22.鍵と身代わり
キッチンの至るところに目を光らせて捜索すると、電子レンジの中に暗証番号付きの金庫がピッタリと入っていた。
暗証番号が何桁の番号なのかは書いていなかったが、恐らくさっきの部屋の壁に書いてあった【5981】という4桁の番号をこの金庫に入力すれば良いのではないかと思い、怜はその番号を1つずつ入力していく。
最後の数字まで入力し、右下のENTERを押すと、金庫が『カチン』と音を鳴らし。金庫が開いた。
「やっぱり。番号をメモしておいて正解だったな」
「ですね」
「中身はっと」
金庫の中身を確認してみると、中には1本の鍵が入っており、これがルールに書いてあった脱出の鍵かと思い、気が軽くなったそばからゲームウィンドウが開き、この鍵の詳細の説明を始めた。
【この鍵は外への鍵です。脱出の鍵ではありません】
(ま、そんなとこだろうとは思ってたけど)
今入手したのは外に移動するための鍵のようで、この1回目の遊戯から脱出するための鍵では無かったが、怜はこの鍵は恐らく外に出る鍵では無いだろうなと予測が付いていた。
気が楽になったのはもしかしたらの場合があるかもしれなかったからだ。
しかし、今現在の遊戯経過時間は45分程度と、制限時間の6時間にはまだまだ時間が残っていた。
こんなにも時間を残して脱出者が出てしまうのはラティオマラにとって退屈な筈だ。まだいくつかこの遊戯には仕掛けや試練が待っているに違いない。
そういった理由から、この鍵は最初に見えていた外に繋がる鍵だと推測がつく。
しかしここで問題なのが、この鍵を何処で使うのかが分かっていないという点だ。
今までで見た鍵の掛かっている扉は1つもなく、どの部屋もドアノブをひねれば開く部屋ばかりだった。
「今まで、鍵の掛かってた部屋なんて無かったよな?」
「はい。どこも簡単に開いていましたね」
「取り敢えず、探索を続けるか」
「ですね」
鍵の使い道は定かでは無いものの、こうして立ち止まっている内にもどんどんと制限時間は過ぎていっているので、再び探索を続ける事にした2人はキッチンを出て更に奥に向かう。
進むこと5分、キッチンを出た後も何度か宝箱を発見したが、いずれもハズレで中には何も入っていなかった。
すると前方に明かりが見えてきたので急ぎ足で向かうと、玄関に到着した。
玄関は豪邸のイメージとそっくりで、高級感溢れる絨毯に、大きなドアが2枚そして玄関の反対方向には2階につながっているであろう階段があったが、上はコンクリートで埋まっており、2階には行けなさそうだった。
最初は玄関のドアの方に向かい、先程入手した外に出るための鍵を使おうとしたが、ドアには鍵穴は無く、普通に押せば開くのかと思い押してもドアはびくともしなかった。
(玄関なのに鍵穴は無く、開けようとしてもびくともし
ない。一体どういう仕組なんだ……?)
この玄関の仕組みが分からずに悩んでいた時、怜達がいる反対方向から、誰かが歩いてきているのか、床が『ギシ……ギシ……』と軋む音が聞こえ、怜はまたテラポーンが現れたのかと思い、惨黒刀を出し、戦闘態勢を取る。
エルは今この状況では隠れる場所が無いので、怜の後ろで怯えながら隠れていた。
「誰だ!」
一歩、ニ歩と近づいてくるごとに緊張感が走り、怜も刀を持つ手の力がどんどんと強くなっていくのを感じた。
そして姿を表したのは、アイスブルーの髪色で160前半の身長をしたおしとやかそうな少女で、外見だけ見れば怜とほぼ同じくらいの年齢に見えた。
そして怜達と目があった瞬間、その少女は怜の戦闘態勢を見て自分に敵意が向けられているのだと感じ、震えた声で謝り始めた。
「ひいいいいい! ごめんなさああい!」
「……あれ? 人?」
「ですね……」
「えっと……こちらこそごめん! 急に見ず知らずの人から刀を向けられたらそりゃ怖いよな」
怜はすぐに刀をしまい、少女に急に刀を向けてしまったことに対して謝罪をした。
暫く立ち、陽凪も落ち着きを見せ始めたのでそれぞれ自己紹介を交わす。
「俺は辻井怜、よろしく。で、こっちがエル。訳あって今は一緒に居る」
「エルです。よろしくお願いします」
「わ、わたしの名前は、陽凪すみれ、といいます。よ、よろしくお願いします……」
陽凪すみれと名乗った少女はここに来てから始めて人と出会ったのか、自己紹介している際にはもじもじと身体を動かして緊張しているような素振りを見せていた。
「陽凪も、感染者?」
「わ、わたしは違うんです······! クラスメイトの中に感染者がいて、わたしは、嵌められて······」
(身代わり、か。やっぱり、死にたくないからこうやって非感染者を犠牲にして、自分は助かろうとしている人間はいるんだな)
陽凪は怜やエルのような雨を浴びた感染者としてこの遊戯に参加したわけではなく、他のクラスメイトが感染者で、その人から無理矢理連れてこられ、身代わりとしてゲートの中に入り、感染者となって参加したという。
怜の思っている通り、こんな唐突に無差別的に人が死ぬ遊戯が行われているのだから、自分は何としてでも助かろうと他の誰かを犠牲にして助かろうと考えている人間は少なくない。
しかし陽凪は今回の件とは全く関係の無かった少女だ。そんな中、急に無差別的に死ぬ遊戯に参加しなければいけなくなったということを怜達に伝えると、再び彼女の目から涙が浮かんできた。無理もない。
「良かったらなんだけど、俺達と協力しないか? 勿論、陽凪を陥れたりとかは絶対にしないって約束する」
「わ、わたしで良ければ、よろしくお願いします……」
怜は陽凪に共に行動しないかと話を持ちかけるが、陽凪はその話題が出できた瞬間に肩が少し跳ねた。
恐らくまたクラスメイトの様にいざとなったら自分を身代わり、犠牲に利用するのではないかと疑心暗鬼になっていたが、怜にはそんな気持ちは一切ない上に、性格上、自分の為に他人を犠牲にするつもりは毛頭なかったので、その事も伝えると、陽凪はこの人なら信用できるかもしれないと感じたのか、怜の提案を受け入れた。
こうしてまた1人、頼もしい仲間ができたが、怜は今度こそ森下のように死なせはしないと決意した。




