81.Our next mission
何日ぶりかもわからないが、怜とエルはアパートに帰宅した。
ラティオマラの作った遊戯空間とこっちの現実空間の時間の流れは異なっているのかすら分かっていないが、体感では1週間ほどといったところだ。
見慣れた薄暗い路地裏を歩き、出た先にある年季の入った2階建てのアパート。
怜がポケットから玄関の鍵を取り出し、鍵穴に挿して扉を開けると今までずっと生活してきた環境だからなのか、家の中は安心感で溢れていた。
「疲れましたね」
「そうだな。本当に、さっきまでの出来事が夢じゃなくて現実だって今でも信じられないくらいだ。それにこの邪神の力も、本当は人工悪魔が覚醒した力なんじゃないかって、今でも思ってるところがあるけど、実際はラティオマラが言っていることに間違いはないんだよな」
「とりあえず、今は体を休めましょう。私おなか空いちゃいました」
「そういえば、ここ最近まともなご飯を食べてなかったな。よし、ちゃちゃっとご飯作ろうか」
「私手伝いますよ!」
「ありがとう」
怜は未だ対策本部を去る前までに起きた出来事を全て信じ切れてはいなかった。
もしかしたら自分の邪神の力は人工悪魔が覚醒した力なのではないか、遊戯空間で起きた事は実際には夢なのではないかと色々思ってしまうが、現実はそんなに甘くなく、ラティオマラは言ったことが全てだった。
そんな気に病んでいる怜を見て話を切り替えようとご飯を食べないかとおなかをさすって話を持ち込む。
その話を聞いてそういえばと思った怜はキッチンに向かって冷蔵庫を開けて何かないかと探るが、生憎これと言える食材はなく、朝御飯用の食材しか置いてなかった。
いつ帰ってくるか分からなかった為、遊戯当日の朝ご飯に使った食材の残り物しかなかったことを見て地面に手を付いて過去の自分の準備不足を後悔する。
「くそ……ここまで食材がなかったとは……」
「どうします? 多分この時間ならギリギリスーパーとか開いてると思うんですけど……」
「仕方ない、行くか……」
怜とエルは仕方なく晩御飯用の食材と念の為明日明後日の分も買いに近くのスーパーまで歩いていくことにしたが、疲労がほぼ限界まで来ている怜は今すぐにでもベッドに飛び込んで寝たいという気持ちでいっぱいだった。
スーパーから帰宅し、今日はもう冷凍食品で済まそうと怜とエルの2人で好きな冷凍食品をレンジで温めて食べた。
◇2日後
ロンドン出発当日の朝、怜とエルは事前に準備を済ませておいたので後は正午までに対策本部に行くだけの状態となった。
準備物は昨日の朝に確認して必要な物をリストアップしてメールで送るとその日の夕方には全て荷物が黒役によって配送された。
ロンドンに行く理由は勿論近藤の言っていた死んだ人間が蘇って関係者を殺害する事件の解決、そして能力者の育成だが、少しだけ初めての海外に行くということで、異国の地は実際どうなっているのかという高揚感もある。
現在時刻は午前10時、今日は公共交通機関で移動しようと決めているため、少しだけ早く家を出て対策本部に向かう。
「じゃあ行こうか。忘れ物は無い?」
「はい、大丈夫です」
「よし」
怜の家は東京23区外にあるため、対策本部まではバスでおよそ10分、電車で20分ほどの移動となる。
対策本部は東京の中心部に近い場所にあるため、移動するとなっても1時間といった長時間の移動はあまりないのがメリットだ。
生憎電車やバスは既に通勤ラッシュの時間を過ぎているので電車内はスムーズに入ることができ、丁度一席開いていたのでエルを座らせて20分間電車に乗って窓の向こうにある景色を眺めながら移動する。
対策本部の最寄りの駅に到着し、改札口を出ると見覚えのあるアイスブルーの髪色をした女子高生が片手にキャリーケースを持ち、スマートフォンを眺めている光景を発見し、もしやと思った怜はエルと共にその女子の方に向かう。
「……陽凪?」
「はい……って、辻井さん!? どうしてここに!?」
「対策本部に呼ばれて来たんだ。陽凪もキャリーケースを持っているけど、もしかして……」
「は、はい。一昨日、対策本部からわたし宛にメールが届いて、その、ロンドンに行くから準備をしてほしいと言われて……」
「奇遇だな、俺達もロンドンに行くんだ」
「本当ですか……! よかった、知っている人がいて……」
「けど、なんでスマホなんか眺めてたんだ?」
「えっと、そ、その、対策本部に行くのは実は初めてで、場所がいまいちわからなくて」
どうやら偶然対策本部に行こうとしている陽凪と遭遇し、話を聞くと彼女も怜達と一緒にロンドンに向かうメンバーのようで、陽凪は知っている人が一緒にロンドンに行くということを知るとほっとして胸に手を撫でおろす。
しかしここから対策本部までは徒歩で10分ほどの場所にあるが、陽凪は対策本部に実際に行くのは今回が初めてのようで、場所が分からなかったからスマートフォンで位置を検索していたのだという。
そこで怜は陽凪に場所を知っているから一緒に行かないかと提案すると先程までの不安そうな顔から安心した表情に変わる。
「だったら俺達と一緒に行こう、場所なら把握してるからさ」
「いいんですか? ありがとうございます」
こうして陽凪と怜、エルの3人は共に対策本部まで移動を始め、移動している最中は最近の話題などを話しながら移動した。
そして対策本部に到着するとまたもや見覚えのある黒髪の青年が腕を組んで壁に寄りかかっているのを発見する。
「湖崎、お前ももしかして?」
「ああ、対策本部からロンドンに行くという有無の連絡を貰った」
「そうなのか、今回もよろしくな」
湖崎も陽凪同様に対策本部からロンドンに行くという連絡を貰っていたようだが、れより先に到着しているところはしっかりしているなと見習う。
「そういえば、ラティオマラの遊戯の生還者には1000万が贈呈されるってあったはずだけど、あれは本当だったのか?」
「いや、俺の口座には一千も入っていなかった。恐らく、感染者の闘争心をむき出しにするためのブラフだったんだろう」
「じゃあお前の兄姉は……」
「そっちはこれから何とかする。自分の手でな」
怜はふとラティオマラが遊戯開始前に言っていたルールの中の【生還者は賞金1000万円を贈呈する】というのが本当に生還した湖崎や陽凪に適応されたのか気になったので聞いてみるが、湖崎の手元には1円も入ってきていないようだ。
湖崎はラティオマラが感染者に賞金という誰もが欲しがるようなものをブラフとして組み込むことで、感染者同士の闘争心をむき出しにしてより無様で奴にとって面白い遊戯を作ろうとしたのではないかと考えているが、怜もその湖崎の考察を聞いて奴ならやりかねないなと同情する。
しかしこれでは湖崎の目的でもあった兄の祐樹・姉の乃愛は昏睡状態が続くことになるが、湖崎の表情には曇ったものがなく、これから自分の力でやっていこうという決意で満ち溢れているように感じた。
そして4人で対策本部の中に入るとロビーで天津がソファーに座って全員を待っているのが見える。
「お、全員来たね」
「メンバーはこの4人ですか?」
「ああ、橘明夏音、瀬戸口康太にも同様の連絡をしたんだけど、2人には断られちゃったんだ。まあ仕方ないさ、2人以外にも今回のラティオマラの件で精神的に来ちゃってる人は少なからずいるんだ」
(明夏音さん、大丈夫かな……)
天津は怜、エル、陽凪、湖崎の4人の他に橘と瀬戸口にも同様の連絡をしたそうなのだが、2人からの返信は『すみませんが、辞退させていただきます』というものだった。
エルはそれを聞いて精神的にかなりきている橘が果たして本当に大丈夫なのかと心配する。
そして全員が集まったところで局長室とは別の専用エレベーターに乗ってとある場所に移動し始める。
目的の階に到着し、エレベーターがゆっくりと開くと底意は数多くの黒役とその奥には近藤が立っており、天津が近藤の元まで連れていくと彼は微笑みを見せて椅子に座り、天津はその横に立つ。
「皆、今回はラティオマラ戦での疲れが完全にとれていない中、集まってくれた事感謝する。これから空港に移動するが、その前に天津悠から話がある」
「はいはーい! 注目ー!」
「随分とハイテンションだな」
「まあ僕は何事も明るくいく人間だからね。じゃあ今回のロンドンに行くにあたってと、今後の最終的な任務を発表します! まずはロンドンでは」
『Solve the Mysterious Murder Case. 【謎の殺害事件を解決せよ】』
「そして僕たち対策本部が掲げる邪神に対する最終的な任務は」
『Eradicate evils. 【悪を根絶せよ】』
人工悪魔は影から 第1章 完
第2章に続く




