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Ep④パーティーの夜

 その夜、ローズはノエルに話しかけるタイミングをずっと探っていた。


 成人パーティーの舞踏会には幼馴染の恋する男ロビンとその父ショーンとマリア夫人も来ていた。


 マリア夫人は左目が不自由なようで瞳が濁っている。

 かつて母を守るために魔力を使いすぎた影響だと聞いている。

 それ以来、母とマリア夫人はずっと親しく、陰に日向に支えあっているらしい。


 ショーン侯爵はそんな夫人をとても大事にしているようで今夜も甲斐甲斐しくエスコートしていた。

 仲睦まじい夫婦を見るとローズの胸は痛んだ。父であるウイリアムには母とノエルのことはどう見えているのだろう。


 もし二人に欺かれていたとして、何も知らないのだとしたら、父が気の毒になってくる。


 舞踏会の時間も半ばを過ぎて、恋する男ロビンがやっとリリーを掴まえられたようだ。その間、ローズは遠方から来たという王子のダンスの相手をしていた。


 曲が終わり王子に一礼すると、ローズも賭けに出た。


 父と話しているノエルのそばに近づいて声をかけた。

「先生、私と踊っていただけませんか」


 ノエルは一瞬驚いた顔をしたが、やれやれといった表情で父に目配せした。

 優しい父は微笑んで頷いた。


 音楽が鳴り始め、ダンスが始まった。ローズはノエルの顔を下から見上げる。


 長いまつげが影を落としていた。


 ノエルはその端正な顔立ちと細身の体形で実際の歳よりもかなり若く見える。

 この美しい人を母は独り占めしているのだろうか。あるいはこの人が母を誑かしているのだろうか。


 じっと見ているとノエルと目が合った。


 ローズはその耳元に顔を近づけた。


「先生、いつも身に着けていらっしゃるその指輪、母から送られたものですか?」

 ノエルの表情が凍った。


「本当は今も母をお慕いですか?」

「…なんの話だい?」


 いつも冷静なノエルが狼狽えているのがわかった。


 傍目には教師と教え子の微笑ましいダンスに見えているだろうか。


 目をそらしているノエルを見てローズはやりきれない気持ちになった。


 やはり、ノエルと母はずっと父に隠れて通じていたのだ。


 曲が終わるころには、ノエルの顔はすっかり青ざめていた。

「年のせいか、少し疲れたようです。失礼いたします」


 そうして彼はローズからそそくさと離れると、誰かを探し始めた。

 その目線の先には先ほどのマリア夫人がいた。


 ノエルが彼女に声をかけると、二人は隠れるように誰もいないバルコニーに出てしまった。

 ローズはこっそり二人の後を付けて、柱の陰から二人の会話を聞いた。


「もう、すべて打ち明けようかと思う」

 いつも冷静なノエルの声が震えていた。


「だめよ、あの子たちはまだ気づいていないでしょう?」

マリア夫人がなだめるように、しかしどこか毅然とした声で返している。


「しかし…」そういってノエルはその胸の下にあるものを握りしめているのが窓ガラス越しに見えた。

 

 やはり、そうなのだ。

 ローズは確信した。


 ノエルは今も母を思っている。

 そしてそれは母の親友であるマリア夫人も知るところなのだろう。


 自分たちだけが知らなかったのだ。


 これまで自分たち家族は大変なことも多くとも幸せだと思っていたのに、それもすべて張りぼてだったのかもしれない。


 父は皇太子として、祖父が亡くなってからは皇帝としてこれまで忙しく過ごしてきた。

 その間、私たち家族を優先できなかったであろうことは否定できない。


 その寂しさを母は埋めたかったのだろうか。

 それでも長い間、妻と親友に欺かれ続けてきた優しい父がとても不憫に思えてきた。


 そして自分たち双子はやはりノエルの子供なのかもしれない。

 そんなことも知らずに無邪気に彼に好意を伝え続けていた自分が滑稽に思えて、恥ずかしさと悔しさでローズの目には涙が滲んできた。


 と、リリーとロビンがこちらに近づいてくるのが見えた。

 ローズは慌てて、涙をこらえて深呼吸をした。


「ローズ?目が赤いわよ。大丈夫?」

リリーが心配そうにのぞき込む。


「ええ、少し目に埃が入ったみたい」

 ローズは何とか二人に悟られないように繕った。


 その時、会場に入ってきた執事が小走りで父と母に駆け寄り、何か耳打ちしたのが見えた。

 すると一瞬にして両親の顔が曇った。

 特に母は血の気が引いたような顔色だ。

 すぐさま父がそばにいたハッシュ卿に耳打ちした。


 そのやり取りを見ていた私たちに気づくと、ハッシュ卿がこちらにやってきてロビンに耳打ちした。


「ロビン、よく聞け。ヒース殿下が姿を消された」

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