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人工悪魔は影から  作者: イワスズタ
第1章 2/3 The Hollow Ordeal 死島団戦篇

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56/82

56.行方不明

◇残り時間、55時間


 怜はエルの行方が分からなくなったという状況をすぐには飲み込めなかった。

 何故なら見張りは田崎や赤坂、そしてリーダーでもある橘の3人がしっかりとテントの付近を見張ってくれていたはずなのに、それなのにどうしてエルがどこかに消えてしまったのかわからなかったからだ。

 そんな状況が飲み込めていない怜の前に橘は右手に持っているハンカチを出す。


「エルちゃんは、怜よりも少し前に起きてきて、顔を洗いたいからって近くの川の方に向かったんだけど……何分経っても帰ってこないからさっきあたしが川の方を見に行ったんだ。そしたら、これが落ちてて……」


「エルが持っていた、ハンカチ……」


「本当にすまなかった。あたしがすぐ帰ってくるからって言ってたから大丈夫だろうと1人で行かせたせいで、エルちゃんが行方不明になった。これは、完全にあたしのせいだ」


「……」


「謝って、許される問題ではないというのは重々承知している。彼女は、君にとってとても大切な人だということも分かっている……もし死んでしまったら、取り返しのつかないことになることも」


「……」


 橘は怜に今回の件が完全に100パーセント自分のせいだと、嘘偽りなく、言い訳をせずに怜に謝罪したが、怜は口が半開きになったまま、何も喋らなかった。

 何せ、この世で一番大切だと言っても過言ではない彼女が現在行方不明になっているのだ。

 単に迷子になったらそれはそれで安心できないが、今回は恐らく敵チームの策略にエルがはめられてしまい、エルが死んだという情報がない以上、今は敵チームの拠点の方に拉致されているのだろう。

 橘も、今回の件を振り返ってエルに対する接し方があまりにも甘かったことを反省していた。

 自分が誰かが彼女に何かしたら許さないと豪語しておきながら、実際にはただエルを甘やかし、彼女が大丈夫と言っているのだから大丈夫なのだろうという明らかな油断が、今回の件を引き起こしてしまったのだ。

 橘はそんな甘すぎた自分が許せなかった。


 そして橘が頭を下げた時、ふと怜の右手が視界に入ると、その手には今までの優しい青年からは想像もできないほどに力強くみぎり占められており、今にも爪が食い込んで血が流れそうなほどだった。

 

「……本当に申し訳ない。気が済むまであたしを殴ってくれ」


「明夏音さん!?」


「そんな! 明夏音さんだけのせいじゃない、他で見張りしてた俺達も悪い部分がある!」


 途中からこの場に集合した皆が自分を殴ってくれなどという発言をした橘に驚いていたが、やはり怜は一切反応しなかった。

 それほど怒りが込み上げているのだろう。

 しかしその後、沈黙が流れたと思った矢先に冷静になったと思われる怜が1つため息をついた。

 ようやく彼女を殴る覚悟ができたのかと皆は恐怖すら覚え、橘は何時殴られてもいいように目を強くつぶっていた。

 怜が立ち上がり、皆が固唾をのむ状況の中、《《怜は橘を殴ることなくテントから出た》》。

 

「!?」


「なんで!?」


「……行方が分からなくなったのは確かに怒りを覚えます。誰だって大切な人を奪われようものなら、怒らない人なんて誰一人として存在しない。でも今は、そんなことで傷の舐めあいをしてる場合じゃないはずです。一刻も早くエルを見つけて敵チームを全滅させる、それが今俺たちがやることなんじゃないんですか」


 怜が放った言葉は橘に対する怒りを表した言葉ではなく、この淀んだ空気を一変する言葉だった。

 怜の言う通り、今は自分が悪い、私が悪いだなどと傷の舐めあいをするのではなく、敵チームに誘拐されたエルを見つけ出し、最終目的であるチームの勝利の為に敵チームを全滅させることが最も重要なことだ。

 その言葉を聞かされた瞬間、橘ははっと今の自分の言動が、チームの指揮を下げていることに気づく。

 今まで様々な所で頼られてきたリーダーである橘が、こんなところで自分のせいだと言って挙句の果てには普段の発言からは考えられない言葉を投げて困惑させたりなど、四季を下げるようなことをしていた。

 しかし怜の言葉を聞いて、今すべきなのは自分のせいにすることではなく、これから何をすべきなのかをチームで考え、実行していくことなのだと気づかされる。


「……ごめん、あたしが間違ってた。確かに、怜の言う通りだね」


「それが、普段のあなたです」


「ありがとう」


「いえ」


 橘は立ち上がって怜に自分の間違いを正してくれた事に対して感謝する。

 すると怜も先程までの暗い表情からいつもの表情に変わり、これからの作戦についての会議を始める準備を行い始める。

 そこでは作戦会議というよりも、これから敵チームの陣地に自ら乗り込み、エルを助けるための自身の武器たち確認に近いものだった。

 作戦はもともと決まっていた。時間が厳しくなってきたらこちらから乗り込むという作戦を、ただ時間を早めて作戦を今から実行するだけだった。

 そして作戦会議と準備、それぞれを行い残り時間は約50時間。時間が無いというこの状況で時間をかけたのは、一片たりとも見落としが無いかを細かく確認して必ずこの作戦を成功させるためだからだ。

 ここからは約2日以内にエルを救って敵を全滅させてこちらのチームが勝利するという作戦を実行させる。


「皆、準備はいいかい?」


「おう!」


「大丈夫です!」


「いつでも行けるぜ!」


「……行きましょう。エルを助けに」


「ああ!」

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