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人工悪魔は影から  作者: イワスズタ
第1章 2/3 The Hollow Ordeal 死島団戦篇

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46/84

46.冷静な

◇怜視点 残り時間68時間


 怜はトランシーバーで橘に連絡をかけ、作戦の変更と合流についてを簡潔に説明した。

 トランシーバーで長々と会話していては上城戸以外の相手がやって来た時にたいしょがおくれてしまう他、もしかしたら会話を盗み聞きしている者がいるかもしれないと思ったからだ。

 橘と詳しく会話をするのは直接会ってからにした方が良いと思っている上に、彼女は現在最もS級に近い人間ということもあってこうして怜が急に連絡をかけてきたということは何か起きたのかもしれないと思ってすぐに行動してくれると怜は思っていた。


「―――――という理由で、一旦合流したいんですけど、大丈夫ですか?」


「分かった。一先ず合流先はスタート地点の浜辺にしようか」


「了解です」


 怜は橘に合流の提案をすると、橘はすぐに賛成して集合場所を設定した。

 会話が終わるとすぐにトランシーバーの電源を切り、ポケットにしまって始まりの場所に向かおうと準備する。

 そこで、神崎が小さな声で怜に対して疑問に思っていることを口にする。


「……何で、能力者になってから数ヵ月で、そんなに冷静な対応ができるんですか……?」


「えっ?」


「どうしてこんな状況でも冷静でいられるんですかって聞いているんです! ここはいつ自分が死んでもおかしくない場所だというのに、辻井さんは怖いほど冷静で……」


 神崎の表情はどこか怯えているともとれるような表情で、彼女は怜の怖いと感じるほどの冷静さに疑問を持っていたようで、神崎の言う通り、ここは人間がいつ死んでも何らおかしくない場所だ。

 そのような場所で普通の人ならば自分がいつ死ぬのか、どんな怖いことが待っているのかといった恐怖でいてもたってもいられらくなるが、怜は他の人とは何か違う冷静さを兼ね備えていた。

 その上状況判断や指示出しなど、未だ数時間しか経ってはいないものの、間違うことなくしっかりとした指示を神崎達に出せている。

 そこで神崎はもしかしたらこの辻井怜という人間は何かを隠しているのかと考えていたが、本人にはその事を聞きはしなかった。

 このことを聞くと、何故か彼の触れてはいけない一面に足を踏み入れてしまいそうだったからだ。


 怜は神崎に聞かれたことに対して、一瞬沈黙が流れたがしっかりとその理由に対して回答を述べる。


「……それは勿論怖いですよ。死ぬのは」


「じゃあ何で……」


「大切な人がいるからですかね。その人は何としてでも俺が絶対守らないといけなくて、そう思ったら死ぬことに対する恐怖なんて考えている暇なんてないですよ」


「もしかして、エルちゃんの事ですか?」


「はい。今は橘さんが守ってくれていますが、何が起こるか分かりませんし、その時は必ず俺が守ってやらないといけないんです」


 怜は他人には見せていなかったが、恐怖を感じていた。

 しかし、エルという大切で守らなければいけない存在ができてしまったことで、そんな恐怖を意識する余裕なんていうのは、今の彼にはなかった。

 ただ彼女を守る、その為に行動する。

エルと遊戯(ゲーム)開始前の朝食の際に約束した、『動ける限り君を助ける』を破らないためにも今の怜はできる事をただ遂行するだけだ。

 怜の覚悟が決まっている発言を聞いて、神崎はますます本当にこの人は数ヵ月に覚醒した能力者なのかと疑いが深まった。

 しかし、それと同時に彼ならもしかして第3回までせいぞんできるかもしれないという希望の可能性も少しずつだが高まってきていた。


「それじゃあ、行きましょうか。橘さん達を待たせるといけないので」


「そうっすよ、今は姐さんと合流することだけを考えましょう!」


「……ですね」


 瀬戸口の純粋な善意から出た言葉で神崎は今考えている余計な事は一旦おいて、自分が生き残ることだけを考えて行動しようと思う。

 そして怜のチームも橘と合流するためにスタート地点にm、迂回始めるが、先程の会話もあってか、怪我に影響がない程度に走って向かった。


◇橘チーム視点


 橘チームは出発後、敵に遭うことなく順調なスタートで始まったが開始20分が経過したところで橘チームそれぞれのウィンドウに内田と山村が相手チームの手によって死亡してしまったことが知らされ、全員こんな早い段階から2人も失ってしまうとは思ってもみなかった。


「もう、2人がやられたなんて……」


「とりあえず、あたしたちは先に向かおうか。何か緊急事態になれば、怜は知らせてくれるはずだ」


「お兄さん……」


 橘は死んでしまった2人の事を考える時間すら作らずにすぐに冷静になり次の行動を皆に指示を出した。 

 他の事を考えてしまうと判断力が鈍ってしまうと考えたからだ。

 しかし橘は決して非情なわけではなく、エルの自己紹介の時のように弱き者には優しく、その者を傷つけるなら容赦はしないというように他人に優しくできる心を持っている。 

 状況に応じた感情のコントロールといったところだ。

 橘チームは怜からの連絡があればすぐに臨機応変に行動するようにとみんなに連絡するが、その中でエルだけがずっと怜の心配をしていた。

 これまでも湖崎の襲撃や終盤の状況など、エルにとっても一番大事に思っている存在が、もしかしたら今別の場所で危機に瀕していると思うと、ますます心配になってくる。

 そんなところにすぐに橘がやってきてポンと優しくエルの肩に触れる。


「大丈夫、怜ならきっと生き伸びれる。それに、ピンチになったらあたしも彼のところに向かうから」


「……ありがとうございます、明夏音さん」


「礼を言われるほどじゃないよ。ただ、このチームのリーダーとしての責務を全うしているだけさ」


 橘は表には出していないだけで、エルと同じように少しばかり怜の事は気にかけていた。

 怜がピンチになったら助けに行く、そんな気持ちをエルに伝えると安心感が伝わって来たのか、少しだけ笑みを見せてお礼を言う。

 しかし橘がしたことは些細なことであることに加え、チームのリーダーとして当たり前の行動をしたに過ぎなかった。 


◇2時間後


 橘チームは未だ順調に進んでおり、テラポーンとも遭遇していない。

 もしかしたら時間経過で出現するのかと橘は思っていたが、それなら事前にその情報が伝えられるはずだ。

 しかし前回の無限迷宮《インフィニティ・ラビリンス》終盤のように急な環境変化などが起こる可能性もないとは言えないので、何とも言えない状況で橘は頭が少し混乱する。


 そして未だ怜の死亡したという連絡はウィンドウからは出ていないので、まだ生きているが、今どこで何をしているのかまでは分からない。

 一度トランシーバーで連絡をかけようとも思ったが、もし今も内田と山村を殺した敵と対峙していたら戦闘の邪魔になってしまうと思い連絡はあちらからするまではこちらは連絡は本当に緊急時にかけることにした。

 その時、ポケットに入っていたトランシーバーから音声が鳴り、取り出してみると早速怜からの連絡がやってくる。


『もしもし、橘さん?』

 

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