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人工悪魔は影から  作者: イワスズタ
第1章 2/3 The Hollow Ordeal 死島団戦篇

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63.怒りで抉る

 怜が見た光景というのはエルの腹部に上城戸に捕まった時とは別の銃弾に撃たれた跡がみぞおち付近に着弾し、そこから血が大量に流れ、先程瀬戸口らが処置した包帯の上からどんどん血が滲んで全体が真っ赤に染まっていく。

 それを見た怜はどうしたらいいか思考が止まってしまい、上城戸たちを倒すプランを考えていたはずなのにそのプランも頭の中から完全に抜け落ちてしまい、頭の中が空っぽになってしまう。

 エルに手を伸ばそうとしたが、その伸ばそうとした手も非常に震えており、まるで少しでも触れたら崩れ去ってしまいそうなものを今触ろうとしているのかと言わんばかりだった。


「エ……エル……」


「かはっ……お、お兄さん、私のこ、ことは、気にしなくていいですから……ゲホッ……!」


「もう喋るな……! 傷が更に開く……!」


 エルは気力を絞って言葉を発するが、その言葉一つ一つが怜にとって聞くに堪えないほど痛みと苦しみに満ちた言葉で、傷が開くから喋るなと彼女を静止しようとするが、それでもエルは話を続ける。


「私……死んじゃうん、ですかね……?」


「安心しろ! 俺が絶対に死なせない! 絶対に助ける!」


「お兄さん、ごめんなさい……私無茶ばっかして……けほっ……」


「そんなの助かった後いくらでも助けてやる! だから、頼む……もう喋らないでくれ……」


「れ、怜……」


 エルはもうすぐ自分に市が訪れるのかと怜に聞くが、怜は何が何でもエルを絶対に助けると誓うと、エルはいつもの怜の優しい言葉に痛みに苦しみながらも微笑んで返して見せる。

 そして今回の原因は自分にあると弁明するが、その言葉は今の怜には必要なかった。

 今怜に必要なのはエルが生きてくれることであって、自分を責めたまま死んでしまうことではない為、エルがこの後助かった暁には、その時にはしっかりとそのことに対して怒ってやると返すとまたもエルは微笑みで返して見せる。


 それを傷口を押さえて木に凭《もた》れて見ていた橘は自分のやってしまったことをこれでもかというくらい反省していた。

 もしもエルが死んでしまったら取り返しのつかないことになる、なんて豪語しておきながら、その言葉が現実になってしまった。

 これこそ本当に自分のせいであると、取り返しのつかないことをしたのはエルではなく自分だと未熟すぎたがゆえに招いてしまったことに悔し涙を流しながらも心の中では数えきれないほど怜に、そしてエルに謝罪する。

 傷が痛んでしまう為あまり言葉は出せないが、それでも今自分ができるのは怜のサポートではなく謝罪だと思ったからこそ、今心の中で橘は謝罪していた。


 すると怜はエルの体を自分の方にゆっくりと、痛まないように寄せてエルに一つの約束を誓う。


「エル、俺はこの戦いに勝って、絶対にお前を助けて見せる。だから、今はゆっくり休んでてくれ」


「……お兄さんなら、きっと、勝てるって……信じて、ますから……」


「ああ」


  そして約束を誓った怜はしゃがんでエルの体を静かに横たわらせて、短剣をとってから立ち上がって再び上城戸たちの方へと向かっていく。

 

 その青年の目からは、彼の怒りと悲しみを象徴するかのような涙が一滴、頬に流れ落ちる。


「余興はもういいかな? まちくたびれたよ」


「これで終わりにしよう」


「君と最初で最後、初めて意見が合ったね」


 怜も上城戸も、この戦いですべての決着をつけるつもりで初めて2人の意見が合致したが、それもこれで最初で最後となる。

 そして最初に仕掛けてきたのは上城戸で、恐らく怜がエルと話しているうちに交換したであろうアサルトライフルを射撃するが、その弾丸は全て怜の短剣の目で追えないような速度の剣捌きによって無効化される。

 マガジンに入っている弾薬を全て使ったものの、怜にはかすりもせずに撃ち終わり、不服そうに「チッ」と舌打ちをすると弾薬が空になったライフルを後ろにいる樋口に投げ渡しリロードさせて、その間にピストルで応戦する。

 上城戸がピストルを出したのとほぼ同時に怜も短剣だけでは上城戸に近づけないと思ったのかポーチからピストルを取り出してお互い同じ武器での再選が始まる。

 今のところの戦績は怜が2勝、上城戸が1勝と怜が少しだけ有利だが、この戦いではほぼ誤差の範疇にすぎず、ピストルでの戦闘が始ったが、未だお互いに命中できていない。

 かれこれこの廃墟の地に来てから約30分ほど、ほぼ休みなしに非常に激しい戦闘を行ってきた影響で怜も上城戸も事前に休憩時間で休息をとったものの、疲れは徐々に表れ始めている。


「どうしてお前は、あんなか弱い子を悲惨な状態にできる!」


「決まっているだろう! 生きるためさ! 君だって生きるためにこの遊戯《ゲーム》が始まってからというもの、幾度と同じ人間と戦い殺してきたはずだ」


「それは不可抗力だ! 勝たなければ死んでしまうこの場所では仕方なく殺しをしてしまう状況が多数ある! だがお前のはれっきとした拷問だ」


「分かってないなあ。私がやったのはあくまでも情報を聞き出そうとしただけ。彼女があんな負傷をしているのは情報を吐かなかったから殺そうとしただけだ」


「殺そうとした? 嘘つくなよ。だったらあんなにあちこち銃弾を撃ち込まれた形跡があるのは不可解だ。お前のような奴なら動いている奴だって一発で打ち倒せるはずだ」


 怜は戦闘中に上城戸にどうしてエルにあれほどの仕打ちを行ったのかを問うと、彼は生きるためだと弁明した。

 この遊戯《ゲーム》に勝ち残るために、敵であるエルから情報を得ようとしていたが、彼女からは何も情報を得られなかった為、殺そうとしたと言っているが怜にとってそれは不自然だった。

 上城戸ほどの実力ならばエルのような身体能力が高くない非能力者なら彼にかかれば一発の銃弾で急所を撃ち抜けるはずだと怜は踏んでいた。

 なのにエルの体には複数の銃弾に撃ち抜かれた跡があったことから、上城戸は情報を手に入れるためにエルを拷問していたに違いないと考えていた。

 そしてその会話が終わること、上城戸が後ろを向かずに走っていると何かに躓き、転んでしまい、怜は上城戸が転ぶ原因となったものの頭を撃ち抜いた。

 そう、上城戸が躓いたのはアサルトライフルをリロードしていた樋口だった。

 怜は会話中に遠回りをして最終的に最初の樋口が隠れていた場所にたどり着くように銃弾を撃ったりと誘い込んでいた。

 その作戦が見事に成功し、何が起こったか分からないまま樋口は怜の放った銃弾に頭を撃ち抜かれてしまい、死んでしまった。

 これで、正真正銘1対1になった。


「終わりだ、上城戸」

 




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