73.人間から
ラティオマラの放った言葉はこの場にいる全員が驚愕するもので、奴が言っていることが本当ならば、今怜はラティオマラと同じ邪神の力を手にしているということになる。
しかしテラポーンよりも強い存在として覚醒したならばラティオマラとしても好都合のはずだが、何故か怜の存在を拒んでいるかのように怒りをあらわにしている。
「何故ダ……何故だ何故だ何故ダ!!」
理解不能な状況にラティオマラは咆哮を上げて怜の方向に向かって破壊したコンクリートの破片を投げるが、怜がその破片に触れた瞬間、破片は触れた箇所から塵になって消えていった。
そして怜は反撃として魔力とは違う何かで形どった剣を光速の速さでラティオマラの方に向かって飛ばすと、その攻撃に反応できなかったのかラティオマラの右腕を貫き、腕が地面に落ちる。
切り落とされた箇所を押さえ、今まで感じた事の無い痛みを感じたラティオマラはこの辻井怜という存在は九邪神にとって脅威となる存在に間違いないと確信し、ここで倒さなければと戦闘態勢をとる。
すると押さえていた箇所からコードのようなものが無数に伸び、落ちた腕に繋がりそのままラティオマラの腕に繋がり修復される。
「許さないゾ……人間風情が我々邪神と同じ境地までたどり着くなど、到底あり得ないのダ!」
どれほどラティオマラに言われようと、怜は一言も口を開いて言葉を発することは無く、まるで今までの怜とは別人のような佇まいでラティオマラを見つめ、怜も戦闘態勢を取ろうと引き寄せる力でラティオマラに囮として使っていた短剣を自分の元に引き寄せ、両手に剣を持つ。
すると怜はラティオマラ目掛けて素早い動きで突進し、攻撃を仕掛けるがラティオマラはまだ腕を切り落とされた程度の攻撃しか受けていない為まだよりょおくは十分に残っており、瞬時に剣を製造して怜の攻撃を防御する。
ラティオマラは邪神として覚醒した怜を間近で見るとテラポーンになる直前に見られた傷などがきれいさっぱりとなくなっており、覚醒したことで傷が癒えたのかと思ったが、覚醒してすぐにここまでの力が出るとは予想外で驚く。
しかし邪神として覚醒する前の怜の攻撃とは一線を画す速さで、この速さにはラティオマラも出るはずのない冷汗が出そうなほどであり、あと一歩動くのが遅ければまた攻撃を受けていただろう。
防御できたラティオマラは一度後ろに下がって距離をとろうとするが後ろに移動したときにはもう怜はそのまた後ろに移動しており、ラティオマラを切り上げて上に打ち上がるとまたラティオマラが動くより先に上に移動してラティオマラが怜にやったように足を持ってアスファルトの地面にたたきつける。
人工悪魔の力だけの時では考えられない邪神を圧倒する身体能力に近くにいる能力者はただただ立ち尽くして眺めていることしかできなかった。
「あり得ない……この私が、邪神である私が劣勢になるなど……!」
人間よりも高度な身体能力を備えた自分がどうしてその人間に圧倒されなければいけないのか、そのことに対して疑問を自身に投げかけるが、そのことに対する答えなど、当然帰ってくることは無かった。
何せ、今までで初めて起こった現象なのだから。
そんな答えが返ってこない疑問を自身に投げかけているラティオマラに対して、怜は容赦なく足のつま先でラティオマラを蹴り飛ばすと物凄い速度で建設途中の建物の方に飛んでいき、衝突すると立てられていた鉄骨などが山ほど下にいるラティオマラの元に落下していく。
その状況を見ていた一般の能力者は他の人と怜の存在について話し合っていた。
「おい、あいつ本当に人間なのか……?」
「邪神って言ってたよな……? ってことはあいつも俺たちを殺しに来るんじゃないのか?」
「馬鹿言え! そんなわけないだろ。今こうして邪神を倒そうとしてるんだから」
「いやまあそうだけどさぁ……」
人々は怜の存在をどう認識すればいいのか困惑状態で、ある人は怜もラティオマラと同様にこの地球や人間を破壊する存在だと意見を述べ、ある人は怜は他の邪神とは違い、地球を破壊しようとする邪神を倒す正義の邪神だと述べたが、どれが正解なのかはこの場にいる全員分からないままだ。
天津もその光景をしっかりと目に刻んでいたが、下にいる人たちとは違い、不安や心配というよりもわくわく、高揚感の方が圧倒的に高かった。
「すごいね。さっきまで一方的だったのに、邪神に覚醒したとやらで一気に形勢を逆転させて、今ではこっち側が一方的に攻撃をしている……いやはや、こんなにわくわくするような戦いは久しぶり、いや、初めてかもね」
天津は冷静に状況を分析しているが、この戦い程わくわくするような戦いは初めてのようで、心の高ぶりが収まらずに体を動かしてその高揚感を表現する。
すると鉄骨の山からラティオマラが大きな音を出して姿を現したが、奴の怒りは最高潮に達したようで、もはや怜を倒せるのならばそのほかはどうなったっていいと言わんばかりだ。
「許さんぞ辻井怜! ここで貴様を根絶やしにしてやル!」
『理の終着点【フィニス・ラティオーニス】!』
ついにラティオマラが邪神顕眼の固有能力である力を解放すると、体から設計図のような模様が現れ、完成に近づくにつれてS級のテラポーンと思わしきテラポーンがどんどんと形成されていき、完成するとその数はおよそ100体で、その100体が一斉に怜の方に押しかけてくる。
そこで何故か怜は短剣2本を手から離し、その剣は亜空間魔法によって回収されたが、ラティオマラの邪神顕眼の能力が押し寄せてきているというのに怜は謎の行動をとった。
その光景を見て、自分の能力に恐れ入ったのだろうと思い、ラティオマラは最初に圧倒していたころの高らかな笑い声を出す。
「私の力に恐れ入ったようだナ! だがもう遅イ! 滅びろ、辻井怜!」
ラティオマラがしゃべり終わったのと同時に怜は何故かにやりと笑い、とある言葉を口にする。
『邪神顕眼。夢現・朧』




