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人工悪魔は影から  作者: イワスズタ
第1章 3/3 The Hollow Ordeal 人邪覚醒篇

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74.夢現に

 怜が『邪神顕眼 夢現・朧』を使用すると怜の外見が変化し、長めの襟足の先が半透明になり、前髪にはメッシュで襟足と同じように半透明な髪色が現れる。 

 髪が半透明な人間なんてこの世にいるはずがないが、この状況だけではそのことがまるで当たり前のようにこの場にいる全員が感じていた。

 そして怜の手元には惨黒刀とは違った日本刀があり、その上身には黄色の稲妻の文様と紫のオーラが漂っており、その刀で左から右に大きく振り切ると無数に襲い掛かろうとしていたS級テラポーンが一瞬で両断されて崩壊していく。

 その動きはまるで刀に漂っている稲妻のように速く、地面に轟くようだった。

 特徴的だったのはそこだけではなく、両断されたテラポーンの切り口が妙な形をしていたからで、その形は切れ味が良い刃物で紙を切った時の綺麗な切り口ではなく、手で紙を破った時のような汚い切り口だった。

 攻撃が終わると刀の稲妻とオーラは消えていき、黒い刀に変化していく。

 ラティオマラは今の一瞬の光景を理解するのに時間が必要だったが、そんな時間は怜は上げるつもりはなく、釈然としているラティオマラに近づいていく。


「馬鹿な……あり得なイ……私の、最高傑作が、こんな簡単に破られるなド……」


 怜はラティオマラが独り言を言っているのをあたかも聞いていないかのように刀の先をラティオマラの顔に突き付ける。

 この瞬間に、ラティオマラは確信した。この人間《邪神》には自分では遠く及ばなかったのだと。

 それを確信した瞬間、邪神顕眼をした時の高らかな笑い声はどこに行ったのかと言わんばかりに怜に対して命乞いをし始める。


「た、頼ム! 殺さないでくレ! そうだ、死んだ人間を生き返らせてやル! これでいいだろウ!?」


 この命乞いに対して怜は口を開かないかと思ったが、その瞬間に怜の口がゆっくりと開く。


「……人の命を軽く見てる奴に、許す価値なんてないだろ」


「待っ―――――――」


『邪神顕眼 夢現・朧』


 怜はラティオマラの命乞いを容赦なく断ち切り、再び邪神顕眼を使うと力を失って黒くなった刀が力を取り戻したかのように稲妻が走り、オーラが湧き出る。

 その刀で「待ってくれ」の言葉を言い切る前にラティオマラの首を切り落とすが、テラポーンと違って防御力が上の影響で簡単には切れずに途中で刀が止まったが、そんなことお構いなしに膝を曲げ、腰を落とすと、途中で止まっていた刀が動き出し、そのまま最後まで刃は進んで行った。


 首が地面に転げ落ちると、全てを諦めたかのようにラティオマラは自身の体が崩壊するまでに怜にこれからの事に関して忠告をする。


「このまま、未来が良い方向に行くと思うなヨ、辻井怜。邪神の力を人間の身に取り込むということは人間を止めるというこト。これから自分に降りかかる絶望を、しかと噛みしめるとイイ……!」


 邪神を取り込んだ怜は人間ではなくなるという言葉を聞いた怜は少しだけ表情が曇ったようにも見えたが、それでも残りの邪神を全て倒して、世界の脅威を防がなければいけない。

 そして遺言を残したラティオマラは体が崩壊し、中から黒く光るコアのようなものが現れ、怜がそれを破壊しようと足を動かした瞬間に何者かがそのコアを盗み、すぐにその場から逃げ去ってしまう。

 その正体が一体誰なのかは全く分からないが、人型を模したシルエットということだけは目視できた。


 ラティオマラとの戦いが幕を閉じ、怜も邪神顕眼を解除すると半透明になっていた髪色が元の黒色に戻り、刀もどこかへ消えていった。


「俺、本当にラティオマラを倒したのか……? 邪神の力で」


 邪神顕眼を解除した怜は自分がやっていたことをあまり覚えていないようだが、ラティオマラに液体を飲まされた時点で意識はなくなっていたので覚えていないのも不思議ではないが、本当に邪神の力で倒したのか、その疑問だけはぬぐい切れなかった。

 そして怜は戦いが行われた現地をゆっくりと見渡すと辺り一帯は倒壊したビルや住宅、怪我を負った能力者や一般人などで溢れかえっていた。

 このような脅威を後8体倒さなければいけないとなると、かなり難儀な任務となるだろうが、それでも誰かがやらなければ、いずれ地球は終わりを迎えてしまう。

 その結末を阻止するためにも、今後も戦わなければいけない。


「そうだ、エルはどうなったんだ……?」


 怪我を負った人を見て思い出したのは、エルの事だ。

 エルは上城戸《かみきど》によって命を落としてしまったが、その体は今どこにあるのかは怜は分かっていない。

 何せ現実空間に戻ってきてからすぐにラティオマラとの戦闘を行ってきた為、エルの事まで頭が回らなかったからだ。

 そして怜はアスファルトの地面に降りて来た道を歩いて戻ることにした。

 歩くこと数分、ビルの横を通った時、見覚えのある人物を目にする。


「湖崎? 大丈夫か!?」


「何とかな。戦いは終わったようだな」


「ああ。湖崎、エルの居場所を知らないか?」


「詳しくは分からないが、あっちの方に逃げていった」


「逃げていったって……生きてるのか、エルは!?」


 湖崎にエルの居場所を聞いてみると、エルが「逃げていった」という言葉に怜は止まり、死んだはずのエルが動けるはずがないのに逃げたということは、エルは生き返っているということになる。

 そのことを聞いた怜は焦った表情で湖崎に詳細を聞くことにした。


「俺も誰がエルを生き返らせたのかはわからない。が、確かにエルは生きている。これだけは本当だ」


「……ありがとう。エルを探してくる」


 湖崎は誰がエルを生き返らせたのかまでは分からなかったが、エルと一緒にこの戦場に来た事、そして湖崎の言葉によってこの場所から逃げていったことは真実であると怜に話す。

 その言葉を怜は信じ、去り際に湖崎の方を優しく叩き、立ち上がってエルが逃げていったという方向に向かって走っていく。

 その方向にあるのは最初にこの現実空間に戻って来た時の場所で、その場所に到着するとここにも負傷者がおり、こちら側では恐らくテラポーンの被害によるもので、ラティオマラの被害ほどではなかった。

 到着してから様々な人に情報収集を行っていると、近くのビルの裏側で、金髪の長い髪がなびいているのを発見し、もしやと思って走ってそこに向かう。


「エル!」


「お兄、さん? うわっ!」


「よかった、生きてて……本当に良かった」


 怜は金髪の長い髪をした正体がエルだとわかると大きな声で少女を呼ぶとエルはぐりかえって怜を呼ぼうとした瞬間に怜はエルの事を強く抱きしめる。

 その目には、涙が浮かんでいた。

 一度死んだと思っていた大切な家族ともいえる少女が、今こうして生き返って怜の目の前にいることが嬉しくてたまらなく、怜は何度もエルに対して生きててよかったという。

 その言葉に対してエルも微笑みを見せた。


「ごめんなさい、心配をかけてしまって」


「いいんだ、今は。こうして生きていてくれるだけでいいんだ」


 エルは自分が無茶な真似をしてしまったせいで怜を悲しませるような事態を招いてしまったことを謝罪するが、今の怜にとってエルからの謝罪は無用だった。

 エルが生きている、そのことだけで胸がいっぱいになるほどに嬉しくてたまらないからだ。


「……とりあえず、今は対策本部に向かおう。局長に知らせないと」


「ですね」



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