4.謎の能力者
怜が人工悪魔の適合者として覚醒して約1ヶ月が経過した。
ここ最近は何故かエピドロメアスの出現率がいつもの状態と比べて増加しており、怜はその討伐に手を焼いていた。
そして活動し始めてからというもの、インターネットでは様々な人が怜の正体について考察を始める者もいれば、怜に情報提供できないかとエピドロメアスが出現した瞬間にネットに出現場所等を書き込む掲示板までできていた。
正直正体がバレるのは嫌ではあるが、エピドロメアスの出現場所をわざわざ書いてくれるのは便利だと感じている。
・出現! エピドロメアスをたった1人で討伐する謎の能力者! その正体とは
『この正体不明の能力者すげーよな!』
『もしかして新しいS級とか?』
つい前までは早く連絡がこないかとそわそわした高揚感で溢れていたが、今ではそんな高揚感は何処かに消えて疲労感しか怜の中には無かった。
帰ってすぐにソファに全体重を掛けもたれて、大きくため息を吐く。
「はぁ〜 疲れた······」
今日だけでもエピドロメアスの討伐を3件回ったのだが、これまでで分かったことは人工悪魔の力は思っていた以上にエネルギーを消費するのでそれに相まって疲労も蓄積されやすい。
そのせいか分からないが、前は平均より少し痩せた体型だったのが筋肉が増え、体格もがっしりとしてきた気がしていた。
(体つきが良くなってきてるのは嬉しいが、この討伐いつまで続くんだよ······)
◇対策本部
その頃、対策本部では怜の正体について各部から最高ランクの者達や権限が上の者が招集され会議が行われていた。
「この者の正体について、何か知っている者はいませんか?」
「······」
プロジェクターにはインターネット掲示板に投稿されていた怜がエピドロメアスと戦っている後ろ姿が写った画像が映し出されているが、この会議の場にいる1人を除いて誰も怜の存在を知る者は居なかった。
それもその筈、怜は正体がバレないように黒いズボンを履き、黒いパーカーを着てフードを被りなが討伐を行い、終わればすぐに現場から離れている為そう簡単に正体が特定できるものではなかった。
「······もしかして、人工悪魔の覚醒者なのでは?」
「なっ! 人工悪魔の覚醒者だと!? しかし、我が国には人工悪魔の覚醒者はいない筈だ!」
「そうだ! 研究所も人工悪魔については未だ適合者発見の情報を出していない!」
一人の女性が仮説としてこの正体不明の人物が人工悪魔の覚醒者なのではないかと言葉を発すると会議室はざわめき始めた。
現在人工悪魔の覚醒者はアメリカ、フランス、中国、南アフリカの4ヶ国に1名ずつ、そして加えて最近覚醒した日本初の適合者である辻井怜の5人だが、この会議の場ではいまだ局長である近藤しかその存在を知る者はいない。
そこで1人の男が局長である近藤に何か知らないかと不審な眼差しで尋ねてきた。
「局長、何かご存知ありますか?」
「······いや、私もこれは初めて見ました。研究所と協力して人工悪魔の研究を進めているのは確かですが、適合者となると見たことが······」
近藤は怜に被害を与えるわけにもいかなかったので、会議に出席している者達に嘘の情報を伝えた。
これは局長という立場では重要な情報を隠すというのはあまり世間一般的には好ましくない行為だというのは重々承知してはいるが、適合者である彼が一人の人間として考えると、その大事な一人の国民の生活に支障をきたす訳にはいかないと考えていた。
そして会議の終わりに近藤が迫る予言の日に向けて指揮を上げようと終わりの言葉を告げた。
「……人工悪魔と、この謎の人物については私が調べ上げておきます。そして、数日には支配者が告げた予言の日になります。各々、準備を怠らないように」
「はい!」
会議は無事に終了し、局長室に戻ると近藤は一気に力が抜けたようにオフィスチェアに寄りかかる。
それもその筈、人工悪魔として適合した怜の存在を隠ぺいし、それが会議内の誰かにばれないかと内心では不安がびっしりとつきまとっていた。
疲れ切っていることろでコンコンと局長室のドアをノックする音が聞こえ、それに対して「入りなさい」と一言声をかけると若い男性職員が局長室に入ってくる。
「失礼します。局長、会議ご苦労様でした」
「ありがとう」
「今回、辻井怜さんの事を隠されていたのですが、あれで本当によろしかったんですか?」
局長室に入って来た男性職員は、今回の会議で護衛兼側近秘書として共に会議室にいた人物であることに加え、側近であることから近藤を除いて唯一怜が人工悪魔の適合者だということを知っている人物でもある。
その職員は今回の会議で怜の正体を公にしなかったことに対して疑問を抱えており、本当によかったのかと近藤に尋ねる。
「彼はまだ若い。この先長い未来があるのに、人工悪魔であることを公にして厄介なマスコミなどに付きまとわれては、彼の私生活に支障をきたしかねない」
「そういう理由があって隠したんですね……」
「このことが正しいのかは、私にもわからない。だた、彼のサポートとなることはできるだけしてあげたい」
「わかりました。私にも何かできることがありましたら」
「ありがとう。そう言ってくれると助かるよ」
「では、失礼します」
近藤は怜の事を思って会議で隠ぺいを行った。
人工悪魔だということが公になれば、真っ先に動くのは対策本部の職員ではなく、特ダネになりそうな情報をいつでも求めているマスコミだ。
マスコミが怜の情報を求めるようになれば、彼の私生活に支障をきたしてしまい、毎日マスコミから逃げながらエピドロメアスの討伐任務も並行して行わなければいけない。
そんな事態を招かないようにも、近藤は怜のサポートを必死に行いたいと考えており、その考えを職員に話すと、自分もと近藤が安心できるような言葉を投げかけて局長室を後にする。
職員がいなくなり、ドアがバタンと閉まり切ったのを確認した後、再び近藤はチェアに寄りかかり、疲れを癒した。




