66.邪神、始まる
◇怜視点
ラティオマラは突然ルールを変更し、第3回が終了した際の生還者から特待生を選出されるはずだったがそのルールが変わり、第3回の遊戯は怜とラティオマラの1対1の戦いということになった。
既に第2回の戦いで疲労困憊の中で九邪神の中の1体と戦うのはかなり無理のあるものとなるが、ここで戦わなければ世界の脅威を野放しにしてしまう。
そして人工悪魔という世界で最も重要な存在と言っても過言ではない力を受け取った者として、ここでラティオマラと戦うことを怜は決心し、立ち上がって亜空間魔法で惨黒刀を取り出して歩いていく。
既に第2回は終了しているので、もうルールである能力の使用禁止は解除されているため、あとはラティオマラに全力で挑むだけだ。
「お前のくだらない遊戯を、ここで終わらせる」
「出来るものならやってみロ」
するとラティオマラは巨体の中でテラポーンを大量に製造し、怜の前に立ちはだかるがそんなのよりも本体を攻撃するのが重要だと思った怜は惨黒刀に魔力を込めて大勢のテラポーンを一振りでなぎ倒す。
その光景を見た同じ場にいる全員が驚いていたが、そんな中でいち早く現場付近に到着した天津がビルの屋上から怜の戦いを観察していたが、彼からしても驚きの一撃だったようで思わず口角が上がる。
「おお~すごいな。あの量をたった一撃で……やっぱり今回の戦いではピンチにはなりそうには無いね。僕はこのままここから観察しようかな」
「怜……彼は一体何者なんだ……最近能力が覚醒した奴ができることをいともたやすくやって見せる力……」
「ほんと、訳が分からないっすよ……」
橘や瀬戸口が驚いている中でも怜はラティオマラに攻撃を仕掛けているが、全て奴にとっては赤子の手をひねるかのように簡単に防ぎ、無限にテラポーンを製造しては怜にぶつけ、そのテラポーンを怜は刀で破壊し続ける。
このままでは怜の魔力切れで負けてしまう状況で、橘達は怪我をしていて何もサポートできないと悔やんでいるとき、後ろの方から2人ほどが歩いてくる音が聞こえ、振り向いてみるとそこには杖を持った臆病そうな少女と、西洋剣を持った黒髪の青年の2人だった。
「あれがラティオマラの全貌か」
「ほ、本当にわたし達も援護に行くんですか……?」
「当たり前だ。あいつ1人だけで戦ったら魔力切れを起こしてしまうだろう」
「うぅ……」
その2人は怜の援護に行こうとしているが、それ以前に怜とラティオマラの1対1の対決という遊戯のルールを無視して援護に入れるのかという疑問が橘の頭の中に浮かんだが、その2人はそんなことは考えずにただ怜を助けようという気持ちだけを背負ってこの場にいるようだった。
西洋剣を持った青年は恐怖など感じないとでも言わんばかりの佇まいをしているが、杖を持った少女はもう今すぐにでもこの場から逃げ出したいと言っているかのように怯えていた。
そこで2人に橘が苦しみながらも話しかける。
「あ、あんた達……!」
「あ、あなたって、もしかして、橘明夏音さん……!?」
「知っているのか?」
「は、はい。日本一のファッションデザイナーで、今一番S級に近いと言われている人です」
「そうなのか」
「2人とも、怜を助けに行こうとしてるみたいだけど、これは怜とラティオマラの1対1の戦いだっていうことを忘れてない? もしかしたら戦闘に参加できない可能性だって……!」
「そんなのは今関係ない。俺もあいつも、それぞれ目的があるから戦ってるんだ。俺はそれをただサポートするだけだ」
「わ、わたしもです」
西洋剣を持った青年は自分の目的の為にラティオマラを倒すだけであって、その目的が現時点で怜と一致しているからこそ協力して邪神を倒そうと思ったからこそ今この場にいると説明した。
杖を持った少女も続いて怯えながらも青年と同じ気持ちだと橘に伝えると、2人は戦っている怜の元に向かう。
そんな中、怜の元に向かおうとしている2人の名前だけでも聞こうと思った橘は急いでいる状況ではあるものの2人を呼び留める。
「ちょ、ちょっと待って!」
「まだ何か話でも?」
「2人、名前は?」
「……湖崎清人。こっちは陽凪すみれ」
「陽凪です……」
そう名乗った2人は急いで怜の元へと向かっていった。
怜は未だラティオマラと戦闘を続けており、休む暇もなくテラポーンが攻撃を仕掛けてくるのを防ぐので精一杯になり始め、どんどんとラティオマラに近づくどころか遠ざかっていた。
そしてテラポーンからレーザー光線が放たれ、間一髪で回避して勢いよく後ろに下がってから足でブレーキを踏むように止まると、横には湖崎、後ろには陽凪が経っていた。
「2人とも……」
「苦戦しているようだな」
「援護に、来ました……!」
「……ありがとう。助かる」
「俺たちはテラポーンをやる。お前は邪神を」
「ああ」
湖崎たちは3人で戦うための作戦を端的に説明すると、目の前にいるテラポーンは湖崎と陽凪の2人で、親玉であるラティオマラは怜が対応する作戦となった。
作戦としては順当だが、怜1人でも苦戦を強いられた大勢のテラポーンを湖崎と陽凪の2人だけで対処できるか怜は心配だったが、彼らの目を見ると不安など一切なく、ただ世界を脅かす存在を倒すという目的のためにやるしかないということを物語っているような目をしていた。
そして3人はお互いに目を合わせた後、怜の掛け声に合わせてそれぞれ分かれて作戦を実行に移し始めた。
その光景を見ていた橘は自分も戦いたい、皆の役に立ちたい、しかし現状は致命傷を受けていてまともに戦える状態ではない自分が悔しいという感情でいっぱいだった。
その時、横からヘリコプターが上空からこちらにへと向かって来ているのが見えて、近くに降りる瞬間は風圧の影響で目を瞑った橘だったが、目を開けた時には白衣を着た女性が立っていた。
「あ、あなたは……?」
「私はドクター。局長の命によって駆け付けた」




