60.敵の策略
◇エル視点
「なんで、ここが……?」
エルは自分を襲おうとしてきたテラポーンを倒したのは怜だと思っていたが、何故が今目の前にいるのは敵のリーダーである上城戸だったが、場所もわからないこ子にどうやって来たのかがエルには理解できなかった。
ここまで来るのに歩いてもおよそ30分はかかるはずだが、上城戸はまるでエルの居場所などどこに逃げようとも無駄だと言っているかのように30分を切って道中迷わずエルの元まで来た。
思わずエルは上城戸に対して何故ここが分かったのかを聞いていたが、彼はポケットの中からとある機械を取り出してエルに見せた。
「これ、何か分かるかな?」
「それって……」
「GPS発信機。君をうちの拠点に連れてきた時にこっそりと服に付けたんだ」
「そんな……」
「私たちが今回の休憩時間の時に物資の供給として注文したのは3つ。食料と休憩するためのテント、そして、君に付けたGPS発信機の3つだ。確信はなかったけど、いつか役に立つと思って使ってみた結果、こうして君の事を追い詰めることができた」
上城戸たちのチームは怜達と同じように食料と寝床としてのテント、そして3つ目は今回エルに使ったGPS発信機だった。
すると上城戸は自分の右ポケットをトントンと叩いてエルにその部分を確認させるようなサインを送ると、エルは恐る恐る自分の右ポケットを確認すると小さなGPSのチップが入っており、一気に背筋が凍るような冷たさに襲われる。
ここまでエルは逃げてきたのに、その行動は上城戸には全てお見通しで、まるで彼の掌の上で踊らされていたのだった。
「実は君が謎の短剣を持っていることは最初から知っていた。だからあえて泳がせたんだよ。見張りが2人の状況を作りたかっただろうから、事前に樋口君にその有無を伝えて2対1の状況を作らせれば、君は逃げるためにその2人を攻撃して私たちから反対方向に向かって逃げる」
「……わざと逃がしたってことですか?」
「そういうこと」
上城戸は見張りの2人がエルを自分の元に持ってきた時から何か護身用の武器を隠し持っていることを知っていた。
そこで上城戸は5人でテントの中にいる時に樋口の背中のあたりでモールス信号で『3人の状況を作れ』と指示し、樋口はすぐにその作戦を理解して上城戸が外の空気を吸いに行った後に計画について話してくると嘘を演じて2対1の状況を作り出すことに成功した。
その後は案の定エルは隠し持っていた短剣で2人に怪我を負わせて逃げていったが、その行動は既に近くに隠れていた上城戸と樋口の2人に筒抜けだったわけだ。
その全貌を聞いてエルはここまで自分の作戦が見破られてしまうことに絶望感を抱く。
彼女は逃げることに執着しすぎた結果、彼らが何らかの追跡装置を持っているかもしれないという考えに至れずに策略に乗せられてしまい、絶体絶命の状況にまで追い詰められてしまう。
そんな中でも少しでも逃げようと思ったエルは急いで立ち上がり逃げようと走るが、上城戸はやれやれと言わんばかりの表情を見せて彼女の左足に銃口の標準を定めて引き金を引く。
『ドンッ』と重い音が鳴り響き、放たれた銃弾はそのままエルの左足のふくらはぎを貫通した。
「あああああああああっ!!」
「往生際が悪いなぁ。逃げようとしても無駄だっていうのに」
(痛い……痛い……!)
撃たれたエルはその場に転んでしまい、怪我をした箇所を必死に抑えるがそれでも痛みが止まるわけもなく貫通したところからは血が止まらず足を伝って地面にゆっくりと流れていく。
その状況を見て上城戸は情けない彼女を煽るかのように言葉を投げかけ銃口を向けたままゆったりと歩いて近づいてくる。
立ち上がれないエルはそれでも、少しだけでも怜達に近づけるように地面を這いずって上城戸から離れようとするがそれも封じてくるかのように次は右腕に銃口を向けて発砲する。
「あああああああああああっ!!」
「だから無駄だって。……しょうがないな、一つチャンスを上げよう。
「チャ……チャン……ス……?」
「そう、このチャンスをものにできたら、君を逃がしてあげよう。もしもチャンスを逃したら、ここで殺すからね」
「っ……」
上城戸何を考えているのかエルに1つだけチャンスをあげ、そのチャンスに応えることができた時にはエルを生かしたまま逃がすと言ってきたが、それと同時にチャンスに応えれなかった場合はこの場で抹殺すると言ってくる。
一体何を企んでいるのか分からないがエルは撃たれた箇所を押さえて痛みに耐えながら上城戸の話を続けて聞く。
「君の仲間の情報を全て吐け。メンバーの名前特徴どういった作戦を練っているのか、その全てを」
「……」
上城戸が提案してきたのは怜達味方チームの情報を全て彼に吐くことだった。
彼らの名前、特徴、どんな武器を使っているのか、どんな作戦を講じているのか、エルが知っている限りすべての情報を上城戸に伝えることで生かしてもらえるという内容だった。
ここまで脅されたなら一般の人間はいくら味方から恨まれようと情報を伝えるだろうがエルだけは違い、どれだけ脅されようとも情報を伝えるつもりは一切なかった。
エルは怜に命を救ってもらった上に生活まで短い間だが支えてもらっていた為、そのような存在を裏切ることなど何をされようとしても天秤が傾くことは天地がひっくり返ったとしてもあり得ない。
エルの答えはたった1つだけだった。
痛みから出る苦しさから、一息、秒数でおよそ10秒といったくらいの時間が経過した時、エルは彼を睨むのではなく、苦し紛れにニッと笑って答えて見せた。
「……教えるわけないでしょ。ばーか」
「っ! 貴様あああ!」
エルは上城戸のチャンスをわざと捨てて、彼を今できる精一杯の侮辱の言葉を浴びせて見せる。
その言葉に上城戸は今まで弱者が強者に対して浴びせてきた言葉の中で一番自分を苛つかせた者が目の前にいるというのが許せなくなり、普段の柔らかで冷酷な声色から一変し、怒りに満ちた声色でエルを睨みつけ、彼女の服を捲ってより苦しみが継続するように腹部に銃口を突き付ける。
それと同時に遠くの方から何人かが走って向かってくる足音が聞こえる。
その正体をエルは視線だけ向けると見た事のある服、見た事のある髪型・髪色が相まみえた。
こちらに向かって来ていたのは怜達だった。
皆が何を言っているのかまではエルには聞き取れなかったが、自分の事を見つけたようなことを言っているのだろうと考える。
その瞬間、上城戸は引き金を数回引き、エルの腹部を貫通して見せた。
「かはっ……」
エルの口からは少量の血を吐き出し、先程の足と腕に撃たれた時よりもはるかに痛みの強度はひどく、言葉になど表せない痛みが全身に走り、悲鳴なんて上げられなかった。
その光景を怜達は丁度目撃してしまった。
あと数秒、あと1分でも早く動けていればえるがあんな目に遭わずに安全に助けることが出来たはずなのに、どうしてこうなってしまったのかを考えるばかりだ。
エルが撃たれたのを見た怜は瞬時に走りだしエルの近くに近寄る。
そこで上城戸は今まで見せていた怒りの表情から一変して再び普段の表情に戻って怜の方を見て挨拶を交わす。
「や」
「……上城戸おおおおおお!!!」




