72.変異する
ラティオマラが怜をテラポーンにする儀式が終わったと高らかに笑いながら宣言している中、その場所には他の能力者もヘリコプターや専用の乗り物で続々と到着してきていた。
その中には湖崎や陽凪、そして戦闘には参加しないがエルも同行しており、ヘリコプターから降りてすぐに湖崎が倒れている怜の姿を発見し、陽凪とエルにも指を指して知らせる。
「おい、あれ辻井じゃないのか?」
「辻井、さん……?」
「……」
この場で一番冷静な反応をしていたのは湖崎であるがそれでも怜のような強者がこうも簡単に倒されているのはあまりにも信じがたいことだった。
陽凪は苦しくも現実を受け止めていたようにも見えたが、一番信じられない表情をしていたのは当然エルだった。
自分を幾度となく助けてきた怜が無残な形で倒れているのが彼女にとって受け止めようにも受け止めきれないことであり、湖崎や陽凪のように声を出すこともできなく、倒れている怜の元に行こうとしても足が地面に埋まっているかのように動けない。
他の能力者はすぐにラティオマラの元に向かって戦闘を開始しているが、邪神顕眼を使った神の前では手も足も出ずにどんどんと人が倒れていく光景は、まさに地獄と言って変わりないだろう。
湖崎と陽凪はアイコンタクトをとってラティオマラに立ち向かっていくが陽凪が能力を発動させようとするとランクの格差によるデメリットが作動し陽凪はその場で動けなくなり、そこにラティオマラの伸びた腕が飛んでくる。
湖崎はすぐに地面を蹴って陽凪の元に移動し剣で腕の攻撃を防御するがすさまじい威力に押し負けてしまい2人はそのまま後ろに吹き飛ばされる。
「くそ……!」
湖崎はこのままでは後ろの建物の壁と湖崎の間にいる陽凪が衝撃で危ないと判断し、湖崎は陽凪を横に押すと陽凪は地面に転げ落ち、湖崎はそのまま建物の壁に衝突する。
その光景を見たエルがようやく体が動くようになり吹き飛ばされた湖崎の元に爆発やがれきが飛び交う中走って向かっていく。
「湖崎さん!」
「エル……逃げろ……これは俺たちがどうこうできる問題ではない……」
「でも……!」
湖崎はエルにこの場から逃げろと言うがエルはこの場から離れてしまったら湖崎たちが危険な目に遭うからと逃げようとしなかった。
すると爆発音とともにエル達の方に向かって瓦礫が落ちてくるが、そこでも湖崎は出し切れる力全てを使って剣を使って瓦礫を切り落としてエルが怪我をするのを防ぐが、先程のラティオマラの攻撃の影響もあって湖崎の剣にはヒビが入っている。
そして剣にひびが入ったことに連携するかのように湖崎も膝に手を付いたかと思えばアスファルトの地面に倒れる。
「湖崎さん!」
「に……逃げろ……」
「……ごめんなさい!」
エルは2度目の湖崎の言葉で申し訳なくもその場から走って安全な場所まで力を振り絞って逃げ出す。
その光景を視界に入れていたラティオマラは殺す価値もないと判断したのか攻撃を一時中断し、上を向いて高らかに笑いながら怜が倒れている場所まで歩いていく。
「フハハハハ! やはり人間というものは脆く醜いナ! もはや私が手を下すまでもなくこの地球は滅びそうダ!」
「ここまでなのか……」
「さて、最後は新しく誕生した者にやってもらおうカ――――――ン?」
ラティオマラは最後の攻撃としてテラポーンとして生まれ変わった怜を使おうと目線を上から怜の倒れていた場所に落とすとそこにはもう既に怜の姿は消えていた。
どこに行ったのか分からないラティオマラは辺り一帯をくまなく探すが、どこにも怜の姿はなく、せっかく新しい道具を作り出せたというのに早々にしていなくなったことに苛立ちを感じ始め、アスファルトを勢いよく蹴ってビルの屋上から大声で怜の存在を探し始める。
「どこダ! どこに行っタ!」
ラティオマラはビルの屋上からも探したがそれでも怜の居場所が掴めずに拳を強く握りしめていると、上から強烈なオーラが漂っているのを感じ取り、もしやと上を向いてみる。
そこにいたのはテラポーンになったはずの怜が人間の姿のまま空中に浮遊しており、ラティオマラを上から見下ろしている。
その光景はまるで上下関係が逆転したかのようで、ラティオマラが怜が何故人間の姿を保持できているのか疑問に思っているところをあざ笑っていると言っているようだった。
誰もが驚愕するような光景を見ていた灰色の髪色をした、天津悠はふふっと笑いながら怜の方を指さして満足げな大声で独り言を話し始める。
「あっはっはっはっは! まさかピンチにならない理由がこれだとは! あのオーラは今まで見たことないや!」
天津でさえ怜の禍々しくも透明感にあふれている特殊なオーラは今まででも見た例がなく、初めての光景に笑っていた。
しかし対してラティオマラは自分の思い通りにならずに、テラポーンにしたはずの人間が見たこともないような姿に様変わりしたことに怒り狂い、とある《《ワード》》を口にする。
「何故お前のような人間風情が《《邪神》》の力を保持しているんダ!!!」




