54.軽やかに
橘は先程の攻撃を避けた際に蜘蛛のテラポーンの体に赤く光るところが一か所だけ見え、恐らくそこが弱点であるコアだと考えた。
第1回の遊戯でも何度かテラポーンを倒した数少ない経験からではあるが、テラポーンはコアを破壊されれば確実に倒せるということだけは分かっている。
いわば人間でいう心臓や脳と言ったところだ。
しかし橘はA級と1対1で対峙するのはこれが初めてだった。
怜と遭遇した時の盲目のテラポーンは安全圏からスナイパーでこめかみを撃ち抜き、動きを封じただけなので戦ったというよりも怜達を助けただけという言い方の方が正しい。
その盲目のテラポーンがどんな特徴を持っているのかなんて橘は知りもしない上に、A級はコアを破壊するだけで倒せるのかという疑問もあった。
そこまでは怜から情報を聞けてはいないのでわからないが、構造が一緒ならば弱点も同じのはずだと橘は考えていた。
「さて、どう切り込むか……」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」
「っ!!」
橘がテラポーン対してどう切り込むかを考えている途中に、テラポーンは聞き取れないような機械音を鳴らしてから足にある武器をこちらに向かって振り下ろしてくる。
その攻撃を躱したかと思えばテラポーンは錆びた歯車が回ったような音が1回鳴った後、足の剣が内部に引っ込み、武器が銃に切り替わって橘の方に向かって正確とはいえない乱雑な弾幕が橘に飛び交う。
その攻撃も体を柔軟に動かし、地形を活用して弾幕を全て避けきった後にカウンターをするかのように視界を奪うためにライフルで目と思われる箇所目掛けて撃つがまるでダメージがない。
ライフルの弾が切れた音が聞こえたところでこのままでは蜂の巣にされると思い、少しテントとテラポーンの両方から離れた木の陰に隠れてポケットからマガジンを取り出してリロードしながら次の作戦を考える。
(盲目のテラポーンの時はこめかみを撃って何とかできたけど、今回のは目を撃っても効かない。もしかしてコア以外の弱点になるような場所はないのか……?)
「やっぱり明夏音さんでも無理なのか……!?」
「いや、明夏音さんならきっとやってくれるはずだ。俺たちは俺達でテントにいるみんなを守ろう」
「……そうだな!」
橘が作戦を考えている中、テントで休憩している皆を守っている2人は今目の前で起きている戦いを見てこんな化け物相手に橘が勝てるのだろうかと田崎が不安になるが、隣にいる赤坂は彼女の事を信頼していた。
きっと彼女ならテラポーンを倒してくれる、必ず生き残ると信じ続けている赤坂を見て、田崎も彼女の事を信じて自分はテントの護衛を続けようと自身を鼓舞する。
リロードが終わり、テラポーンがこちらに近づいてきている音を聞いて早く作戦を考えなければと思うが、あの複数ある足に付いている武器を何とかしない限り勝機はかなり薄いままだ。
そしてテラポーンが橘に約6メートルあたりまで近づいてきた時、テラポーンは再び錆びた歯車が開店したような音を鳴らしたが、今回は1回ではなく2回鳴り、武器が銃から再び剣に切り替わる。
その音を聞いた橘はもしやと思い、再びテラポーンと距離をとるように走り、ライフルでテラポーンを射撃するとテラポーンはまたもや歯車の音を1回鳴らして武器を銃に切り替えて橘を射撃してくる。
ここで橘はある法則性があることを確信した。
その法則性というのは歯車が1回の時は遠距離または中距離の銃に切り替わり、2回の時は近接戦の剣に切り替わることだった。
(なるほど、そういうことだったのね)
「ならば……!」
橘はそこでとある作戦を思いつき、テラポーンに距離をとっていたがいきなり猛スピードでダッシュしていきテラポーンに近づこうとすると、テラポーン側も応戦しようと銃を撃ち始める。
その銃弾を待っていたかのように木を掴んで弾幕を交わして更に近くに進んで行く。
すると急なイレギュラーが起こったと認識したのか、歯車が動くタイミングが「遅くなり、近接戦闘で使う剣がすぐに切り替わらなかった。
その隙を橘は見逃さずにライフルを捨ててサバイバルナイフを取り出してテラポーンの後ろに回り込んでコアのある所に進むとコアは後ろにあるのではなく、内部、つまり蜘蛛の構造で言えば腹部の部分にあることが分かる。
このままでは振り向かれたテラポーンに殺されてしまうと思った橘だったが、テラポーンの背後に何やら細いつなぎ目が無数にあるのを発見し、試しに1本切って見ると以外にもそれは他の部分よりも柔らかく、人間が使用する刃物なら簡単に切ることができるほどの硬さだった。
それを高速で切っていき、全てを切り終えたと同時にテラポーンは急に苦しみ始めて体を反転させて腹部を丸出しにする。
「ふんっ!」
橘は勢いよくナイフを振り下ろしてコアを刺すとテラポーンはその部分から徐々に体が崩れていき、消滅した。
【A級テラポーンを討伐しました。橘明夏音に15点が加算されます】
(初めてA級のテラポーンを倒せた……確かに、下の階級のテラポーンとは一味違う強さだった)
橘は今の戦闘を通じてA級とその下の階級のテラポーンとでは力の差が歴然となるほどに違いがあったことを痛感する。
少しでも油断したら怪我を負うのは確定、最悪の場合死んでしまう可能性だって十分にあり得た中で、ほぼ無傷で倒せたことに対して、日ごろから疎かにせずに鍛錬していたことを自分自身に褒めるばかりだ。
そして戦闘が終わったのかと田崎が橘のほうに向かってくる。
「明夏音さん! テラポーンは!?」
「ああ、終わったよ」




