79.報告①
待合室で待ち始めてから約30分が経過した頃、待合室のドアが静かに開くとドクターが深刻そうな表情をして待合室に入ってくる。
それほど自分の体にある力が恐ろしいものなのかと固唾をのんでドクターからの結果を聞く。
「で、どうだったの?」
「……まだデータが少ないから信憑性は薄いけど、これだけは言える。辻井君、あなたは他の邪神とは少し違った力を持っている可能性がある」
「えっ……」
「これを見てほしい。これは先程検査した際に取った邪神の力の周波数をデータ化したもので、上が辻井君、下がラティオマラ。見てもらったら分かるように周波数の密度・大きさが異なる点があるのが見える?」
「はい……確かに違うところがありますね」
ドクターは検査結果を印刷して紙で3人に見えるように差し出すと、3人はまじまじとそのデータを見ると明らかに周波数の異なる部分がある。
しかしこのデータに写っているものから導き出した答えが必ずしも真実に結びつかれるわけではなく、もしかすると違う答えが今後導き出されるのかもしれない。
単に邪神同士の力の格差を表しているのか、それとも怜の体にある力は邪神とは違う力なのか、その答えは未だ闇の中だ。
全員に見てもらったところでドクターは片手に持っていたクリアファイルに入れて妖精ナースを呼び出して保管庫の中に入れておくように命令を出すと妖精は待合室から即座に出ていき保管庫の方に向かっていった。
「今回入手したデータは貴重なもの。こちらで厳重に管理させてもらうけど、いいわよね?」
「もちろん、お願いします」
「これ、私の社用の携帯の電話番号。もし今後何か今回の事で進展や分かったことが合ったら連絡して頂戴。忙しい時は悠を通じて」
「分かりました」
ドクターは机の上でメモを書くとその紙切れを怜に渡す。
そこには電話番号が書かれており、この番号に電話するとドクターの社用携帯に繋がるという。
もしも今後邪神と戦っていく中で何か邪神の力について分かったことが合ったら連絡してほしいとドクターは怜にお願いする。
そしてどうやらドクターは天津と連絡先を好感しているようで、そちらからでも連絡してかまわないと言葉を残して院長室に向かっていった。
「さて、ひとまず精密検査が終わったし、今度こそ局長の元に行こうか」
「また瞬間移動するんですか?」
「まあね、そっちの方が早いし」
「能力はあまり使いたくないってさっき言ってませんでしたっけ……?」
「これは燃費が良いから別!」
「一体何なんだ本当に……」
天津は近藤のところまでこの病院に来たように『瞬』を使って移動しようとしていたが、そこでエルが最初に自分は能力を頻繁に使わないと言っていたのに頻繁に使っているのではと鋭い言葉を投げかける。
すると駄々をこねる小学生のように『瞬』だけは燃費が良いからと都合が良くなるような理由を並べた言い分を言うと、それには怜も納得できなかったようでため息を吐きながら天津の隣に移動する。
病院の時と同じように天津が2人の肩に触れて『瞬』と唱えると目の前が真っ白になり、目を開けると対策本部の目の前まで移動していた。
「はい到着~」
「便利な能力ですね」
「まあね」
対策本部の正面入り口から入り、ロビーで局長に戻って来たと伝えてほしいと受付の人に天津が言おうとした瞬間、霧野真斗が大量の書類を抱えてロビーまで歩いてきていた。
「天津さん! やっと戻って来たんですね……規定の時間になっても来ないから何事かと局長が心配していましたよ」
「悪いね、ちょっと野暮用ができて」
「野暮用、ですか」
「ああ、ドクターとね」
「ドクターさんですか、まあお二人の関係を考えれば野暮用ができるのも仕方ないですね……って、辻井さんとエルちゃんも!?」
霧野は天津が帰ってこなければいけない規定の時間になっても対策本部に返ってこないから近藤が心配していたと伝えるが、近藤からの心配など気にしていない天津は軽く返して何故遅れたのか、その理由を霧野に伝える。
ドクターと会っていたということは伝えたが、怜の体の中にある邪神の力についての精密検査をしていたというのは今は霧野には黙っておくことにした。
あの精密検査を行えるのは日本でも片手で数えられるほどの人間しかおらず、存在自体を知っている人間も数少ない為、それを知る人物が増えるのはいくら知人だとしてもいいことだけではないからだ。
しかし霧野は天津とドクターの人間関係を知っている人物の為、天津の言葉に疑いをかけずに話を続けると後ろに立っていた怜とエルの存在に遅れて気づく。
「お二人もご無事で何よりです……!」
「はい、何とか問題なく帰ってこれました」
「感傷に浸りたいところ申し訳ないが、真斗、局長は?」
「失礼しました。局長ならば局長室にて業務中ですよ」
「サンキュー。じゃ、行こうか」
「はい」
ここで4人で会話をしたいところではあるものの、霧野を除く3人がここにきたもくてきというのは近藤に邪神討伐の報告をするためなのでいいところで話を切り上げると霧野も切り替えて近藤の居場所を天津に伝える。
去り際に天津は霧野にいつものように軽く手を振ると霧野は笑顔で返して業務に戻っていく。
エレベーターの中で、怜は先程の会話の流れからして天津と霧野は昔からの友達なのではないかと考えて、それを天津に聞いてみる。
「あの、天津さんと霧野さんって知り合いなんですか?」
「ああ、言ってなかったね。霧野は高校時代の後輩さ。高校を卒業してからはちょっと海外に行ってたから、再開したのはつい最近だね」
「そうだったんですか。知り合ったきっかけとかは?」
「何だったっけな~ あ、思い出した。あいつがまだ能力に目覚めてなかったときに先輩に校舎裏でいじめられてるのをふと見つけちゃって、僕がその先輩をぼこぼこにしたのが知り合ったきっかけかな~」
「さらっと怖いこと言ってる……」
天津と霧野が知り合ったのは天津が高校2年生、霧野が高校1年生の時で、天津が校舎裏に行ったときに丁度霧野が3年生の先輩にいじめられて暴力を振られていたところを天津が助けたのがきっかけのようで、そこから2人は一緒に行動し始めたのだという。
天津が最後の方に言っていた3年生の先輩をぼこぼこにしたという件は話していた本人が笑いながら話しており、想像しただけで寒気がした怜はそっとしておくことした。
そんな会話をしている間に局長室がある階層に到着し、エレベータから降りる。
「さ、久々の局長とのご対面だ」
「はい。失礼します」
天津に誘導され、扉をノックして開け、何日ぶりか考える時間もなかったが、久々の近藤との会合、そして邪神討伐の報告を今から行う。




