26.森林突入
怜達が今向かっている森林には奥の景色は全く見えないと言っていいほどの濃霧が立ち込めている。
怜の後ろにエルと陽凪がついて行く形で歩いていき、森林に後ろの2人が足を踏み入れた瞬間、先程まで後ろに見えていた無数の建物は跡形も無く消えた、というよりかは霧が後方を見えなくしていた。
その事に気づいた陽凪が、震えた声で怜に話しかけた。
「つ、辻井さん、後ろが……」
「後ろ……?」
後ろを振り向き、さっきまであった建物が消えて霧に包まれた事を知った怜はすぐに後ろに走っていって状況を確認したが、何処にもさっきまでの建物は無く、森林がずっと続いていた。
(さっきまでの建物が無い……俺達をこの森林に閉じ込めたというのか?)
まるでさっきの空間とは別の空間に迷い込んだような感覚がした。
「これ、どうしたらいいんでしょうか……!」
(これが無限迷宮の正体なのか……? 永遠と続く森林、これ自体が迷宮で、その中にある宝箱から鍵を入手して脱出する。それが本当の脱出条件)
戻る道を失い、陽凪は震えてどうしようかとあたふたしていたが、怜は冷静に状況とこの遊戯の本当の姿について整理していた。
さっきまでの建物が怜の考えていた建物内がチュートリアルならば、今いる森林が本当の無限迷宮で、宝箱から確率で入手出来る脱出の鍵を入手しなければいけない、とすぐに今すべき行動を確認する。
残り時間は約4時間半。
この残り時間で宝箱を探すのは簡単かもしれないが、いくつか問題点がある。
1つは他の感染者が居る可能性。
先程の無数の建物があった事から、怜達3人以外にも他の感染者が多く存在しているかもしれず、その人達に先に宝箱を取られてしまうという点で宝箱を開ける数が減ってしまう問題がある。
2つ目は好戦的な感染者との遭遇の可能性。
第1回は協力も殺害も可能な遊戯なので、混乱や鍵を手に入れた油断に乗じて感染者を殺すといった行為を行ってくる者が居る可能性も否めない。
その感染者ともし怜達が遭遇した場合、必ず争いが起こる。
怜が戦っている内にエルと陽凪を逃がして2人は鍵の捜索に行かせることも可能なように見えるが、エルは能力者ではない上に陽凪は天使系能力者で動きを数分止められるが、ランクが格上すぎる場合はかえって自分が行動抑制の影響を受けてしまうと言った様々な理由から、2人を逃がしても助かる確実な保証は無い。
3つ目はテラポーンとの戦闘
C級やB級ならば陽凪が行動抑制を行って動きを封じている間に怜が攻撃して点数を獲得する、といった戦略で少ない時間で討伐出来るが、A級、ましてやS級となると話は違ってくる。
初見のA級でも苦戦したのにS級を相手するとなるととても厳しい状況になるのに加えて時間も大幅にロスしてしまう。
それに残り時間が1時間を切った後は迷宮内の何処かに出現する脱出のゲートも急いで探さないとならない為、実際には鍵を探す時間は残り3時間半と言ったところだ。
こういった問題点を考慮すると、残り時間4時間半というのは時間があるように見えて無い状況だ。
「とりあえず、辺りを歩いて宝箱を探そう。こうしている間にも他の感染者達が宝箱を開けて数が減っていっているかもしれない」
「ですね。行きましょう」
進み始めること30分、これまでの道のりでC級テラポーン2体、B級テラポーン1体、宝箱2つという回収だった。
陽凪の能力は格下の敵にあまり時間を掛けたくないという場合に最も欲しかった能力で、彼女のお陰で時間ロスもかなり少なく出来ている。
だが残念なことに開けた2つの宝箱はどちらも空っぽだった。
しかし着実に願いを叶えるために必要な点数は近づいていっている。
現在の怜の点数は合計して55点だ。
だが残りの145点をあと2回行われる遊戯内で獲得するのは少し厳しいところがあった。
(これで残りは145点。第2回以降のゲームで殺し合いが目的のものが来なければいいが……)
ポイントを多く入手するには遊戯内容が感染者同士の殺し合いのルールのものが来ることを願うばかりだが、そこには懸念点がある。
それはルール内容が殺害のノルマを設定している場合だ。
怜は近接の戦闘武器を多数持っているので、いざとなったら戦えるし、陽凪も苦戦はするものの何とかクリアは出来るかもしれないが、問題はエルだ。
エルは怜が先程惨黒刀を入手した時に元々持っていた短剣の1本を護身用として持っているが、彼女自身は非能力者なので、あまり戦闘を得意としていない。
そんな状態で殺害ノルマが課せられた遊戯が行われようものなら、ほぼ確実」にエルはノルマ未達成で失格、死んでしまう。
そのため、怜はただ、自分が願いを叶える為の200点を手に入れるまでに殺害の遊戯が来ないことを祈るしか無かった。
(まずは、いち早く鍵を探さないと)
立ち止まっている暇はない。
そして再び探索し始めて20分が経過した頃、奥に3つ目の宝箱のようなものが見えて、3人は罠の警戒を怠らずに宝箱の方に進んで行った。
これまでもいくつかあり、木の根本同士に視認できるか怪しいくらいの糸を張り、糸が引っ張られると上から槍が落ちてくる、といったトラップ等が今まであったからだ。
じりじりと進み、宝箱の元までたどり着くと3人同時に頷いて宝箱を怜がゆっくり開けると、そこには確かに、脱出の為の鍵が金色に輝いていた。
「これって……」
「ああ、恐らく、これが本当の脱出の鍵だ!」




