44.第2ラウンド
お互い戦闘を再開するための準備が整い、上城戸は同じようにピストルでの近接戦闘、怜は内田が所持していたピストルを持って両者近接で勝負を仕掛けようと考えていた。
現状は互角か少しだけ怜が有利な状況だ。
上城戸は先ほどの怜の地形を利用した身体能力に衝撃を受けて油断していた状態から一気に本気を出そうと考えている影響で少しだけ焦りが出てきている。
こんな奴に自分が負けるわけない、そんな心情をくるりと180度変えさせられて、今では本気を出しても彼に勝つことができないのではと思う弱い部分が出始めている。
それに加えて、怜の挑発的な発言によって上城戸の心に完全に火をつけた。
「それじゃあ、行こうか―――――」
初めの言葉を発した瞬間に、上城戸は怜の視界から消えていつの間にか怜の真横に移動していた。
当然躱す余裕なんてものはなく、両腕で受け止めるのが精いっぱいだった怜は受け止めるも、先ほどまでの威力よりもはるかに強い攻撃が怜の腕に響き渡る。
何とか腕で受け止めることができたおかげで遠くに吹き飛ばされることはなかったが、それでも地面に足を引きずった跡が残るくらいには後ろに飛ばされてしまう。
自分が挑発的な発言をしたせいで相手に火をつけてしまったのかと思った怜は、自分の首を絞めてしまったと少しだけ後悔してしまう。
「さっきまでの余裕の表情はどこに行ったのかな?」
「……うるさい、少しだけ見切れなかっただけだ」
そう言うと怜はすぐにピストルを取り出して2発発砲するが、上城戸は体全体を動かすのではなく頭部だけ傾けて弾丸を躱してカウンターのように銃弾を放つと、その弾丸は怜の左腕に命中し、貫いた。
血液がダラダラと流れ落ち、思わず怜は膝を地面について撃たれた箇所を抑える。
湖崎に背中を斬られた時よりもはるかに痛みは強く、体全体が一気に冷たく泣ていくのが感じ、全身から汗が止まらなくなってくる。
実弾なんて撃たれることなんてめったにないのだからどれほど痛いのかなんて今までわからなかったが、これほど実弾に撃たれるということは痛いのかと怜は恐怖を覚える。
そんな状態のところに間髪入れずに上城戸が詰め寄ってくる。
「実弾に撃たれたのは初めてかい? 痛いだろう」
「……っ」
「私も普通の能力者の時に一回だけ他の者の銃弾が流れ弾で当たってしまった時がある。あの時は弱かったからね、ここで死んでしまうのだろうかと本気で思った」
上城戸は反怨者になる以前は純粋な能力者として活動しており、とある日のエピドロメアスの討伐の際に銃撃隊の弾丸が流れ弾で当たった過去があり、その際はとてつもない恐怖感に襲われたという。
昔は自分が受けていたのを今では相手に行っているという正反対の状況になっているが、決して上城戸は怜に対して情を持って話してはいなかった。
自分と同じ状況であったとしても今は反怨者として活動している人間の1人、これまでも自分達に歯向かってきた能力者は幾度となく始末してきた。
いつからか、人を殺すことに対して躊躇いなどというものはなくなり、ただ自分の任務のために行っている作業にすぎなくなった。
「ほら、早く体制を直さないとまた銃弾の餌食になるよ~?」
「くそっ……!」
上城戸が銃口を怜に向けて放とうとした瞬間に何とか体制を立て直すことができた怜は転がりながら右側に移動し、またも銃弾を上城戸の頭に狙う。
しかし当然の如く銃弾はいともたやすく躱されしまい、またカウンターのように銃弾を撃ってくるが今度は銃弾を躱しながら期の陰に隠れる。
「木の陰に隠れても有利にはならないよ」
(近接戦ではこっちが圧倒的に不利だ。だからと言って遠距離や中距離に持ち込んでも結局は同じになるだろうな)
上城戸は休むことなく銃弾を木に撃ち続け、反撃の隙を与えないように動いている状況で、近距離・中距離・遠距離どれをとっても上城戸に有利に持ち込めるカードがなく、怜は一体どうすればいいのかと考えていた。
そんな中、地面を見ると先程上城戸が投げたサバイバルナイフが転がっていたのを発見し、すぐにしゃがんでそれを拾う。
今の怜の所持している武器はピストル1丁をサバイバルナイフが2本、近接戦をやろうと言わんばかりの武器構成だが、それらの武器を見つめてとある作戦を思いついた怜は、ピストルをポケットにしまい両手にサバイバルナイフを持った状態になる。
そして上城戸がピストルを全弾撃ち終わってリロードをしている最中を狙って木の陰から体を出して上城戸に近づく。
「リロードの最中に来る、それはいい選択。だけど近接戦では私には勝てない!」
「そうだな、普通なら、な」
「何……?」
上城戸は怜が普通の場合なら自分に勝てないと言ったのがどういう意味なのか理解できず、こんな状況で一体何をするのかと思いながらもピストルのリロードを完了させる。
完了したのと同時に怜は前にあった木に掴まり、再び上城戸の上を飛び越して後ろをとる選択をするのかと思った上城戸はすぐに頭上と背後を警戒する。
しかし怜は同じ作戦はとらなかった。
怜は木の上に登れば上城戸は必ず同じ作戦でくるだろうと思うことから、先程のように回り込む作戦は警戒されてしまう。
そのため怜は木を使って回り込むのではなく、木の上に立ってそこからピストルで射撃を行うことにした。
銃弾戦では上をとった方が有利というのは常識であり、今の状況では怜がわずかに有利になった。
上城戸はすぐに木の上に立っている怜を射撃するが、怜はそこから飛び降りようとした際にサバイバルナイフを1本上城戸の方に向かって投げ込む。
当然上城戸はピストルで難なく弾き飛ばすが、その後に彼の視界には怜の姿はいなくなっていた。
(どこに行った……?)
「どこ見てるんだ」
怜は下に飛び降りようと素振りを見せたが、本当は別の木の上に乗り移っていた。
怜の姿を見つけるのにかなりのタイムロスをしてしまった上城戸は怜のいる木のほうを向くが、一足先に怜はその木から飛び降りて地面に着地していた。
そこから間髪入れずに怜は10メートル先にいる上城戸の方にダッシュしていくが、普通に走っていては上城戸は難なく自分を撃ち抜いてくるだろうと思った怜は、残り半分まで行った際に先程木の陰で手に入れたもう一本のサバイバルナイフを再び上城戸の方に投げる。
反応が遅れたのか、上城戸はピストルで何とか防げたもののピストルを持っていた方の腕が反動で後ろの方に行ってしまい、反撃の余地がなくなってしまう。
怜はチャンスだと思った反面、まだ油断してはいけないと思い、右足を前にしてスライディングで進んで行き、上城戸が体制を立て直したころには既に怜は彼の懐に入っていた。
「これで終わりだ」
怜は一つセリフを吐くと上城戸の腹部に2発、銃弾を撃ち込んだ。




