30.男の過去と計画
男との戦闘に決着がつき、男が企てていた計画の全貌が明らかになる時が来た。
立ち止まりながら話していても時間のロスに繋がるので辺りを散策しながら計画について話が始まった。
「それで、計画って一体何のことなんだ?」
「⋯⋯俺には兄と姉、2人の兄姉が居たんだ。母親や父親も居た、ごく普通の家庭だった。2年前までは」
「2年前に何かあったのか?」
「2年前に車で家族旅行に行っていた時だった。山奥に行くにつれてこの森のように濃い霧が立ち上っていたんだ」
◇ガードレール脱線事故の真相
男には兄・祐樹と姉・乃愛と両親の3人の家族が居た。
今から2年前、男の家族はとある所に旅行に向かっていたが、その道中で濃霧に見わわれ先が見えない中での運転だった為運転が上手くいくはずもなく、男の家族を乗せた車は突然目の前に現れたガードレールに衝突して道路から脱線した。
家族は全員意識を失っている中、男ただ1人だけが辛うじて意識を保った状態だったが、腕や足などに打撲や擦り傷など様々な怪我を負っていた。
男が何度も家族の名前を呼んでも返事はない状況の中、誰かが叫んでいる声を聞いていた住民が現場に駆けつけてすぐに救急車を呼んだ。
病院に着いたときにはもう両親の心肺は停止していた。
「先生……母と父は……?」
「残念だが、もう助かりそうにない。心肺が停止している上に外部の損傷が激しい」
「そんな……」
医師から出た信じられない言葉に、男はその場で倒れ込み、泣きじゃくった。
大事な家族であり、自分をこの世に生んでくれた母親と父親が突然死んでしまった事が何時になっても信じられなかった。
もしかしたら奇跡が起こって生き返るかもしれないとも一瞬思ったが、医療の専門家である医者から出た言葉という真実の重みに自分の浅はかな考えは踏みにじられた。
不幸中の幸いなのは、祐樹と乃愛はまだ助かる可能性があったことだった。
しかし、助かる可能性というだけであって、必ずしも助かるわけでは無く、もしかしたら容態の変化や手術の失敗と言ったことで2人は死んでしまうかもしれない。
その後、2人は集中治療室に運ばれた。
◇2年後、第1回遊戯開始まで残り2日
事件から2年が経過したが、未だに2人は目覚める兆しを見せる気配は無かった。
そんな中、数日前にいつも通り病院に向かっていた際に謎の青黒い雨を浴びてしまってからというもの、突然ゲームウィンドウが現れたりと散々だった。
2年前のあの日から男は空いた日には必ず病院に向かい2人の様子を見に来ている。
いつも2人の顔を見ると今にでも起きそうな表情をしており、毎回毎回来る度に今日こそ2人は目を覚ましているかもしれないと期待しながら通ってはいるものの、その期待はずっと外れ、最近ではその期待が裏返り、きっと今日も目を覚ましていないんだろうなという気持ちで何の気持ちもなくただ義務的な行動に変化していた。
とある日、今日もまた病院に行こうと思い準備を終えて玄関を開けると黒いパーカーを着た身長180cmほどの男性が玄関の先に立っており、まるで男が家から出てくるのを待っているかの様だった。
「あんた、誰だ? 俺はこれから用事があるんだが」
「お前に力を与えに来た」
「力?」
男性は力を与えに来たと言ったが、男からしたら胡散臭いセールスマンの様だったので追い出そうとすると、男性は今よりも1段階大きい声で言葉を発した。
「俺には関係ない。出ていってくれ」
「力を手に入れないと世界は滅びの方向へと進んでしまう。家族を助けれなくても良いのか?」
「何?」
「この言葉を無視するなと強制はしないが、君の未来を鑑みるとあまりおすすめしない」
「……話を聞いてやる。早くしろ」
男性は何故か男に2人の兄姉が居ることを知っており、そして男の未来も見ることが出来ていた。
話を切ろうとしていた男だったが、兄姉が救えるかもしれないといった話の方向に進んでいっているこの状況には抗えないと感じ、一先ず男性の話を聞くことにし、持っていたバッグを玄関に置いて男性を部屋の中に渋々入れてテーブルをはさんで椅子に座る。
改めて男性の外見を見てみると、整った黒髪、パーカーだけでなくズボンも黒のものを履いていた。ぱっと見ではそこらへんにいそうな不審者だ。
その視線に気づいた男性が自分に何か変なところがあるのだろうかというような身振りをした。
「俺に何か付いているのか?」
「いや、ただ単に服装が不審者に似ていただけだ」
「それならよかった。この服装にしているのには訳があってな、仕方なく着ているだけだ」
「そういえば、あんた名前は何て言うんだ?」
「俺か? そうだな……TRとでも呼んでくれ」
「TR? 奇妙な名前だな」
「まあ偽名だからな」
男性の名前はTRというようだが、本名ではなく偽名だった。
これは恐らくTRが言っていた訳の中にあるのだろうが、その偽名にした理由などはわからなかったが、男の考えでは本名をローマ字にした際の頭文字をとったのではないかと考えた。
「それじゃあ本題に入ろう。君は力が欲しいか?」
「だからその力って何なんだよ」
「世界を救済の道に導く力のかけらだ。このかけらの力を使えばお前の兄姉は助かるが、それとともに世界を救うという使命を請け負わないといけない」
「……世界を救う……」
そう言って男はパーカーのポケットから半透明の石のかけらのようなものを取り出してテーブルの真ん中に静かに置いた。
このかけらの力を受け取れば兄姉の命を救うことができるが、それとともに世界を救うという重大な使命を請け負わなければいけない。
こんな自分が世界を救うなんて荷が重すぎる、他にもっと適任がいるのではないか、もし力を手に入れたとしても世界を救うなんてことが成し遂げられるのだろうかと様々な葛藤が渦巻いていた。
その様子を見ていたTRは椅子から立ち上がり玄関の方まで向かっていった。
「おい。どこ行くんだ」
「そろそろ行かないといけなくてな。後の選択はお前に任せる。頼んだぞ」
『湖崎』
「なんで俺の名字を……?」
TRは何故か男の名字を知っていた。
湖崎の家はマンションで玄関前に苗字はなく番号だけがあるので知っているのは明らかにおかしい。
自分の情報を何故こんなに知っているのか、湖崎は恐怖感さえ覚えてしまうくらいだった。
いきなり言われた自分の苗字に同様が隠せずにいる間にTRは玄関のドアを開けて去っていった。
ドアの『ガチャン』という音がなった瞬間に我に返ってすぐに湖崎も玄関のドアを開けるが、もう外にTRの姿はどこにもなかった。
「あいつ、どこに行ったんだ……?」
リビングに戻り、先ほどTRが置いていったかけらに目を向ける。
「やるしかないのか……」
湖崎は覚悟を決めて、かけらを手に取る。
するとかけらからオーラが放出され、そのオーラが全て湖崎の中に吸収された。
そしてオーラを放出しきったかけらは形を変形させていき、最終的には西洋剣に変形した。
似た目はアニメや漫画で見るような西洋剣の形そっくりだが、持ち手部分に小さいスイッチのようなものが付いており、そのスイッチを押してみると自分の体が透明になった。
「なんだよ、これ……!?」
透明化した自分の体に驚くが、30秒が経過したところで透明化は解除され、元の姿に戻った。
「これが、世界を救う力の一端か……」
力を手にした湖崎は自分の手にした力の凄さを実感し、この力があれば、兄姉の命を救えるかもしれないと確信を得た。
その2日後、ラティオマラの遊戯が開始され、その中の規律の中に200点を使うことで1つ願いを叶えることができるという項目を見て、湖崎はいち早く200点を獲得して兄姉の体を回復させようと決め、ゲートの中に入った。
(待っててくれ、兄さん、姉さん。どんな手段を使ってでも200点を獲得して、願いを叶えて見せる……!)




