28.明晰暗殺
お互い武器を持ち戦闘態勢を取っているが、様子見をしているのかどちらも前に出ようとはしない。
怜は男が突進してくるのを反撃するという作戦で待ち構えていたが、一向に向かってこないため先に攻撃を仕掛ける作戦に変更し、刀に3割の魔力を注ぎ男の方に向かっていく。
すると男は反撃の構えを取らずに、剣先は下に向いたままの状態で、何を考えているのか掴めない状況だったが走ったからには攻撃を止めずに走っていく。
(何故剣を此方に向けない? 何か企んでるのか?)
そして男は怜の刀が射程圏内に入った瞬間、剣の持ち手にあるスイッチのような物を『カチッ』と押すと足元からゆっくりと姿が消えていき、怜が男の首元に剣を振りかざしたときには全身が透明になり刀は空を切った。
確実に切ったはずだと思っていたのに実際には空を切ったことに対して混乱している中、背中に鋭い痛みが襲いかかり、怜は思わず「がっ!!」と声を上げながらもすぐに後ろを振り向くとさっきまで目の前に居た男が足音を一切立てずに怜の背後に姿を現しており、剣に付いた怜の血を地面に振り払う。
「なんで……さっきまで前に居たはず……」
「能力を使っているからな。当然だ」
「悪魔系か……!」
「冥土の土産に俺の能力を教えてやる。俺の能力は明晰暗殺。魔力を込めたスイッチを押すことで数秒間透明化出来る」
男の能力、明晰暗殺は悪魔系能力で剣全体ではなくスイッチという物体自体に魔力を込め、魔力を込めたスイッチを押すことで自身を最大で30秒間透明化させることが出来る。
明晰暗殺の起動スイッチは男が右手に持っている剣のガードのすぐ下のグリップ部分に付けられており、そのスイッチを怜が攻撃する寸前に押し、透明化した後に背後に回り込み背中を攻撃していた。
そして最大のメリットは魔力のロスが極端に少ないこと。
スイッチだけに微弱な魔力を注げば問題ないので、男の弱点である最大魔力量が少ないという点をカバーできている。
「何故俺達を襲う!」
「お前に教える義務は無い、俺は俺の計画を進めているだけだ。それ以上でも以下でもない」
するとまた男は明晰暗殺を使い、怜の前から姿を消した。
何処から攻撃が来るか分からないという状況で、思考が鈍る中再び男は怜の足元を狙って剣を振り、ズボンが破れそこから血が流れ怜は膝を付いて倒れる。
そこで陽凪が見てられなくなったのか、1歩前に出てサポートをしようとした途端、目の前に現れ陽凪の首元に剣を突き出した
「余計な手出しはするな。あいつを倒した後にお前達2人も殺してやるから、大人しくしていろ」
「ひっ……」
あと数センチ剣が右に行けば陽凪の首が撥ねられてしまう所まで剣先が近づき、陽凪は急に襲いかかってきた死の恐怖に怯え、冷や汗が一気に全身を駆け巡り、杖を握っていた力が抜け地面に『ドサッ』と杖を落とす。
隣で隠れていたエルも同様に、怜がもしやられてしまえば次は自分の番が来るという恐怖に足の震えが止まらなくなり、木に寄りかかって立つのが精一杯な状態だった。
2人が反撃の意思を失ったのを確認した男は再び怜の方を向き、倒れている怜に剣先を向ける。
「俺の計画には死点が必要だ。そのためにも、ここでお前らには死んで俺の点になってもらう」
「……悪いが、俺達もここでお前に殺されるわけにはいかないもんでね」
「……ふん」
男がとどめの1撃を与えようと剣を下に振り下ろす瞬間に怜は間一髪で横に転がり攻撃を避け、一旦男と距離を置き戦略を練り始める。
(どうすればあいつの能力を掻い潜れる? 俺も隠密という類似した能力があるが、俺のは半透明に近い能力。あいつみたいに完璧に姿を隠せるわけではない……)
怜の人工悪魔の能力の1つ、隠密は男の様な完全に姿を隠す訳ではなくあくまでも視認が困難な程度の透明度なので、神経をすり減らしてよく見ればうっすらと姿が見えるが、明晰暗殺は完全な透明化なのでどれほど凝視してもその姿が見えることは《《基本的》》にはない。
そんな状況で打つ手が無いと少し諦めかけていた怜だったが、そんな時にふと周りの森の景色を眺めた。
(森……生い茂った草……濃霧…… 待てよ、濃霧?)
怜は森の今の状態を見て気づいた。奴の透明化の弱点が。
その瞬間、さっきまで感じていた恐怖等がゆっくりと消えていき、男との戦闘中に力の差を身を持って感じたことによる焦りから激しく鼓動していた心臓も徐々に正常な動きに戻っていった。
怜が急に辺りの景色を見始め、妙だと思った男はゆっくりとまた近づき始めた。
「何をしている、とうとう力の差に怖気付いたか?」
「……いや、寧ろ勝機が見えたもんでね」
「何……」
最初は怜の後ろ姿を見てこれまでの自分との戦闘から怖気付いたのかと思っていたが、今の彼はさっきまでの苦しみの表情は消え、真っ直ぐな表情で此方を見つめていた。
そして怜は落とした刀を拾ってからゆっくりと立ち上がり、刀に魔力を注ぎ始めたがその量は先程までの3割を超える4割を注ぎ込んだ。
その影響なのか、3割の時は刀を纏うオーラは薄紫だったのに対し、4割ではオーラは半透明の薄い青色だった。
そのオーラを見た男は初めて見た物なのか、驚きから一瞬目を見開いた。
(薄い……青のオーラ……?)
「さあ、2回戦と行こうか」




