16.開幕
◇遊戯開始まで、残り5時間
遂にラティオマラの遊戯が、今日の午後13時に開幕される。
開幕当日の朝はとても胸騒ぎがした。高校の部活動の大会当日の朝や、大事なプレゼンの直前に来る緊張だとかにとても似ているような胸騒ぎだった。
何せ自分の命が掛かっているのだからそういった緊張や不安が込み上げてくるのは当然のことだと思い、怜は身体を起こし、傍に置いてあるペットボトルの水を一口飲み、一つ大きく深呼吸をしてから自分の部屋のドアを開けてリビングに向かった。
まだエルは起きてはいなかった。怜は早速2人分の朝御飯を作りにキッチンに向かった。
するとポケットに入れていたスマートフォンが振動し、確認してみると近藤からの電話だった。
「はい、辻井です」
『辻井くん、朝からすまないね』
「いえ、ついさっき起きたので問題ないです」
『そうか、なら良かった』
「あの、電話してきたのって……」
『ああ、今日が遂に邪神の遊戯だからね、一応励ましの声でもかけようかと』
近藤が電話してきた理由とは些細なもので、今日遊戯に参加する怜を励まそうと朝から連絡をよこしてきたらしい。
しかし近藤は対策本部局長だ。こんな忙しいであろう状況に連絡を取って業務に支障が出るのではないかと心配になったが、あちら側から連絡をしてきたのだからそういった点は大丈夫なのだろうと心配していたことをかき消す。
少しでも自分の作業に時間を割いたほうが良いのにその時間をこの電話の時間に使ってくれたのはなんだかありがたい気持ちになった。
『君と、エルくんの無事を祈っているよ』
「はい、わざわざありがとうございます」
最後に言葉を貰って近藤との電話を切るのと同時に部屋のドアが開きエルが起きてきた。
「お兄さん、おはようございます」
「おはよう。ご飯すぐ作るから待っててくれ」
「はい」
近藤との会話に集中しすぎてしまい、朝御飯をまだ作れていなかったので、エルがいち早くご飯を食べれるようにすぐに朝御飯の支度を始める。
「いただきます」
「いただきます」
ご飯を食べ始めてからは、特にこれといった会話は無くお互い黙って朝御飯を食べていたが、終わり際にエルがお椀をコトンと机に置き、少し曇った表情で怜に話しかけてきた。
「お兄さん、私たち、生き残れるんでしょうか」
「······」
その言葉を聞いた時、怜は出そうと思った言葉が喉から口に引っ掛かるような感覚になり、言いたくても言えなかった。
その言葉というのが『大丈夫、絶対生き残れる』という言葉だった。
今日行われるのはもしかしたら、いや、ほぼ確実に大虐殺が起きるかもしれない遊戯だ。そんな状況で、二人が絶対に助かるという保証は悔しくも無い。
恐らくラティオマラは貧弱だったり情弱な人間は自分の実験には不必要だと考えて次々と命を奪っていくだろうから、助かりたい人間が100%必ずしも助かる保証なんてあるわけが無い。
しかし保証が無いからと言って、怜に何も出来ない訳では無い。
エルを、自分の命が尽きるまで、この身が滅ぶまで脅威から助ける事は出来る。
だから絶対に生き残れるとは言わずに、別の言葉をエルに投げかけた。
「······必ず生き残らせてみせる、とは言い切れないけど、俺のこの身体が動く限りなら、君を助けることは出来る。だから、俺を信じてついてきて欲しい」
「······その言葉だけでも、私は十分心が軽くなりますよ」
「なら良かった」
怜がエルを裏切る事は決してない、そんな気持ちから出た『信用してついてきて欲しい』という言葉。
それを聞いたエルはこちらいつもの様に優しく天使のような笑顔を見せて怜の言葉を受け取ってくれた。
エルとしても、今一番信用できる人間が怜であるからこそ、こういった笑顔も見せることが出来る上に、先程まで鉛のように重かった心が、段々と軽くなっていくのがエルは感じていた。
◇遊戯開始まで、残り30分
「押さないで、順番に並んでくださーい!」
「こちらのゲートまだ人数空いていまーす!」
「均等に横10列になってくださーい!」
遊戯開始まで残り30分、約1時間前に日本では新宿、渋谷、板橋、足立、葛飾、江戸川区の6つの区域にそれぞれ4つずつゲートが出現した。
ゲートの大きさは人が横に10人、もしくは11人並んで入れるか程度の横幅で、縦の長さは大体5メートルから6メートル程の大きさだった。
まだ感染者はゲートに入ることはできないものの、先に並んでおくことでスムーズにゲート内に入れることを対策本部は考慮して、ゲートが出現した瞬間に黒役が長蛇の列の対応を行い始めた。
対策本部のスムーズな対応のお陰で混雑時のいざこざも殆ど無く、感染者は綺麗にゲート前に整列している。
しかしやはりと言ったものか、もしかしたら自分がこの遊戯で死ぬかもしれないという恐怖によるものなのか、身震いしている人、今にも吐き出しそうな人、お互いを何とか励まし合っている人など、基本的にはゲート前に並んでいる人の中で暗い表情をしていない人は誰もいなかった。
怜とエルはというと、こういった混雑を想定していたので、あらかじめ遊戯開始の1時間前から飛行能力で東京上空を飛びながら、何処にゲートが出現するのか見ていたので、二人はアパートから最も近い葛飾区のゲートのかなり前の方に並ぶことが出来た。
エルは今回初めて空を飛ぶということも怜は考慮して、なるべく低く、飛行スピードも通常の約3分の1まで落として飛行したお陰で、酔いによる吐き気などは全くない状態でゲート前に行くことが出来た。
◇遊戯開始まで、残り10分
遊戯まで10分を切った頃、突如感染者のゲームウィンドウが出現し、新たなメッセージを書き記し始めた。
【遊戯開始まで10分を切りました。これより、最初の遊戯の内容を選出します】
メッセージが表示された後、ウィンドウにはルーレットが表示されているが、数え切れないほどの遊戯が並んでおり、ルーレットがものすごい速さで回転し始めた。
時間にしておよそ30秒ほどルーレットが回転すると徐々に回転の早さが遅くなっていき、1分が経過した時にルーレットは停止し、最初の遊戯内容が確定した。
【最初の遊戯は、無限迷宮に決定しました。これよりゲート内に入場が可能となります。遊戯開始時間までに入れなかった感染者は失格・死亡となりますのでご注意下さい】
初回のゲームは【無限迷宮】に決まった。
タイトル通りならばゴールが存在しない脱出不可能な迷宮だと思うが、ラティオマラが3回も遊戯を行うのだから何かしらのミッションをクリアすることでゴールが出現、またはクリアとなるのだろうと怜は考えた。
そしてゲートは先程まであった封印のようなものが無くなり通ることが出来るようになり、黒役が誘導を再開すると勢い良く人々がゲートの中に入っていく。
「お兄さん」
「ああ、行こうか」
怜とエルもゲートの中に入っていく。
これから、命を賭けた史上最悪の死が飛び交う遊戯が始まる。
◇遊戯開始時刻、13時
開始時間の13時になった瞬間、ゲートがすぐさま閉ざされ、入ろうとしていた人が入れなくなってしまった。
「いやああああああああああ!!!」
「嫌だ、死にたくなああああい!!!」
恐ろしいほど辺りでゲートに入れなかった人々の叫び声やうめき声が響き渡っている。
すると通れなかった感染者にゲームウィンドウが新たなメッセージを書き記した。
【入場出来なかった感染者は残り5秒後に心臓を破壊され、失格・死亡します。5……4……3……2……1……0】
0のカウントと同時に、先程まで叫び声やうめき声を上げていた人達が急に黙り込み、3秒程経った後に彼方此方で『グシャッ』というような鈍い音が鳴り響き、感染者がどんどんと倒れていく。
黒役が倒れた感染者の様子を見ようとした瞬間、突然倒れた人々の頭部が何者かに食べられたような噛み痕を残して消えた。
通常頭部が無くなれば大量の出血が起こるはずだが、何故か血は一滴も流れていなかった。
日本の感染者死亡数、約200万人
ゲートを通過した感染者数、約490万人
◇謎の男視点
「あらら、何て悲惨な現場なんだ。僕が海外出張してる間に一体何が……」
少し袖を捲くった白いワイシャツに黒いズボン、黒いサングラスをした謎の灰色の髪色をした男は仕事でヨーロッパの方に出張しており、今日が帰国の日だった。
空港からとあるオフィスに向かう際、橋から見えた長蛇の列を発見し、途中でタクシーを降りてその現場に到着してみると先ほどまでの長蛇の列は消えており、代わりに頭部がない人間の山を発見して少し驚く。
「これは、久々に局長の所に行かないとかな。あの人と会うの何年ぶりだろ」




