78.謎の身体
ドクターに案内されたのは病院の最も奥にある医療従事者でもごくわずかの職員しか入ることのできない場所で、そこには今まで見た事の無い医療器具などがずらりと並んでいた。
その中で一番大きく、一番異彩を放っている機械があり、ドクターはその機械の傍に設置されているコンピューターを操作し始めると機械が動き出す。
その形状はMRIに非常に似ており、怜がその機械の前に行くと横にあるカゴの中に金属類を全て置くようにドクターに説明されると、怜はスマートフォン、第2回で使用したトランシーバー、ズボンのベルトなどを全てカゴの中に入れて機械に横になる。
『辻井君、聞こえる? 今から検査を行っていくけど、準備はいい?』
「はい、大丈夫です」
コンピューターに繋がれているマイクを通じて機械のすぐそばにあるスピーカーからドクターの言葉が聞こえ、それに返事をするとドクターの右にあるレバーを前に倒す。
すると機械の内部が回転する音が静かに鳴り始めると怜の頭部の方から緑色のスキャンレーザーが現れ、体の隅々まで怜の情報をスキャンしていく。
精密検査自体はほんの数分で終了したが、その検査で得たデータ処理などに時間がかかるとのことでドクター以外の3人は待合室で検査結果が出るまで待機していた。
「それにしても人間の体で邪神の力を取り込めるなんて、今後君以外いないんじゃないかな?」
「多分そうでしょうね。俺も手に入れたくて手に入れたわけじゃないんで」
「だよね~ 世界を壊す力なんて、反怨者くらいしか欲しがらないだろうね。僕もあの戦場で見学してたけど、あの力は言葉に表せないくらいすごかったな~」
「……もしかしてラティオマラが覚醒する前にビルの屋上にいたのって……」
「あ、バレちゃった? あれ僕なんだよね~ 局長から現場に行けって言われてたけど、僕自身能力をあまり使いたくない人間だから、君が絶体絶命のピンチになるまでは手を出さないって決めてたんだ」
天津の発言を聞いて疑問に思っていたラティオマラが邪神顕眼を使う前にビルの屋上で戦いを観察していた謎の男性の正体は誰なのかということだが、正体は天津だった。
天津は能力を頻繁に使いたくないそうで、怜がピンチにならない限りは手を出さないようにしていた。
天津に命令を出した近藤からはサポートするように言われていたが、身勝手な行動をした件についての処罰はどうなるのかだけが心配だ。
しかし気になるのはどうして能力を使いたがらないのかで、怜はその点を天津に質問する。
「でも、なんで能力を使わないんですか?」
「ん? それは後々話すよ。僕の能力はこういった公共の場で説明できるほど安くはないんだ」
「人工悪魔みたいな力ってことですか?」
「まあ今はその解釈でいいよ。今度詳しく教えてあげる」
天津は怜の質問には正確には答えずに今度話すと伝える。
どうやら天津の能力は怜の人工悪魔のような特別な能力に分類されるようで、今いる病院のような様々な人がいる公共の場では簡単に説明できる代物ではないらしい。
人工悪魔と似ているということはこの天津悠という男性もかなりの強者なのだろうと思い、その能力を今すぐにでも知りたいが、彼が言った「今度教えてあげる」ということはこれからの行動は天津と一緒になるということなので怜は気長に待つことにする。
◇ドクター視点
怜達が待合室で会話をしている裏側でドクターは一人で先ほど行った怜の精密検査の情報を整理・解析してまとめていた。
精密機械として使った機械は対象の人間のDNA、天使・悪魔、そして人工悪魔の能力情報などを分析してデータとして解析できる機械なのだが、ドクターが精密検査を行った理由は他にある。
それは勿論、怜の体内に秘めている邪神の力の情報の入手だ。
天津の言っていたことをドクターは同じように思っており、邪神の力を人間の体内に取り込むことのできる者など今後一切現れることは無いだろうと考えており、この絶好の機会にデータを取っておこうと考えたからだ。
(悠、やるときは抜かりなくしっかりとやるところがむかつくのよね。その姿勢をいつもやってくれれば私のストレスも大幅に軽減できるのだけれど)
検査結果の情報が表示されているモニターには怜の情報だけでなく、ラティオマラの身体情報も表示されていた。
実は怜とラティオマラとの戦いが終わり、怜が戦場から去った後、天津がこっそりとラティオマラの体の一部をドクターの元に届けており、それを事前にデータ処理していた。
そしてカタカタとタイピングを行い、最後にエンターキーを押すと最終的な精密検査の結果が表示される。
「これは……邪神の周波数と辻井君の邪神の力の周波数が異なっている……?」
モニターの上下にそれぞれ表示されているのはラティオマラと怜の邪神の力の周波数を計測した波が表示されているが、その波の大きさ、密度など様々な点で異なっていた。
ラティオマラの周波数と怜の周波数で異なる点は、波の密度はラティオマラの方が上で、波1つ1つの大きさは怜の方が大きいという点だ。
ドクターは邪神の能力はそれぞれ同じ周波数で流れており、怜とラティオマラは同じ邪神としての力が体内にあると考えていたが、その考えからずれて想像していなかった結果が出された。
「一体どういうこと……?_ラティオマラの周波数がどれも辻井君のよりも小さければそれは死んだからという回答で辻褄が行くけど、死んでもなお彼よりも大きい点があるのはどうして……?」
ラティオマラの全ての周波数が小さければ、それは怜に殺された影響で邪神の力が弱っているということで納得はできるが、何故死んだ後でも怜よりも周波数が大きい部分があるのか、それだけがいくら考えても答えを導き出せなかった。
何せまだ邪神のデータを取ったのは今回が初めてということもあって比較できるデータが無いため、今回は邪神ごとに能力の差があることによって周波数に違いは生まれたという結論にしたが、それでもドクターは納得がいかないままだった。
「辻井君、あなたは一体……」




