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人工悪魔は影から  作者: イワスズタ
序章・後

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15/87

15.準備

◇ 遊戯(ゲーム)開始まで、残り37時間


 夜0時。エルは2時間前に就寝し、怜は灯りを付けずにスマートフォンを操作している。

 あの後、対策本部を後にした怜とエルはアパートに帰り、いつも通り夕飯を食べて風呂に入って寝る準備を整えてエルは布団に入るとすぐに眠りについた。

 今日は外の景色、怜以外の人間などと沢山話し、歩いたから余程疲れが溜まっていたのだろう。

 しかし逆に怜はあまり眠りに付けなかった。気になることがあったからだ。

 それは怜の友達である山崎創希と藤山友也の二人の安否についてだった。

 彼らは恐らくラティオマラが顕現した時に怜と同じ様に外にいたことから、青黒い雨を浴びて感染者となった可能性が高いと怜は思っていたからだ。

 そこで三人のグループチャットで連絡を取ることにした。できれば電話で話したかったが、疲れているエルを起こしてしまうのは悪いと思った為、チャットでの会話にしておいた。


◇チャット内


「お前ら、一昨日の青黒い雨を見たか?」


『青黒い雨? そういや降ってたな』


『降ってたが1分弱で止んだから、天気雨じゃ無かったのか?』


「実はあの雨、今話題になってる邪神って奴の仕業なんだ。そいつは雨を浴びた人達を感染者と呼び、 遊戯(ゲーム)を行うんだ」


『なんだよ、それ』


「多分、お前らの目の前にゲームのウィンドウみたいなのがある筈だ」


『本当だ、この 規律(ルール)とは何だ?』


「規律っていうのはさっき言ったゲームのルールで、破ったら即死するらしい」


『即死!? ふざけてるだろ!』


「正直それは俺も思ってる。けど、やるからには覚悟を決めないといけないんだ」


『······確かにそうかもしれないな』


『まぁ、お互い頑張って生き残ろうぜ。こんなクソみたいな遊戯から』


「ああ、お互い生き残ってまた遊ぼう」


◇


 山崎と藤山はラティオマラの 遊戯(ゲーム)の事を怜から伝えられるまでその事を知らなかったそうで、ゲームの理不尽さを聞かされた時はメッセージ越しからでも山崎の怒りを感じた。

 理不尽だと思っているのは山崎だけでなく怜もそれは同じ気持ちだった。

 何故ラティオマラが引き起こした 遊戯(ゲーム)に強制的に参加しなければいけないのか、何故奴は殺し合いを前提とした内容を考案したのか、など考えれば考えるほど奴に腹が立ってくる。

 しかし、怜も山崎も藤山もこの 遊戯(ゲーム)では極力他の人は殺したくないし、最後まで一緒に生き残って終えたい気持ちは一緒だ。

 最後に一緒に生き残ってこの馬鹿げた 遊戯(ゲーム)から生還して、また3人で一緒に楽しい学校生活を送ろうとお互いを励まし合った。

 

◇ 遊戯(ゲーム)開始まで、残り26時間


 山崎達とやり取りしてから、怜は安心したのかベッドに行くとすぐに眠りにつくことが出来た。

 朝起きてスマートフォンの時間を見ると朝9時で、着替えてリビングに向かうと椅子に座って食パンを齧って食べているエルがいた。


「あ、お兄さん。おはようございます」


「おはよう。起きるの早いな」


「昨日は早く寝ましたからね。お兄さんこそ、昨日より起きるの少し遅いですけど、昨日の夜何かしていたんですか?」


「昨日の夜は少し友達と話が盛り上がってな、それで寝るのが遅くなっただけだよ」


「早く寝ないと体に悪いですよ?」


 エルは怜が起きてくると手に持っていた食パンを一旦皿に置き、怜のもとに歩いてくる。

 エルは怜が昨日より起きてくるのが遅かったのを気にしている様で、怜は昨日の夜に山崎達と会話していた事を話したが、彼らが自分達と同様にラティオマラの影響を受けた感染者であることは隠した。朝からネガティブな話題を怜は持ち込みたくなかったからだ。

 するとインターホンが鳴り、玄関に行くと黒いスーツに黒いサングラスをして素顔を隠している男性が二人、少し大きな段ボールを抱えて玄関前で立っていた。

 この二人は対策本部が雇用している【 黒役(こくえき)】と呼ばれる役職の人間で、天使や悪魔の能力を持っているわけではなく、どちらかというと能力者のサポートをする、言わば裏方の人間だ。


「辻井様、頼まれていました物を全てご用意出来ましたので、届けに参りました」


「ありがとうございます」


「では、失礼します」


 黒役はアパートの中に入り、リビングまで段ボールの荷物を運び終えると無駄な時間を残さずに、最後に怜とエルに一礼をするとすぐさま帰っていった。

 現在世界各国で能力者の人数が増加しており、黒役はサポート等に手を焼かれている状況の中で邪神の対応も行わなければいけない為、時間は1秒たりとも無駄には出来ないからだ。


「お兄さん、この段ボールの中身って⋯⋯」


「ああ、昨日帰ってからエルの生活で必要な物品をリストアップしたものが入っているはずだ」


 黒役によって運ばれてきた段ボールの中身というのはエルの生活必需品で、昨日怜が近藤にエルの生活必需品の支給をお願いできないかという怜の少しばかりの我儘が了承されたので、対策本部から帰宅して早々にエルの必要な物品をリストアップし、その日の夜にリストアップした紙を対策本部に送ったが、まさかものの半日で全ての物品を買い揃えて家に来るとは怜は思っていなかったので、黒役の仕事の迅速さには驚かされた。


 早速1つ目の段ボールを開封すると、中には家で着るエルの服が上下セットで4着、ボディソープ・シャンプー・コンディショナーの一式セット、スキンケア・ヘアケアセット、そしてスマートフォンとその周辺機器が入っていた。

 エルが今まで家で着ていたのは怜のお下がりで、正直な所少しだけ大きく、偶にズボンが大きいせいで足を滑らせて転びそうになった事があったので、この機にしっかりとサイズが合った服にしようということでリストに入れた。

 ボディソープ一式やスキンケアセットも、今まで怜の男性用の物を使っていたのでしっかりと女性用と男性用で区別しておこうということでリストに入れた。


 そして何より需要なのはスマートフォンだ。

 エルの推定年齢である14〜15歳の年代ではスマートフォンを持っている子供も多いが、エルにスマートフォンを渡したのはゲームやSNSをさせるためではなく、怜との連絡手段としてだ。

 これから、何らかの要因でエルと怜が離れ離れで活動する時、スマートフォンが無ければお互いの安否が素早く確認出来ないことなど、デメリットは様々ある。そういった点を踏まえて怜はエルにスマートフォンを渡した。


「はい、大切に使えよ」


「ありがとうございます、大切に使いますね」


 エルは怜からスマートフォンを受け取ると初めて自分専用のスマートフォンを貰ったのか、とても嬉しそうな表情をしていた。

 

◇第一回 遊戯(ゲーム)開始まで、残り24時間

【近藤視点】


 近藤は1日後に迫ったラティオマラの 遊戯(ゲーム)について対策・他の部署との協議を重ねているなどでまさに激務中の激務で昨日も睡眠時間はおよそ2時間程度だった。

 加えて他国とも連携を取っており、どうやらラティオマラは日本だけにあの青黒い雨を降らせていたわけではなく、他の国にも同様に雨を降らせていたという。

 被害国は日本の他に中国、ロシア、イギリス、フランス、ドイツ、ナイジェリア、アメリカ、カナダ、ブラジルの9ヶ国だ。

 そしてこの被害国の協定【地球防衛協定《Earth Defense Agreement》9】通称EDA9を設立した。

 EDA9の諸国にもゲームウィンドウで 遊戯(ゲーム)の説明がされていたようで、他国でもそれぞれ対策を練っているそうだ。

 

(いよいよ明日か……)


 近藤は仕事の休憩として局長室の窓から外の景色を眺めていた。

 5月中旬ということもあり、もう桜は散り、綺麗な緑色の葉が生い茂った木々に、大きな雲とその上に広がっている澄んだ青色の空、様々な高さのビル、住宅街、道を歩く人々。

 この素晴らしい風景を邪神に汚される訳にはいかないと、近藤は外の景色を眺めながら右手を強く握り、再び仕事に戻る。


(邪神に、この様な美しい自然や建物、ましてや人間達を、殺させはしない……!)



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