「……はい」
「おらぁ! 誰も妙な真似はすんじゃねえぞ!」
怜が声をかけるとエルは怜の手を強く握り返して下を向いて目を強く瞑った。
それを見た怜はエルの頭を優しく撫でてから再び犯人の方を見るが、今にでも発砲しそうなほど激昂しており乗客たちはパニックになりながらもジャック犯の言う通りに妙な真似をせずに静止した状態を保っていた。
するとコックピットからもう1人のジャック犯が現れ、両サイドの前から後ろにかけて乗客の方に歩いてくる。恐らく対抗するための武器等怪しい物を持っていないかといういわゆる所持品検査だ。
搭乗前に金属類などの検査は終えているものの、怜のように能力者が亜空間魔法でも武器の取り出しや能力の行使などもジャック犯は視野に入れているのだろう。
そしてジャック犯の1人が怜とエルの元に来るとエルに対して厳しい口調で呼びかけてくる。
「おいそこの女、体を起こせ。所持品検査だ」
「待ってください。彼女は体調が悪いんです。怪しい物などは持っていないと僕が保証します」
「お前には聞いてねぇよ。それに身内の『この人は何も持っていません』なんて言葉、簡単に信用するには値しないだろ」
ジャック犯の言葉にエルは体を動かくことができず、そこで怜がsyっ今日の言い訳をジャック犯に伝えるがあっさりと断られてしまう。
しかしジャック犯の言っていることはあながち間違っていない。
身内が何も怪しい物を持っていないことを信じてほしいと言ったとしても、相手に対していくらでも嘘をつくことは容易なのだから、あっさりと拒否されるのは当然だ。
何か他の手はないのかをジャック犯の方を見て考えるが、この狭い空間では能力を使って反撃すれば機体に傷をつけかねない為、能力を使わずに何かできないかと頭を回転させているうちにジャック犯の腕はどんどんとエルの方に近づいてくる。
プシュッ
その時、反対の席で缶ジュースを爽快な音で開ける音が静かな機内に鳴り響く。
ジャック犯が音の鳴った反対側を向くとそこには天津がこの危険な状況に缶ジュースをごくごくと飲んでいた。
この光景を見ていた乗客、ジャック犯共々この謎の状況に対して唖然としていたが、我に返ったジャック犯が天津に向かって拳銃を突き付ける。
「お前! 何をしている!」
「何って、ジュースを飲んでるだけじゃないの」
「最初に妙な真似はするなと言ったはずだ、それが聞こえなかったのか!」
「ああ~ごめんね? 猛獣のような声は聞こえたんだけど、そんな言葉は耳に入らなかったな~」
「貴様~!」
天津は相手を挑発する表情と言葉で相手を煽るとジャック犯の怒りが最高潮に達したようで天津に向かって銃弾を発砲する。
激しい銃撃音が機内に鳴り響き、それを聞いた乗客は悲鳴をだしたりと混乱状態が更にエスカレートしていたが、ジャック犯は先程までの怒りの表情から驚きの表情へと変わっていた。
天津の顔面に銃弾が入ったかと思っていたが、本当は天津の目の前で銃弾は空中で止まっていたのだ。
『重』
天津はラティオマラの時や怜とエルを移動させたときのような呪文を再び唱えており、銃弾の近くで右手を開いた状態でまるでトリックのように銃弾を止めていた。
そして天津が右手を下ろすと空中で止まっていた銃弾が時が動き出したかのように地面に落下し、ジャック犯は再び天津に銃弾を撃つがそれもいともたやすく『重』で止めて見せる。
その光景を発見したもう1人のジャック犯が急いで天津の元に駆け寄って後ろから後頭部を狙って発砲するが、後ろに目があるのだろうかと思わせるようにノールックで頭を横に倒して銃弾を回避し、そのまま銃弾は天津の目の前にいたジャック犯の左腕をかすめる。
「くっそ……! お前、何者だ!」
「ただのしがない社会人だって」
「この野郎……!」
ジャック犯達んお注目が完全に天津の元に向けられたのを見た怜は急いでシートベルトを外して正面にいるジャック犯を後ろから首を腕で絞めて卍固めをとるとジャック犯の手から拳銃が離れ、それを急いで回収する。
それを見た天津はにやりと口角を上げて後ろにいたもう1人のジャック犯に対して立ち上がって瞬時に反対方向を向いて首元に鋭い蹴りをお見舞いすると一撃でジャック犯の意識は遠のいていった。
「はい、おしまい」




