47.陰に潜む
◇現在・怜視点
怜達は少し遅れながらも橘との合流場所に向かっていたが、未だ上城戸に撃たれた箇所がズキズキと痛む。
包帯を使ったことで止血はできてはいるものの、痛みまではどうにもできないので我慢しながら走って移動しているが、この状態ではテラポーンとの戦闘もまともにできないかもしれないと思った。
今回現れるテラポーンは一律してA級のテラポーンしか現れないため、戦うとなると今の状態では少し厳しい部分がある。
せめてこの怪我が万全になってから戦いたい為、今回の遊戯のルールである物資の購入を使いたいところだが、それにはチーム全員の了承をもらってからでないと今後の戦いに影響が出かねない。
「辻井さん、無理だけはしないでくださいね」
「はい。自分でも無理したらまずいのは分かってますから」
「ならいいですけど……」
怜は自分が無理をするのは良くないと思っていたが、もしも戦闘が始ったら仲間を守るために渋々無理をするのかもしれないとも思っていた。
そんな中、怜を先頭に3人で走っているとどこからか機械が動いているかのような音が聞こえ、すぐに怜は走る足を止めて後ろの2人にも右腕で止まるようにとサインをする。
いきなりの静止に神崎は何とか止まることができたが、反射神経が弱い瀬戸口は地面に落ちていた枝に躓いて転んでしまう。
「痛って~! 何で止まるんすか怜さ―――――――」
「しっ、何か近くにいる」
瀬戸口が怜に対しての質問を言い切る前に怜は瀬戸口の方を見て唇に人差し指を当てて静かにするように言うと、瀬戸口は怜の声のトーンから本気でやばいかもしれないと察知し、言葉ではなく首のうなずきで返事をする。
それに対して怜もうなずきで返し、木の陰から先の道を覗いてみると、思った通り機械の動く音の正体がそこにはいた。
テラポーンだ。
目の前にいるテラポーンは目に黒い包帯のようなものを巻いており、まるで盲目のテラポーンがこのフィールドを徘徊しているかのようだった。
そして右手には今まで見た事のないほど大きい長剣を持っており、今の自分達の装備では一瞬でやられてしまうかもと想像してしまうほどの威圧感がその長剣には漂っていた。
その時、怜が一歩右足を後ろに引いた時、足元にあった木の枝を踏んでしまい、『パキッ』と音が鳴った瞬間に一瞬で怜が隠れている方向に体をぐるりと回転させた。
思わず、怜は体がビクリと跳ね、後ろの2人も驚きのあまり鳥肌が体中に現れる。
この時に、怜は確信まではできてはいないものの、このテラポーンは視界を制限する代わりに聴覚が物凄く強化されているのかもしれないと思う。
音を立てずに歩くのはとても難しいというわけではないが、怜達がいるこの地は森林。地面には木の葉や折れた枝などが散乱しており、これらを避けながら歩くのはほぼ不可能だ。
今は動くよりもテラポーンが移動するのを待つしかなく、その間に2人にテラポーンの特徴を話す。
「多分ですが、あのテラポーンは目が見えません」
「えっ……」
「その代わり、今のように枝一本折れた音も逃さない強力な聴力を持っています。もしかしたら、自分たちの心臓の鼓動音や汗が垂れる音とかでもきずかれてしまうかもしれません。ここは呼吸音を押さえて、なるべく音を立てないようにしましょう」
「じゃあどうすれば……?」
「ここは一旦奴が遠くに行くまでここで隠れていましょう。今の俺達じゃ、勝てる保証はない」
怜は必要最低限の情報だけ2人に話した。
長話をしていつ奴に聞かれてしまうかわからない状況で、自分や他のメンバーのたった1つの過ちでこちら側を不利にさせたくないからだ。
怜の言葉に2人は当然首を縦に振り、全員がそれぞれ近くの木の陰に隠れてテラポーンが別の場所に移動するのを待つことにしたが、相手が盲目ということもあってか、移動速度はかなり遅い。
このままでは橘チームのみんなを待たせてしまう、かといって急いでしまえばテラポーンに見つかってしまい、最悪の場合この場にいる3人が全滅しかねないという葛藤が怜に襲い掛かる。
額からは汗が自分のズボンに滴り落ち、心臓の鼓動はうるさく耳に響き、これらの音ももしかしたらテラポーンに聞かれているのかもしれないとも思えてきていた。
そして大体5分が経過した頃、怜達は音を立てずに過ごしていると、ようやくテラポーンが遠くに行こうと怜達とは反対方向に動き始めた時、瀬戸口が緊迫した空気の中で呼吸が乱れてしまっているのか何か鼻がむず痒いと言わんばかりに鼻をいじっている。
(康太さん、大丈夫か……?)
「は……は……はくしょん!!」
「あ」
瀬戸口が我慢できずにくしゃみをした瞬間、当然テラポーンはその音を聞き逃すはずもなく、すぐにこちら側に向かってくる。
その時のスピードは徘徊している時よりもはるかに速く、隠れている木を長剣をふるってなぎ倒してくる。
攻撃は間一髪で回避できたものの、あの速度で永遠に追いかけられたらこちら側の体力切れで全員やられてしまう。
しかし今はそんな事は考える時間もなく、3人はただ必死に走って逃げることしかできなかった。
「ひいいいいいい!!」
「何やってるんですか康太さん!」
「ほんと申し訳ないっす!!!」
無我夢中で走りながら瀬戸口は自分のしてしまったことを必死に謝り、神崎は悲鳴を上げながら逃げている。
このままではジリ貧で死んでしまう、何か打開策はないのかと頭をフルで回転させながら走っていると、どこからかスナイパーライフルの銃声が聞こえた後にテラポーンのこめかみ付近に命中した。
撃たれたテラポーンは撃たれた箇所を押さえながら苦しんでおり、しばらくは動けそうにない状態だった。
一体誰が撃ってきたのか辺りを見て見ると、木の上から赤く長い髪が揺れているのが見えた時、怜は少しだけ安心できた。
「遅いからそっちが向かった方向に行ってみれば、テラポーンと戦ってたのか」
「何から何まで迷惑かけてすみません、橘さん」




