43.志の衝突
2人の意見が食い違い、お互い相手の事をにらみ、今にでも戦闘が始まりそうな雰囲気が漂っている。
そして瀬戸口が固唾をのむ音が勝負開始のゴングのように、上城戸は怜目掛けて銃弾を2発放つ。
それに0.1秒レベルの反応が遅れてしまい、躱そうとするも怜は右頬に銃弾をかすめてしまうが、そんなことお構いなしに上城戸と一定の距離をとりながらライフルで応戦する。
しかし上城戸はS級能力者ということもあり、銃弾など止まって見えるかのように全弾を無駄な動き無く躱していき、怜のライフルの銃弾が切れ、上城戸に対する視線を外さないようにすぐにポケットからノールックでマガジンを取り出してリロードをする。
瀬戸口と神崎はこの2人の戦いに参加しようものならすぐに殺されてしまうと思ったのか、少し離れた木の陰まで移動し、自分たちに被害が来ないように身を潜めていた。
「これがS級との戦闘……!」
「それよりやばいのは怜さんのほうっすよ。能力者として覚醒してからまだそんなに経っていないというのにS級と渡り合っているっすよ……」
怜は人工悪魔として覚醒してまだ2ヵ月経っているかどうかほどだが、明らかに経験豊富な上城戸と互角な戦闘を行っている。
一般の能力者が年単位で活動していたとしても、橘のようにA級の最上位者でない限りS級と戦闘を行おうものならあっという間にゲームオーバーになるのが普通だが、怜はそんな常識をぶち壊すような存在となっている。
遮蔽物を利用して怜も負けじと上城戸の銃弾を躱し、反撃をするも再び上城戸はもはや美しいと言わんばかりの身のこなしで銃弾を躱す、といった戦闘が約2分半続いた。
怜は何とか戦況を変えようとライフルから近接のサバイバルナイフに持ち替え、上城戸の方に向かってナイフを振りかざすもその手を簡単に掴まれてしまった。
「動きが、単純すぎるよ」
「……っ!」
「怜さん!!」
上城戸は怜の攻撃を止めた後に無防備な足のバランスを崩し、怜の体を後ろにある大木に向かって蹴り飛ばすと勢いよく吹き飛んでいき、鈍い音を鳴らしながらぶつかり、ずるずると地面に落ちていく。
それを見た瀬戸口と神崎は怜を助けようとするが、2人がいた目の前の木に向かって上城戸がサバイバルナイフを投げると2人は石のようにその場に固まる。
「君たちの出番はまだ。君たちはあの少年を殺した後だ」
「……やめろ」
上城戸が2人に視線を配っている間に、怜はぶつかった大木に手を付きながらゆっくりと起き上がる。
幸いにもぶつかった箇所は大きくなかったので、骨が折れるといった致命傷には至らなかったものの、確実にダメージは蓄積されている。
まだ攻撃は一回しか食らっていないが、今のような攻撃を序盤で何発も食らっていたらこの後の他の戦闘でかなりハンデになる上に他のチームメンバーにも負担をかけてしまうのを考慮して、この戦闘で攻撃を受けれるのは最低でもあと1、2回程度だ。
「まだ動けるんだ。結構いいところに入ったと思ったんだけどな」
「お前は俺が倒す」
「いいね、それでこそ最高の相手だ」
怜は再び上城戸に向かって全力で走っていくが、今回は違った。
それに対して上城戸は怜の事を下に見ており、また、無造作に突っ込んでくるのかと思いながら力を抜いてピストルを怜の方向に突き出す。
そして2人の距離が約5メートルまで近づいた瞬間、怜は大きくジャンプして上城戸の丁度真上にある木に掴まり上城戸を高く飛び越して彼の後ろに回り込む。
上城戸は未だ覚醒してから2ヵ月弱で、能力者としての適切な訓練などもしていないはずの怜が、ここまでの身体能力を持っていることに少し動揺と驚きを見せていた。
先程と同じように突進してサバイバルナイフを振りかざしてくるだろうと、まだ経験が浅いことから複雑な戦術は出してこないだろうと思っていたので上城戸は同じようにナイフを持っている手を掴んで体制を崩そうと思っていた為、伸ばした腕は空を切り思わず足が前に出てしまう。
怜は今上城戸がどうなっているかわからなかったが、どうであろうと彼に一発入れようと考えていたので、怜は右腕を支点にしてくるりと回転して背後ががら空きな上城戸の背中を蹴り飛ばす。
これには上城戸もたまらず体制を崩してしまう。
体制を崩した貴重なわずかな時間を使って怜は自身のライフルを投げ捨てて、近くにあった内田の死体のポケットからピストルを取り出していつ戦闘が再開されても良いように態勢をとる。
その光景を見ていた神崎と瀬戸口はただ驚くことしかできなかった。
「すごいっすね……あのS級能力者に一発ぶち込んだっすよ……」
「もしかして、今辻井さんがランク審査を受けたらS級という可能性も……?」
「全然ありそうっすね。そうなれば、日本国内で21人目のS級ってことになるっすよ」
今の怜の実力ならば、S級認定もあり得るかもといった話をしているが、それは確実なものだ。
人工悪魔は未知の力で溢れかえっている
現存している怜を除く4人の人工悪魔の判明している能力は大体6割程度で、残りの3割は適合者本人でさえ未だ分かっていないことから、ランクの選定が正確に行えなく、現在は人工悪魔の適合者にはランクがない。
怜でさえ4割程度しか能力を把握していない。
そして上城戸が立ち上がり、体制を立て直す。
「やるじゃん。私ももう少し本気を出そうかな」
「油断してると足元を掬われるぞ」
「……言うじゃないか」
上城戸は今受けた攻撃から、この少年は他の一般能力者とは何か違うところがあると感じ、このままではもしかしたら負けてしまう可能性も0ではないと察知してもう少し力を出すことにした。
それに対して挑発するかのように怜が言葉を発すると、今まで自分に舐めた事言われるのが、こんなにも腹が立つのかと思い、上城戸は少しだけ頭に血が上る。
「第2ラウンドと行こうじゃないか!」




