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人工悪魔は影から  作者: イワスズタ
第1章 2/3 The Hollow Ordeal 死島団戦篇

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49.作戦の囮役

 橘が提案した囮作戦というのにみんなは驚愕していた。

 何せこちらの現在の生存人数は8名と相手チームよりも少なく不利な状況で囮を使うということはかなりのリスクがある。

 

「ちょっと待ってくださいよ姐さん! こんな状況でおとり作戦なんかしたらさらに不利になるだけっすよ!」


「康太さんの言う通りだと思います。この状況では別の作戦を考えた方が良いかと思いますが……」


 橘以外のみんなはその作戦にあまり乗り気ではなかった。

 もしもその囮が何らかの原因で死んでしまって不利な状況が悪化してしまえば、勝利への道筋が遠のいてしまうだろう。

 みんなは何故戦略の立て方、戦術ともに優秀な橘がこんな自滅するような作戦を皆に提案したのかが全く理解できない状態だったが、そんなみんなの表情を見て橘はふっと笑って続けて自分の作戦の内容を伝える。


「何か勘違いしているようだけど、囮役は皆じゃない、あたしだ」


「え、橘さんが!?」


「姐さん何を考えているんですか!? そんなの危険すぎるじゃないっすか!」


「お二人の言う通りですよ明夏音さん!」


「ここまで言われるか……」


 予想外の事に囮役をするのは橘以外のメンバーではなく、橘本人が囮をするという事を口にすると、再びメンバーのみんなは驚いた表情をしながらもその提案にも反対した。

 普通に考えれば怜達のように橘が囮になることに反対の意思を示すのが当たり前だが、何故か橘は自分が囮役になることに対してこれほど言われることを想定していなかったような反応をする。

 ほぼ完璧な人だと思っていたが、価値観が他の人とかなり違っているようで、上の能力者の事はまだまだ分からないことだらけだなと感じた怜だった。

 そんな話が進みそうにもない中で、橘は切り替えようとコホンとせき込む。


「……さて、何であたしが囮役になるか、それは皆を死なせないためだ」


「死なせないため?」


「そう、あたしが囮になることで他の人が死ぬリスクを減らすことができる」


 橘は確かに強い。それは先ほどのテラポーンの狙撃の時に感じていた。

 その彼女が囮になることで他のメンバーが死ぬリスクは軽減することができるかもしれないがが、それでも囮作戦のリスクはぬぐい切れない。

 もしも反怨者であるS級の上城戸と対峙した場合、怜でさえ苦戦の上退くのが精一杯だというのに、橘が生き残って囮作戦を成功させる確率はかなり低く、危険性があることから、彼女が上城戸と接触するのはかなり危険だということを怜は心の中で感じていた。

 正直橘の作戦はハイリスクハイリターンだ。


「でも、橘さんがそれでやられたら元も子もないですよ」


「それは分かってる。分かった上でのこの作戦なんだ」


「それは一体……」


「敵は開始早々から2人殺せたことで心に余裕ができているはず。そこで油断して移動しているところでわざと近くに現れておびき出す」


「その後は俺たちに任せる、ってわけですか」


 怜がそう言うと橘は静かに頷く。

 橘の作戦は木の上など相手から見えづらいところで待機し、敵が警戒心を解いて移動しているところにわざと現れておびき寄せ、最後は怜達がとどめを刺す、といった作戦だった。

 確かに油断しているところで急に現れるならば敵は驚きで武器を取り出すのに慌てたりとすぐに武器を持って撃たれることはなくなるかもしれない。

 敵が警戒心を強く持っている状態、例えば戦闘直後や緊迫した状況化では敵は相手を探そうとより細かいところまで索敵する為、常に武器を構えてすぐに撃てるようにと準備をするはずだ。 

 そこでまず最初は敵を泳がせて警戒心を削ぎ、切れかけているところで作戦を開始するのが最もいい作戦だと思った。


「今まで怜達が言っていた方向には敵はいないはず、恐らくさっきまであたしたちが行っていた方向に進んで行けば、敵と遭遇できるに違いない」


「ならば、進む方向は1つですね」


「ああ」


 方向は詳しくは定まってはいないものの、恐らく上城戸は怜の攻撃から逃げた方向は橘のチームが移動していた方向だと考える。

 だからこそ、今は怜の方向ではなく橘の移動していた方向に向かって移動するのが最適だという結論に至り、チーム全員で歩みを進める。


◇敵チーム視点


 相手チームの状況は現在上城戸は簡易的な拠点で傷の回復を待つために休憩中で、他のメンバーは辺りの散策を行っていた。

 そんな中、2人組の片方が大きくため息をついて下を向きながら歩いていた。


「はあ~~~~何でこんなことに……」


「どうしたんだ急に」


「いや、このまま俺たち生き残れるのかな~なんて思い始めちまってよ……」


「大丈夫だ、なんたって俺たちのチームには上城戸さんがいるんだぞ!」


「まあ、有名な反怨者だっていうのは知ってたけど、やっぱり反怨者だからいざとなったら下っ端の俺達のことを身代わりとかに使いそうじゃないか?」


「それは少なくともありそうだな……」


  

 金髪の男性が拳をぐっと握って落ち込んでいる男性を励ますように言葉を返すが、それでもどこかっ腑に落ちないような表情を浮かべていた。

 相手チームは上城戸が勝利の鍵を握っているのは確かだが、反怨者ということを忘れてはいけない。

 反怨者は自分の利益の為ならたとえ味方であろうとも犠牲にしかねない存在だ。

 上城戸がそのような事をする可能性があることから、チームメイトは上城戸は頼りになることは確かなものの、いつ自分たちが彼の捨て駒になるかわからないという不安が2人には押し寄せていた。

 だが今は目の前の目標に向かって行動するのが最優先ということを忘れてはいけなく、金髪の男性は腕を男性の肩に回して再び励ます。


「まあとりあえず、今は敵を倒すことだけ考えようぜ!」


「ああ、そうだな……!」


 落ち込んでいた男性も熱心な励ましに何とか答えることができたようで、少しだけ笑みをこぼしてから散策を再開する。

 

 その光景を、相手のチームのリーダーが、見えないところから観察しているとは知らずに。

 

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