23.陽凪すみれ
陽凪と仲間になった後は、この建物内の情報交換を行った。
陽凪も怜達同様に目覚めた時は薄暗い個室に横たわっていたが、陽凪の方は1人だけだったらしい。
そして陽凪の方で発見した部屋は3部屋で、それぞれバスルームと家具が置いてある部屋が2部屋あり、隈無く捜索すると、バスルームの方でとあるメッセージが書いてあったそう。
そのメッセージの内容は
【鍵は元居た場所へ】
というメッセージが書いてあった紙切れを発見し、その紙を怜に手渡した。
「これ、どういった意味なんでしょうか」
「元いた場所ってのが引っ掛かるな。鍵が元々あったのはキッチンだが、それらしき鍵穴は見当たらなかった」
「わたしが来た方にも、それらしきものは無かったです」
怜の方にも、陽凪の方にもドアに鍵を挿す穴は無く、ここに来て迷宮の進行が止まってしまった。
2階に行こうとしても、階段の上はコンクリートで固められており、予想が当たればそのコンクリートも最初怜が窓ガラスを殴ってもびくともしなかった事から、恐らく壊すのは不可能な筈だと怜は考えていた。
すると、エルがあることを思いついたかのように小さく声を出した。
「……お兄さん、あれじゃないですか? 私達が最初目覚めた場所のタンスに、1つだけ鍵穴があったところ……!」
「……それだ! ナイスエル!」
「タンスの鍵穴?」
「ああ、俺達が目覚めた場所に2段のタンスがあって、そこの下段に鍵穴があったんだ。もしかしたら、元居た場所っていうのは俺達が最初に居た場所に挿せってことなんだと思う」
「なるほど」
エルのお陰でようやくこのメッセージの意味がわかった。
元居た場所というのは鍵が元々あったキッチンでは無く、怜達が居た最初の部屋にあったタンスの鍵穴に挿し込めという意味だった。
メッセージの意味がわかったことで、また先に進むことが出来るようになった3人は怜が来た道を戻っていく。
しかしここで再び壁が立ちはだかる。
この迷宮のルールである15分毎に倒したテラポーンは復活するというルールが適応されているので、怜が最初に倒したC級のテラポーンだけでなく、キッチンにいたA級のテラポーンも恐らく復活しているといった点だ。
キッチンの奴は無視できそうだが、そんなに簡単にいくものでなはいと思うので、恐らく戦闘は免れる事はできないだろう。
キッチン付近にに到着すると思っていた通りA級のテラポーンは復活しており、歩く音が聞こえたや否や、テラポーンは怜達の方を向き、さっきと同じ惨黒刀を構築し、戦闘態勢を取り始めた。
怜がエルと陽凪を後ろに下がらせようとすると、陽凪は何故か前に出できた。
「おい!」
「大丈夫です。わたしこう見えても、能力者なんです」
(まさか能力者だったとは……覚醒の基準は分かっていないが、こんなおしとやかそうな人が能力者なのは驚いた)
「分かった、ここは2人で戦おう」
「はい」
「エルは俺達の背後に居てくれ」
「はい」
驚くことに陽凪は怜同様に能力者の様で、ポケットから小さい木の枝を取り出し、魔法をかけると木の棒は大きく変化し、魔法の杖になった。
そして魔力を込めるとテラポーンの方に杖を向けて呪文を唱えた。
「行動抑制!」
陽凪が唱えた呪文、行動抑制は天使系能力で、対象の動きを制限することの出来る能力だが、相手の強さによって制限できる時間は限られる。
自分より3ランク下は時間制限無し、自分より2ランク上は制限不可で魔法を使った瞬間に破壊されてしまう。
もしも2ランク以上の差が出てしまう対象、例えば天津悠の様な力の差がかけ離れすぎている者に魔法を使用すると、かえって自分の行動が制限されてしまうというデメリットがある。
今回のA級のテラポーンは陽凪より1ランク上なので2分半の行動抑制が適用される。
魔法を掛けられたテラポーンは丁度刀を振り下ろそうとした瞬間に、動きが段々鈍くなっていき、最終的には動くことができなくなっており、まるで石像の様だった。
怜はその隙に惨黒刀に2割の魔力を注ぐと、短剣の時の様な薄灰色のオーラではなく薄紫のオーラが現れ、前回より鮮明に見えていた。
コアがある場所は先程戦闘して把握しているので、背後に移動し、1撃を加えると鎧にヒビが入り、コアの赤い色が割れ目から見えた。
陽凪の魔法の影響なのか、怜が攻撃しても一切声を出すことはなく、そのまま2回、3回と刀を振り、4回目でコアを破壊することができ、テラポーンは消滅していった。
【A級のテラポーンを討伐しました。辻井怜に15点が加算されます】
A級のテラポーンを倒したことで、再び15点が加算され、これで怜の所持点数は35点となった。
今回は惨黒刀はドロップされなかった。もし再びドロップしたら壊れた際のスペア品として保存しておきたかったので少し怜にとって残念だった。
「陽凪、ありがとう。お陰で素早く倒せた」
「え!? いや、その……わたしは、ただ魔法を使っただけ、なので……」
「そんな事無い。陽凪と合う前に戦った時はこいつの動きは素早かったし、結構苦戦した。だから、陽凪が魔法で動きを封じてくれたのは凄く助かった」
「そ、そんなに褒めないで下さい……!」
陽凪は日常であまり人から褒められる機会が今まで多くなかったのか、怜が戦闘のサポートをしてくれたことにお礼を言うと、顔を少し赤くして謙虚な素振りを見せていた。
しかし陽凪本人は自分は役に立っていないと感じているが、怜からしたら物凄く助かっていた。
キッチンにいたテラポーンはA級で、動きが素早く、中々反撃の隙を与えてくれなかったが、その素早さを陽凪の魔法で封じてくれたことで今回楽に倒せることが出来たのだから、あまり自分を過小評価しないべきだと怜は思っていた。
「それじゃあ、進もうか」
「はい」
「はい……」
陽凪はまだ自分が褒められたことが恥ずかしいのか、返事も少し小声で返していた。




