75.敵か、味方か
次の怜とエルの目的は近藤にラティオマラ討伐の件を報告するために対策本部に戻ることだが、ここからだと少し遠いので黒役の方を呼んで車で乗せてもらうことにした。
飛行の力で行くのも考えたが、万が一エルが怜の後ろに掴まっていて落ちてしまうと考えると危険性がゼロとは言い切れない上、ラティオマラとの戦闘で邪神顕眼を2回も連続で使った影響なのか魔力はほぼすっからかんだ。
そして怜とエルは黒役が来るのを待っていると、辺りからぼそぼそと此方を向きながら何かを話している様子がいくつが見受けられ、何かやって市まただろうか考えるがこれと言って人々の迷惑となるようなことはしていないはずなので、一体何のことで言われているのか分からずだった。
「あの青年、大丈夫なのか……? さっき知り合いから邪神と同じ力を使っている青年を見たっていうけど……」
「分かんないな……敵か味方なのか……」
この気まずい空間から早くいなくなりたいとも思った時、黒いスーツの男性がこちらに向かって来ているのが見え、ようやく黒役が来てくれたのかと怜達もその男性の元に行くが、一つ黒役と違った点が見受けられた。
黒役は普段素顔を表に出さずに黒いサングラスをしているが、今目の前にいる男性はサングラスをしていない。
それに気が付いた怜は後ろにいたエルに止まる合図を出すと心配そうな表情で怜の背中を見つめていた。
「あなたが辻井怜か」
「そうだと言ったら」
「《《お前》》を邪神の一派と認識し、ここで捕縛、抵抗する場合は処刑する」
(なるほど、俺が邪神の力を手に入れてしまったから、他の人には俺も邪神の内の1体だと思われてるんだな。疑われても仕方ない)
怜は疑問に思っていたことの全てに辻褄が合い納得する。
近くの人々が怜の事を警戒し、目の前にいる男性が怜の事を捕縛、もしくは処刑すると言っているのは邪神という今日本で起きた大規模な戦いによってその凶悪さを世間に知らしめた存在が、今こうして人々の前に立っているからだった。
これには怜も疑われて仕方ないとも思っていたが、冷静に自分の身分を説明すれば誤解なども晴れるだろうと思い、スーツの男性に話を持ち掛けようとする。
「待ってくれ、俺はラティオマラのような凶悪な邪神ではないし、この世界を破壊しようだなんて考えていない。だから―――――」
「問答無用。邪神という脅威となる存在を全て抹消する。それが対策本部の任務だ」
「それは局長の命令か?」
「今は緊急事態だ。局長おひとりで全ての指揮を執ることはできない。だから手が空いていた私自らこの場に出向いたのだ」
この男性は局長の命令、ではなく邪神を対処するという対策本部の規律を守るために来たようで、今は自分自身の命でこの場に来たとのこと。
それはそれで対策本部の規約に違反するのではないだろうかとも思ったが、男性が言っていた通り今は緊急事態ということを考えれば身勝手な行動の1つや2つ行っても黙認される可能性は十分にあるのだろう。
ここで怜はもうこの男性とはいくら話したとて穏便な解決にはならないだろうと確信し、逃げるたにエルに見えるようにハンドシグナルで自分の背中にしっかり掴まっていろと教える。
会話を聞いていたエルも怜と同じ考えだったようで、怜のハンドシグナルをすぐに理解して怜の後ろでしっかりと掴まる。
「さあ、おとなしく投降しろ!」
「……悪いが、俺はこんなところで止まってられないんだ」
「何っ!?」
すると怜は最後の力を振り絞って飛行能力を使ってその場から逃げ出すのを見て、男性は素早く拳銃を取り出して発砲するが怜には当たらず、そのまま怜とエルの姿が段々と小さくなっていくのを眺める。
すると男性はスマートフォンを取り出して応援要請を呼び、通話を終えると別のアプリを起動し、怜が逃げていった方向に走って行く。
◇
飛行を初めてから数分で対策本部付近まで行けたが、怜はもう限界なのか顔色が悪く後ろで掴まっているエルもレイノ様子が悪いと感じ始めていた。
「お兄さん、大丈夫ですか……?」
「悪い、少し休みたい……一旦あの路地裏に隠れさせてくれ」
「分かりました」
あと少しで対策本部までだが、恐らくこのままノンストップで飛んでいくとガス欠になって動けなくなってしまうと見込み、怜は人がいない路地裏に隠れて休憩をしたいとエルにお願いすると、エルは快く了承する。
そして路地裏に到着して地面に着地した瞬間、怜の口からは大量の血が吐き出される。
余程限界まで人工悪魔や邪神の能力を使ったことによる代償なのか、怜の外見は傷一つないが、内部はかなり損傷しているのだろう。
苦しんでいる怜を見て、エルはそっと背中に触れる。
「お兄さん!? 血が……」
「あと少しなのに……」
すると後ろから鎖の音が路地裏に鳴り響いたかと思いきやエルの体に鎖が巻き付けられ、後ろに引っ張られる。
エルの驚いた声を聴いて怜は苦しみながらも後ろを向いてみるとそこには数名の黒役と先程の男性が立っており、エルはまるで人質状態になっていた。
しかし何故この男性は自分たちの位置を特定できたのか分からず、発信機も男性には近づいていない為取り付けられた覚えがない。
「何で、ここが……?」
「服の裏を見てみろ」
「これは……!」
「発信機をつけていた。だからお前たちの位置が特定できたのだ」
怜は言われた通り服の裏を捲って確認するとそこには薄く小型の発信器が取り付けられており、LEDが赤く発光している。
そして男性は怜に見えるように発信機と繋がっているスマートフォンのアプリを見せると発信機と今の男性の位置がはっきりと重なっていた。
「いつつけられたのかまるで分かっていないようだな。教えてやろう。この拳銃は銃弾ではなく小型の発信器を発射できる仕組みが備わっており、お前が空を飛んで逃げた際に発砲して取り付けた、というわけだ」
「くそ……」
男性の持っている拳銃は一般の銃弾が発射されるものではなく、銃口から発信機が発射されるように設計された拳銃で、怜が飛行能力を使って逃げようとした一瞬の間に運よく取り付けることに成功していた。
そのことを聞いて相手の作戦にまんまと乗せられたことに怜は男性を睨みつける。
「エルを、返せ……!」
「ならば投降しろ。そうすればこの少女の命だけは助けてやろう」
「エルは、関係ない……!」
「お兄さん!」
「ならば、今ここでお前を処刑する」
男性が提示してきた条件は怜が投降すればエルの命は助かるという条件だが、そんなものに怜が納得するわけもなく、エルはこの件には関係ないと否定の意思を示すと今度は本物の銃弾が入っているであろう拳銃を目の前に突き付けられる。
それを見て何かできないのかと考えるが、逃げればエルは再び殺され、投降すればエルの命は守られるが怜の命はなくなってしまう。
打つ手が無くなり、体からは冷汗が止まらず全身は死ぬ直前ということもあってか震えあがっていた。
そして拳銃の引き金に指がかけられ、少しでも力を加えれば銃弾が怜の心臓に目掛けて発射される状況で、男性は容赦なく引き金を引くが、その銃弾は怜の心臓に当たる寸前で銃弾だけ時が止まっているかのように動かなくなる。
「何……?」
「はい、そこまで~」
別の謎の男性の声が路地裏の上から聞こえ、全員の視線がその方向に行くと、その声の正体はにっと笑っており、かざしている手からは青色のオーラが流れていた。
「ピンチにならないって未来だったのに、もしかしてもう歳が来ちゃってるのかな~」




