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人工悪魔は影から  作者: イワスズタ
第1章 3/3 The Hollow Ordeal 人邪覚醒篇

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77.異名とは

 ドクターからいきなり精密検査という背筋が凍る4文字を聞いた怜は、一歩だけ片足を後ろに下がらせる。

 するとドクターはもしや闇医者やマッドサイエンティストのするような危ない検査をするではと考えているのではないかと思い、怪しいことはしないという身の潔白を証明する。


「待ちなさい。精密検査と言っても、何もあなたの体と好き勝手するわけじゃないわよ。私がやりたいのはあなたの体の内に秘めている邪神の力についてよ」


「俺の、力?」


「そうよ。それはそうと自己紹介が遅れたわね。私の名前はドクター。まあ好きに呼んでくれて構わないわ」


「ドクターって……普通の名前とかは……」


 ドクターが精密検査を行う理由というのは単に怜の体内にある邪神の力の分析を行いたかっただけであり、それ以外には何もおかしなことはしないと弁明したのち、遅れて自己紹介をする。

 そこで疑問に思ったのは名前と言ったら普通は「佐藤 太郎」だったりと苗字と名前の構成だが、ドクターは自身の本名を名乗らなかった。

 その時ドクターの隣にいた天津が一歩前に出て怜にどうしてドクターが自身の本名を名乗らないのかを端的に説明してくれた。


「それは僕から説明するよ。この世には異名《リゾルブネーム》というのがあって、その名前を手に入れた時、元々あった自分の名前は記憶から消えてしまうんだ」


「記憶からって……それって、他の人の記憶からも消えるんですか?」


「いや、他人の記憶からは消えないよ。だからドクターは自身の元々の本名は覚えていないんだ。そして手に入れるきっかけというのは、《《人生の中で、何かしら覚悟を決めた時》》であって、その時に自分で名前を決めるんだ」


 天津によると異名を手にした時、本人の記憶から元々使用していた名前の記憶が消え、それに伴って新しい名前を自分自身で決めるらしく、そのきっかけは人生の中で、何かしら覚悟を決めた時と言っていたことから、ドクターも今までの人生の中で覚悟を決めた時があったのだろう。

 しかしそれだけではメリットもデメリットも有耶無耶になり、異名を手にする意味がないと思った怜は、天津にそのことを質問する。


「でも、それなら別に異名を手にする意味ってないんじゃ……」


「意味はあるよ。異名を持っている能力者は能力の上昇だったり、新しい能力への覚醒などが起きるって聞くよ。ドクターはどうなったのかは僕は聞いてないけど」


「私が異名を手にしたときは人をよみがえらせる力に覚醒したね。消耗は半端じゃないけど」


 異名を手に入れるのはデメリットだけではないようで、異名を手にすることによって自身の能力のステータスアップや新たな能力にへと覚醒することがあると天津は説明するが、それほどの恩恵があるなら、異名を手に入れるメリットは十分だ。

 ドクターはその恩恵によって【天魔極解・理を超えた救済】を手に入れたといったが、その能力である死んだ者をよみがえらせる能力だということを聞いて、もしやこのドクターがエルを生き返らせたのかと思い、恐る恐るドクターに尋ねる。


「あの、もしかしてエルが生き返ったのって……」


「ああ、君の考えていることは大体当たってる。数時間前に彼女をよみがえらせたのは、私よ」


「私が、ドクターさんに?」


「生き返った本人が私の事を覚えていないのも無理はないわ。その時は他の救助に忙しかったから、手術が終わり次第すぐにその場から離れてしまったもの」


「そうだったんですか……」


 ドクターはエルが生き返った要因は自分が【天魔極解・理を超えた救済】を使用したからであると打ち明ける。

 しかしそのことをエルはまったくもって知らなかった。

 何せ手術が終了してからドクターはすぐに他のけが人の元に移動していたので、橘がビルの裏側まで運んで独り言をつぶやくまで意識を取り戻していなかったエルはそこまでの内容が抜けている為、誰が自分を生き返らせたのかを知らないのはいたっておかしくない。

 その内容を全て聞いた怜は急に深々とドクターの方を向いてお辞儀をし始め、一体急に何をし始めたのかと思ったドクターはぎょっと驚いてしまう。


「ちょっと、いきなり何?」


「ドクター、エルを生き返らせていただき、本当にありがとうございました。」


「別に私はお礼なんてものは求めていないし……」


「そうだったとしても、彼女は俺の家族のような存在なんです。エルが死んだとき、何もできない自分が憎かった、悔しかった。だからこそ、こうして奇跡のようなものを与えてくれたドクターには、どうしても言葉だけでもお礼がしたいんです」


「……お礼なら赤髪の女性に言いなさい。名前までは分からないけど」


「赤髪の女性って……」


「多分、明夏音さんのことだと思います。私が目を覚ました時、目の前にいたのは明夏音さんだったので」



 怜はドクターにエルを生き返らせたことに対してお礼を言ったが、ドクターは助けた人々から称賛されるために医者をやっているのではなく、あくまでも人々を助けるという使命の元で働いているので、お礼はいらないというが、それでも怜はお礼を止めなかった。

 ドクターはここまでお礼をされた存在は初めてで、橘が言っていた青年というのはこの目の前にいる辻井怜であり、彼女が言っていた以上にエルを心の底から大切にしてきているのが伝わってくる。

 そこでドクターは息を吐いてからお礼は自分ではなく赤髪の女性にしろと助言をする。

 その言葉を聞いた瞬間に怜はその赤髪の女性に心当たりがあり、隣にいたエルが意識を取り戻した際に一緒にいたのが橘だという証言で一気に確信に繋がった。


怜は、今度橘に会ったらしっかりとお礼をしなければいけないと心に刻む。


「まあそんな話は一旦ここまでにしておいて、そろそろ精密検査について話すわよ。私も24時間365日暇というわけじゃないから」


「はい」




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