34.遊戯・脱出
何故か何もしていないのに怜に5点が加算されたことに対して思い当たる節があった。
もしかしたら自分が召喚した兵士がテラポーンを討伐した場合、その兵士に死点が加算されるのではなく召喚者に点数が加算されるのではないか、と考えたが、怜の考えは当たっており、怜が脱出の鍵を見つけている一方でエルと陽凪の方ではテラポーンとの戦闘が起きようとしていた。
◇エル・陽凪視点
エルと陽凪は怜と別れた後濃くなった霧の中を進んでいたが、少し周りの不気味な空気に怯えていた。
特に陽凪は臆病な性格なので回りをおろおろと見ながら歩いていたが、そんな不安がぬぐい切れていない2人を守るように3方向に透兵は配置されていた。
前方には盾を持った透兵が立ち、正面からの罠や奇襲に対応するようにし、左右にはそれぞれ槍と弓の透兵が2人の安全を守っている。
しかしこんなにも大きな兵士が3体もいると逆に目立ってしまうため、透兵は隠密の下位互換の能力を使って半透明の姿で周辺に異変などがないか索敵している。
「なんだか頼もしいですね、お兄さんが召喚した兵士」
「そ、そうだね」
3体のおかげで今のところは何の問題もなく進めていることにエルは先ほどまでの不安も和らぎ、陽凪に話しかける。
少し進んだあたりで正面から手が獣のような鋭い爪をしているテラポーンが出現した。
それをすぐに察知した透兵は半透明を解除するのと同時に2人に被害がいかないように盾の透兵が正面で守り、左右にいた弓と槍の透兵が前線に立つといった戦闘態勢をとって戦いを始める。
盾の透兵は敵を見つけテラポーンが突進して攻撃を仕掛けてきたのに対して大きな盾で防御したままテラポーンを横に吹き飛ばした。
テラポーンは木々にぶつかりながら吹き飛ばされ、それを見た残りの2体の透兵が同時に追い打ちをかけに行き、弓の透兵は先端が鋭く尖った矢に魔力を込めてテラポーンに撃ち、命中すると動きが鈍くなったがまだ動ける状態のところでテラポーンがゆっくりと起き上がり次に来る攻撃に対しての反撃の体制をとった瞬間に槍の透兵は、その攻撃を槍でいなした後に槍をくるくると回転させてとどめの一撃として槍でテラポーンのコアに突き刺してあっという間にテラポーンの討伐が終了した。
そして最後に槍に付着した液体を凪ぎ落して槍を綺麗にしてからエルと陽凪の元に戻っていき、3体は再び半透明化した。
「す、凄い……!」
「あっという間に……」
盾の透兵の巨体から出る強力なパワーの影響で周りの木々が倒れてぐちゃぐちゃになっている状況を見てエルは思わず今の戦闘に対して苦笑いを浮かべる。
そして先ほどテラポーンが吹き飛ばされた方向を見てみると何やら澄んだ青色のようなものがはっきりとは見えないがうっすらと見えていた。
「エルちゃん、あれ、脱出のゲートじゃないかな……?」
「本当だ」
もしかしたら罠かもしれないということを考慮して恐る恐るその澄んだ青色の方へと進んでいく。
濃い霧の中、ゆっくりと進んでいきようやくその全体がはっきりと見えるところまで近づいた。
澄んだ青色のものは遊戯の入場時にあったゲートにとても類似しているゲートで、ゲートの中心には鍵穴がありそこから4方向に鎖が付いている見た目だった。
「この鍵穴、もしかしてここに脱出の鍵を挿せばいいのかな……?」
「多分、ここまで探索してきて脱出の鍵以外の鍵はなかったし、ここに鍵を挿せばいいんだと思う」
エルも陽凪もこれまでチュートリアルの屋内でも、この森林内でも脱出の鍵以外に手元に余っている鍵はなく、今までで脱出の鍵以外で見つけたのはチュートリアルの屋内から移動づるための鍵ですでに使い切っているため、今2人の目の前にある鍵穴は脱出の鍵を使うための鍵穴で間違いないと陽凪は確信していた。
しかし、脱出のゲートから脱出できるのは先着1名。どちらが先に脱出するのかが問題で、どちらも先に脱出させようと譲りの姿勢でなかなか鍵をポケットから出そうとしなかった。
「「……」」
そしてゲート前で無言の空間が続くこと数分が経過した頃、陽凪が勇気を振り絞ってエルに話しかける。
「あ、あの、エルちゃん!」
「何?」
「エルちゃんは、先にこのゲートに入って」
「それだと陽凪さんが……」
「わたしは大丈夫、なはず。それに、もしわたしが先に脱出してエルちゃんに何かあって脱出できなかったら、大切に思ってくれている辻井さんが悲しむと、思うから……」
陽凪の言う通り、怜はエルを血縁関係がなく最近知り合った赤の他人でありながらもまるで家族のように大切に思っていて、生活用品や無限迷宮の中でも何かとエルを優先して行動してきた。
そんな大切な存在が万が一あって命を落としてっしまったらとても悲しむだろうと陽凪は考えていた。
しかしエルは透兵がいるといえども1人になるのは危険だと考えていて陽凪が優先してくれたのに対して反対の意を示す。
そのエルの言葉に対して陽凪は柔らかな微笑みを浮かべてエルの小さな手を両y手で優しく包み込む。
「辻井さんが悲しそうな顔を浮かべたら、エルちゃんも嫌でしょ?」
「でも……」
「お願い、辻井さんと同じように、わたしもこれから沢山の明るい未来が残っているエルちゃんには少しでも長く生き延びてほしいの」
エルの年齢はまだ分かっていないものの、怜や陽凪より明らかに歳は若く、13歳、あるいは14歳といったところだ。
それに対して陽凪は16歳、怜は17歳とあまり差はないようにも感じるが若い時の時の流れはゆっくりと感じるもので徐々に時の流れは速く感じるようになる。
それを言われたエルは考えるように顔を下に向けてどうすればいいのかを考える。
エルもかなり他人のことを大切に思う性格なので、今自分が脱出ゲートに入っていいのか、脱出した後陽凪は安全に遊戯をクリアできるのかという不安が込み上げていた。
再び沈黙の空気が流れる。
そうして数分が経った後、エルは大きく深呼吸した後に陽凪の目を見て自分が出した答えを彼女に伝える。
「……陽凪さん、私、脱出します」
「うん、わかった」
エルが導き出した答えは陽凪を脱出させるのではなく自分が先に脱出する、という答えだった。
決して陽凪を見捨てたわけではなく、一番は自分の命のためではなく、怜を悲しませないためというのが一番の気持ちだったが、陽凪はそのことをなんとなくだがエルの顔から読み取れていた。
そして自分で選んだ選択の通り、エルはポケットから脱出の鍵を取り出し、ゲートにある鍵穴に差し込んだ。
「陽凪さん!」
「何?」
「どうか、無事に脱出してくださいね!」
そういうとエルはゲートの中に姿を消した。




