57.恐怖する
◇残り時間49時間、エル・敵チーム視点
エルが意識を失ってから約1時間が経過した。
未だにエルは意識を失った状態で敵に拠点まで身柄を運ばれている状況の中、運んでいる片方の男性がポツリともう片方の男性に質問する。
「これ、本当に大丈夫なのか……? いっそのこと殺した方が俺達も気が楽なんじゃ……」
「今更何を言っている。やった以上はやり切るしかないだろ。それに、こうして人質状態にすればいざというときに利用して形成を逆転できるかもしれないんだぞ」
「それはそうかもしれないけど……」
質問をした男性は今やっていることが本当に正しいのかを質問したが、返って来た答えは単純で、やったからには最後までやるしか道は残っていないという言葉だった。
それに加えてもしも相手チームが優勢になった場合は最終手段としてエルを人質にすることで相手が攻撃できない状況を作れば、それだけでも形成を逆転できる可能性が十分にあった。
その方法に男性は反論しなかった。それはよくよく考えてみれば、このチームが勝つためには必要な考えだと悔しくも思ってしまったからだ。
そして反論の余地が亡くなった男性に対して、続けて話を進める。
「俺だって今まではこんなことはしたくなかった。でも、負けたら死が確定するこの理不尽な遊戯では、そんなことをやったもん勝ちなんだ。問診でやりたくてやっているわけではない」
「……俺だってしたくない。でもやらないと死ぬ。そんな中で、一体どうすればいいのかなんて、今の俺には分からない」
「だからこそ今だけはやらなきゃいけないんだ。生き残るためにも」
さっきまで非情な考えを淡々と述べていたのが嘘のように、もう片方の男性はこんな拉致などしたくないと思っていた。
しかし現実は空しく、そんな非情な考えを即座に行えた感染者《人間》こそこの遊戯の生還者になれる。
だからこそ生き残るためにも渋々こんなことをしなければいけないのだ。
それを聞いて男性もやりたくないと本音を吐くが、この選択を間違えれば市が待っている場所で一体どうすればいいのか、一体何が正解かなんて男性には1ミリたりともわからなかった。
そしてもう片方の男性は、非情などではなく、今度は男性を励ますかのようにやらないといけないんだと話す。
それを聞いて男性はここで覚悟を決めてやらなければいけないのだと心で感じた。
その話が終わるころに、上城戸たち敵チームの拠点に到着した。
拠点の入口で待機していた樋口が2人に向かって歩き、話しかける。
「お疲れ様です……って、どうしたんですかその女の子!?」
「ああ、敵チームのメンバーだ。人質にすれば何かと使えそうだと思って」
「怖いこと考えますね……なら、一旦上城戸さんに伝えましょうか?」
「そうしてほしい」
「分かりました、今伝えてきます」
樋口は抱え込まれているエルを見て目を見開いたが、運んできた男性が事の経緯ともしかしたらの計画を伝えるとよくそんな怖いこと考えられるなと少し怯えながらも、現在もテントで休憩している上城戸の方へと樋口は向かっていく。
テントの前に着き、あまり大きな声にならない声量で上城戸の事を呼び出すと、テントの中からゆっくりと背の高い体をテントから出してきた。
傷の方は何とか治療したものの、怜との戦闘が想像以上に激しく未だ完全には休息をとれていないようにも思える眠たげな声で樋口の名前を呼ぶ。
「樋口君? 一体どうしたんだい? 私はもう少し休みたいんだが……」
「お休みのところ申し訳ないんですが、メンバーの2人が敵チームの1人を捕まえて人質にしたそうです」
「……へぇ、やるじゃん。今呼んでこれる?」
「大丈夫です。もし呼ばれてもすぐに来れるように近くで待機させています」
「流石、気が利くね。じゃ、呼んできて」
上城戸は樋口が口にしたこちらのチームのメンバーが敵チームの1人を人質にしたことを知ると、一気に目が覚めたのか高い声を出して背伸びをした後にその人質を呼んでこれるかの確認をとる。
樋口は上城戸に遭う前に先程の2人をテント付近に年の為待機させていたので、すぐに呼んでこれると言うと上城戸は樋口の仕事の出来の良さに拍手を短く送る。
そして樋口はテントから出て待機していた2人を呼んでテントの中に入るように促し、樋口、2人の男性の順番にテントの中に入っていく。
「し、失礼します」
「お疲れ様。で、人質っていうのは?」
「こちらです」
「へぇ、この子が、ねぇ……」
上城戸は男性が差し出してきたエルの体を見て、顎に手を当てて何かを考えていた。
その時、エルが「うぅ……」とうなされて、彼女の瞳がだんだん開いてくる。
そしてエルが完全に目を開けると、そこには見知らぬ空間が広がっており、周りには知らない男性4人がじっとこちらを見ていた。
特にエルが恐怖を覚えたのは上城戸だ。
一見優しそうな眼をしているかとも思ったが、彼の瞳には光はなく瞳の先まで全部が闇に包まれ、まるで憎しみや復讐心に憑りつかれたのような目をしており、一気に全身に鳥肌が立つ。
その光景を見て、上城戸はふっと微笑みを見せた後、右のポーチからピストルを取り出してエルの前に突き出した。
「ひっ……」
「ねえ君、お仲間の情報全て教えて?」




