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人工悪魔は影から  作者: イワスズタ
第1章 3/3 The Hollow Ordeal 人邪覚醒篇

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67.亡くした命、救う

 橘の目の前に突如として現れた『ドクター』と名乗る女性は、辺りを見回して負傷者がいないかを確認した後、救急箱を取り出すと中から小さな妖精が大勢現れそれぞれ負傷したところに向かって治療を始める。

 橘や瀬戸口の元にも妖精が到着して治療を始めるが、隣にいたエルには妖精が来ていなかった。

 もしかして死んでしまった人間には妖精は来ないのかと再び不安が込み上げ、ドクターにエルも直してほしいとお願いをする。


「あの! ドクター!」


「何? 私はまた別のところに行かないといけないんだけど」


「この子も治してあげてください!」


「悪いけど、死んだ人間は私の妖精、ナースでは治すことは不可能なの」


「そんな……他に何か手は!?」


「無いね」


 ドクターの冷たくも否定できない言葉に、橘は絶望の表情をする。

 死んだ人間は蘇らないというのは重々承知しているが、天使と悪魔の能力という特別なものがあれば現実にはあり得ない奇跡が起こってもいいではないかとも思ったが、人の命を預かっている職業である医者からの言葉はとても重かった。

 その時、ドクターの口から呆れたようなため息が吐き出され、橘の方を向いたかと思いきや横に倒れているエルの方に向かっていく。


「……今まで、死んだ人間を生き返れせて欲しいという言葉を幾度となく聞いてきた。でも死んだ人間は生き返らないのが世界の理なのよ」


「ですよね……虫が良すぎましたよね……」


「でも、私の能力はその理を破壊した」


「えっ?」


「私の能力、人命医療《ドクターアンドナース》は、怪我をした生きている人間なら妖精ナースで回復させることができるけど、死んだ人間はドクターである私自身の力でしか対処できない」


 ドクターは自身の今までと能力を淡々と説明し始めた。

 今までのドクターとして活動した期間で、事故や戦争などで死んでしまった人間を生き返らせてほしいという依頼がドクターに対してやまなかったそうだが、そもそも死んだ人間を生き返らせるのはこの世の理を捻じ曲げる行為である為、ドクターは生き返らせたのは過去2回だけらしい。

 そしてドクターの能力はまだ意識のあるものは先程救急箱から出てきた妖精ナースで回復させることが可能だが、死んだ人間にはその能力は適応せず、能力を所持しているドクター本人が対処しなければいけない。

 それはすなわち、ドクターの力があれば死んだ人間も生き返らせることができるのではないかと橘は思ったが、このような話をしているということは死んだ人間を生き返らせるにはそれなりの代償があるのかと考える。

 そしてドクターは話を続ける。


「あなたは、今までこの子を自分よりも大切な存在として接してきた?」


 その言葉を聞いた瞬間、全身を襲うような激しい痛みに襲われるような感覚がした。

 エルには丁重に接していたつもりだったが、あくまでもそれは主観的な意見であって、客観的に見れば丁重に接していないのかもしれなかった。

 橘はその言葉に対して苦し紛れに会話を続ける。


「あたしは、できていなかったかもしれない」


「そう、なら話は決まりね―――――」


「でも! その子を家族のように接してきて、いくら自分の命が危うくなったとしても諦めずに敵に立ち向かった青年がいる。その青年の為に、生き返らせてほしいの……私はどうなったっていい。だから……」

 

 橘はありのままを伝えるとドクターは救急箱を持って別の場所に行こうとしていたが、橘が続けて話をしようとするとドクターの足がぴたりと止まる。

 続けて橘は怜の存在を話した。

 その青年はエルを血縁関係がなく、出会ったのもつい最近だというのにまるで最初から家族だったかのように接し、今回の遊戯《ゲーム》でもエルが危険な状態になった時も怜は自分の命を投げ捨てでもエルを生き残らせて現実空間に帰らせるという自身の任務を遂行するために動いていた。

 その青年の為にエルを生き返らせてほしいと、最後のほうはもう言葉を発しているはずなのに声が出ないくらいに橘はドクターに懇願した。

 エルが死んでしまった原因を作ったのは自分であるからこそ、どんな責任だとしても一生を背負っていくつもりでもある上、命を捧げたとしても彼女にとって良かった。

 その自己中心ていな懇願なのは分かっていながらも、涙を流しながらドクターの方を向いていると、ドクターは言葉を口にせず、時間だけが経過していく。

 別の場所では怜と湖崎、陽凪が各々ラティオマラやテラポーンと戦っており、その激しい戦闘の音が絶えずに流れていた。

 そしてやはり駄目かと思った時、ドクターが口を開く。


「……今回だけ、特別処置としてあげる」


「本当に……?」


「ええ。でもこの件の借りはいつか返してね。私の能力はそう安いものではないんだから」


「……必ず、返します……!」


「よろしい。じゃあ、今から始めるから、少し離れて」


 ドクターは特別にエルを生き返らせると言った。 

 橘は最初何を言ったのか理解できなかったが、その後のドクターの説明でようやく理解し、彼女にいつか必ず形としてでも借りを返すことを約束すると、ドクターは少しだけ微笑んでエルの方に視線を向け、処置を始める。


『天魔極解《てんまきょっかい》、理を超えた救済【ラティオネム・ビヨンド】』



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