62.敵、欺く
橘が戦闘を終えた頃、怜の方では未だ上城戸との戦闘が行われていたが橘はその戦いに加わるつもりはなく、彼が緊急事態になりそうだと判断した時に応戦しようと考えていた。
この戦いは彼の戦いであり、チームの戦いではない。
大切な人を傷つけられ、その敵討ちとも言える戦いを外部の人間が勝手に入ることなど、いくら温厚な怜でさえそれだけは誰であろうとも許さないはずだ。
エルの方はというと瀬戸口と神崎の迅速な手当のおかげで一命はとりとめているので最悪失血などで死んでしまうという可能性はとても低くなったが、この遊戯が終了して適切な医療機関に運ぶまでは油断は禁物だ。
けが人の前で怜の戦いを見守っていると、後ろでエルが意識を取り戻したのか、ゆっくりと体を起こすがまだ傷が痛むようで起き上がろうとしたのに気が付いた瀬戸口が起き上がるのを手伝う。
「エルちゃん! まだ安静にっすよ! 怪我の処置はしたとは言っても一時的なものなんすから!」
「お兄さん、に、これ、を……渡して……ください」
「……分かったっす」
エルは自分が持っていた護身用の怜の短剣を彼に渡してほしいと小声で、今出し切れる声を精一杯出してそれを瀬戸口に伝える。
その言葉を聞いた瀬戸口は静かに了承してエルを再び横にゆっくりと倒してあげるとエルはまた意識を失う。
そして瀬戸口はエルから受け取った短剣を片手に前に出て大声を出して投げて渡す。
「怜さん! これを!」
「……これは」
「エルちゃんが持ってた短剣っす!」
「……ありがとう」
「それ、ありなのかい?」
「俺には分からないが、今この手にあるということはありなんだろうな」
怜はその短剣を受け取った時、瀬戸口に感謝する裏でこの第2回が開始する前に出しておいた武器はそのまま所持した状態を保持できることが分かり、全ての内容が戦でつながった。
エルはどうやってここまで逃げてこれたのか、それはエルがこの短剣で逃げる隙を作り出して必死にここまで逃げてきたが上城戸に捕まってしまい、あのような状態にされてしまったということなのだろうと考える。
それを考えると怜は1人でそんな危険なことを行うのは少しだけ黙認できないが、1人でよく頑張れたなと、もしも自分がエルと同じ状況だったらそんなことがh痛にできないだろうなと感じる。
上城戸は怜の短剣を見てあれは恐らく能力で作った短剣だということに気づいており、そんなことは反則になるのではないかと怜に聞くが、怜の言う通り、彼の手にあるということは反則ではないということを聞いてやれやれと上城戸は首を振り、すぐさま銃弾を放つ。
その銃弾を短剣で弾き、上城戸の近くに進み一撃を加えようとするがあちらもまだ一筋縄ではいかずに間一髪動くのが早かったおかげで受けた傷は浅かった。
再び距離をとった2人だが、上城戸をどう崩すか考えている時、上城戸が後ろで何かを操作しているかのような動きが見え、すぐさまそのことに言及する。
「おい、今後ろで何をした!」
「何もしてないけど? 見間違いじゃないのかい?」
上城戸は怜が後ろでしていたことを聞いてきた時には既に動かすのを止めており、怜の目の前に両手を開いて見せると両手には何も持っていなかった。
短時間で操作していたものをどうやって隠したのかはわからないが、絶対に上城戸は何かをしていた。それだけは怜は確信をもって見逃していなかった。
(何か仕掛けがあるはず……! でも何だ、この違和感……何かを見落としているような……)
怜は上城戸のからくりを暴こうと必死に考えるが、そんな中で橘と同様に何かを見落としているような違和感を感じる。
確かに怜達のチームは敵を倒していき、残りは目の前にいる上城戸だけのはずなのに、それ以外の事で自分ではわからない見落としをしていると思っていた。
その時、遠くの方からマシンガンのような銃声音が聞こえ、どこから来るかもわからない銃弾から避けようとした時、橘、瀬戸口、神崎に銃弾が命中し、撃たれたk所から血を流してその場に倒れこむ。
「っ……!」
「うわああああ!!!」
「あああああああっ!!」
「皆!」
怜はすぐさま負傷した3人の元に駆け寄ると、草むらから黒髪の男性がアサルトライフルを持って上城戸の元へと這いずって現れる。
「樋口君、ナイスタイミングだ」
「ありがとうございます。上城戸さんの連絡が来るまでずっと草むらで待ってるのしんどかったんですからね」
「それは申し訳ないけど、こっちもかなり苦戦を強いられてたんだ」
(連絡……? まさか、さっきのって!)
先程上城戸が後ろで操作していたのはトランシーバーだった。
そのトランシーバーで事前に樋口に伝えていた、1回鳴らしたら退避、2回鳴らしたらすぐに援護、3回鳴らしたら今隠れているところから射撃するという3つの内上城戸は素早く3回鳴らして樋口に射撃するように連絡していた。
誰を射撃すればいいのかまでは分からなかった為、ひとまず樋口は後ろで止まっている3人を射撃する方が確実に人数を減らせると思い、3人に致命傷を与えることができた。
怜の感じていた違和感の正体は樋口の存在だった。
怜が上城戸の援護に入ろうとした人を倒した時、ウィンドウには残り5人と表示されており、上城戸以外の残り4人は恐らく橘の方にいるのだろうと勝手に解釈していたせいだった。
これは俺の失態だと思いつつも、まずは怪我をしてしまった3人を危険ではないところまで移動させなければと思った瞬間、怜の目に入ったのは思いもよらない光景だった。
「……エル?」




