40.仲間との情報交換
遊戯の開始時間までのこの貴重な時間でお互い情報交換を行うのは実に合理的なことであり、ひとまず部屋の中央にあるテーブルに集まり、それぞれ自己紹介、自身が持っている死点の開示などを行う。
「まずはあたし、橘明夏音。死点は90点。多分知ってる人もいるかもしれないかもだけど、よろしく」
「明夏音さんがいるだけで頼もしいな」
「なんたって今一番S級に近い人だからな」
「橘さんって今A級なんですか?」
「ああ。今はA級だけど、この前のラティオマラが来た時に丁度ランクの昇級審査があったんだけどね、こんな事態になったもんだからもちろん審査は中止。次にあるのは1年後なんだよね」
日本でのランクの格付けは最初は能力が覚醒してから1週間に行われるが、昇級審査の場合はランクが上がるごとに1年に行われる回数が少なくなっていき、今回橘が受けようとしていたS級の昇格審査は1年に一回しか行われない。
S級は日本だけでなく世界中で貴重な人材とされているため、その審査もかなり厳しく、対策本部からの審査のお知らせの手紙が来なければまず書類審査さえも入れてもらえない。
そういった観点から、S級の審査は年に1度しか行われないのだが、先ほど自己紹介した際に言われていた「今1番S級に近い人物」という言葉から、恐らく書類審査は通過し、S級に昇格するのは確実となっていた矢先に邪神であるラティオマラの襲来の影響で審査は中止され、次に行われるのは来年の5月になってしまった。
怜に今の自分の状況を話した時に、心なしか彼女から審査を台無しにされてしまったことに対する怒りを感じていた。
しかし話を続けるときの表情は再び明るい表情に戻っていた。
「まあ仕方ないさ、世界が危機に見舞われてるんだから、そんな状況でのこのこと審査をするわけにはいかないし。おっと、長話が過ぎたね。次の人自己紹介して」
「じゃあ俺っすね! 瀬戸口康太っす! 点数は30点で、姐さんのマネージャーとして動いてるっす」
(マネージャー……瀬戸口さんは会社で言う秘書みたいな立場なのか)
瀬戸口は橘のマネージャーとして共に行動しており、そして上司である彼女のことを「姐さん」と呼んでいたことから、上下関係はとても厳しいというわけではなさそうだった。
「あの……」
「ん? まだ何か?」
「橘さんって、なにかの社長、とかだったりするんですか?」
「……おいおい兄ちゃん、橘明夏音さんをご存じないのか?」
「え……もしかして結構有名な方?」
橘に瀬戸口というマネージャーが付いていることから、どこかの会社の社長や女優だったりするのかと怜が聞いてみると周りのチームメイトは唖然とした表情で怜の方を見ていた。
「橘明夏音! ファッションデザイナーにしてモデルとしても大活躍! 去年の5月から今月までのモデル人気ランキング1位をキープしている超大物だ!」
「ちょっと、そんなに言われると照れるな~」
「1年間1位を独占って、結構すごいんじゃ……」
「すごいどころか前人未踏だ。今までは長くとも1位をとってから半年で次の注目の人が現れて順位変動があったが、明夏音さんが1位になってからは期待の新人でも歯がたたないくらいだ」
橘の職業はファッションデザイナーとモデルの兼業で、その界隈からは名前を知らない人はいないと言っても過言ではないほどの超有名人だったが、テレビや雑誌といった橘が表に出てくるような世界には怜は足を踏み入れたことがなかったので、他のチームメイトからその情報を聞いた瞬間、改めて橘のすごさを実感する。
「はいはい、茶番はここまで。あと10分しかないんだから、ちゃっちゃと情報交換を終わらせて作戦会議まで行こう」
「そうですね」
怜のせいと言っては何だが、橘ん移管しての話題で少し盛り上がってしまい、まだ橘と瀬戸口しか自己紹介が終わっていない状態だったのを彼女はしっかりと司会していたので他の人も素早く情報交換を済ませるようにを声をかける。
そして橘、瀬戸口、エル、怜の4人を除いた6人のチームメイトの自己紹介が終わり、彼らの情報もよくみんなに伝わった。
それぞれ名前と所持点数は以下の通りとなる。
・山村誠二 所持点数30点
・田崎健成 所持点数15点
・内田美南 所持点数35点
・神崎ゆり 所持点数60点
・赤坂渉 所持点数20点
・北条淳 所持点数25点
そして最後に怜とエルが自己紹介をする。
「辻井怜です。死点は150点所持しています」
「150点!? もしかして、人を殺して手に入れたりしては……?」
「してません! ちゃんとテラポーンを倒して手に入れてますから!」
「なんだ、それならよかった」
山村や他の人がが怜の所持している点数の多さに驚いていたがそれは別におかしなことではなかった。
このチームの中で怜を除く9名の中で一番点数が多いのは橘だが、そんな橘でも所持している点数は90点と100点にすら行っていない中で、いきなり150点だと言われようものなら他の感染者を殺して手に入れたと思われても仕方ない。
しかし怜はこの点数は全てテラポーンを倒して手に入れた点数なのでありのままを話すとみんな安堵した表情をする。
そして最後はエルの番だが、何故か自己紹介をしようとしなかった。
エルは大勢の人の空間があまり得意ではないので、その影響もあってなのだろうが、少し下を向いたまま何もしゃべろうとはしなかった。
このままでは時間だけが過ぎ去ってしまう中、怜が声をかけようとした時に人藍先に橘がエルの方に向かい、優しく肩に触れる。
「大丈夫、エルちゃんの事を悪く言うやつはあたしがぶっ飛ばすから。安心しな」
「姐さんは怒ると怖いっすよ~」
「康太?」
「はい! すんません!」
橘がエルの事を悪く言うやつは許さないと釘を打つとこの空間にいた人全員が首を縦に振る。
こういった誰にでも優しく接し、仲間が傷つけられたら迷うことなくしっかりと対処する、この橘のスタンスがあるからこそ、モデルとしても絶大な人気を誇っているのだろう。
そしてそこに追い打ちをかけるように瀬戸口が挑発するような口調で言ってくるが、橘はすぐに瀬戸口に向かって笑顔をするがその顔には怒りがうかがえるほどで、瀬戸口はすぐに彼女に謝る。
そこまでするということは、本気で起こった彼女はよほど怖いのだろうとこの場の全員が心の中で思った。
そして再びエルの方を向いて優しく声をかける。
「いけるかい?」
「はい……!」
「よし!」
「……エルです。所持点数は0点で皆さんの足を引っ張ってしまうかもしれんませんが、よ、よろしくお願いします!」
そうして自己紹介が終わるとみんなは嫌な顔一つせず拍手を送った
全員の自己紹介が終わり、男女比率は6:4と非常にバランスの取れたチームメンバーとなっている上に、メンバーの中で神崎は橘に次ぐ60点を所持しているのはかなり大きいが、それでもひそかに掲げている目標である死点での物資購入という目標には残念ながら程遠い点数となっている。
今回の遊戯ではA級のテラポーンしか出現しないため、8人の中で最も点数が多い橘が200点稼ごうとすると、最低でも8体は討伐しなければいけないが、それでは時間もかかる上にチームの疲労もかなりたまってしまい、この遊戯の主旨である敵チームとの殺し合いに専念できなくなる。
そういった点から、今このチームで一番点数を持っている怜だけがテラポーンから死点を獲得して200点に到達するのに最も近い人物ということで、橘は怜に自分が考えた作戦を提案する。
「それじゃあ作戦だけど、テラポーンとの戦闘は今一番点数が高い怜にお願いしたいんだけど、いいかな?」
「俺は大丈夫だと思います」
「よかった。それと、最初は2手に分かれての行動をしたいと思う。」
「2手に? それだと一斉に突撃された時に不利になるんじゃ……」
橘の作戦、それは2手に分かれて行動するというのだが、その作戦にはデメリットがあるんじゃないかと神崎が意見した。
神崎の通り、2手に分かれている際に相手チームが一気に押し寄せてきた場合、1対1の構図にはならなくなるのでこちら側が圧倒的不利になる。
しかし逆に言えば、2手になることで状況共有がかなり有利になること。
幸い、机には人数分の青のトランシーバーが置いてあるので、遊戯時の情報交換はできるため、片方のチームが別の方向から偵察に行き敵の状況を伝えられるといった行動ができる。
「そこは大丈夫。遊戯開始からはそれぞれトランシーバーで情報交換をしよう。チームの指揮はあたしがとるけど、何か不満な点や疑問点があったらバンバン言ってほしい」
「わかりました」
チーム全体の指揮は橘がとる事になったが、今この中で一番S級に近い人物であることから経験も豊富な上にチームからの信頼も厚いため、誰一人として反対する人はいなかった。
そして最後に2手に分かれるチームを編成し、以下のようになった。
・橘チーム
橘明夏音
エル
田崎健成
赤坂渉
北条淳
・怜チーム
辻井怜
瀬戸口康太
内田美南
神崎ゆり
山村誠二
怜はエルと離れることになったが、リーダーの橘が一緒なので何か危険なことに巻き込まれる可能性は低いだろう。
チーム決めが終わったところで15分が経過し、アナウンスの音が部屋に鳴り響く。
【15分が経過しました。準備が終了した感染者から正面のドアから外に出てください。3分以内に部屋から退出しなかった感染者は失格となります】
怜は机の上に置いてあるサバイバルナイフ1本とアサルトライフルのM7を使用する。
今回は亜空間魔法が使えないので惨黒刀が使えなければ2本の短剣も使えないので、渋々どこにでもありそうなサバイバルナイフを手に取ったが、正直1本だけでは近接戦闘は安心できない。
だからと言って2本使うわけにもいかない。ここにはそれぞれ1人分しかないため
、自分だけ使うというのはあまりできない。
全員の準備が終わり、外のスタート地点にそれぞれつく。
「じゃあ、行こうか。絶対勝つよ!」
「はい!」




