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Ep③忘れな草の指輪

口さがない侍女たちの噂話だと思っていた。


ノエルがかつてお母さまを巡ってお父様と競ったという噂は本当なのかもしれない。


ローズは手に光る指輪をみた。

成人のパーティーの前に母が双子に送ってくれたものだ。


その意匠を目にしたとき、ローズは驚いた。


ノエルがいつも首から下げている皮ひもにつけられた指輪と同じものだったのだ。


彼の指輪はいつも胸元に隠されていたが、ある時、床に落とした本を拾うとした襟元から零れたのを見たことがあった。

今自分の指に光るそれと瓜二つのものがそこにはあった。


彼の古そうなその指輪は勿忘草の意匠が施された台座に小さな宝石がついていたが、光によって色を変えるそれがあまりに珍しかったので覚えていた。


「その指輪は?」


聞くと「ああ、これは…お守りのようなものでね」と彼は答えた。


そう言いながら又すぐに胸の中にしまってしまった。


ローズはその時は何も思わなかったが、ひょっとすると母が自分の指輪を送ったものなのかもしれないと思った。


もし母が愛人に送った指輪と同じ意匠のものを私たち双子に渡したのだとしたら。


そう考えると、ローズはノエルにも失望したが、それ以上に母親に嫌悪感が沸いてしまうのだった。


「あなたたちを守るよう魔力を込めてあります。いつも身に着けておきなさい」

そう言って私たちに一つずつ渡してくれた彼女は慈しむように私たちを見ていた。


その顔の裏で、ずっと夫である父を欺いてきたのだろうか。 


自分たちの知らないところで母とノエルはずっと密かにに繋がっていたのかもしれない。

だが、もしそんなことが露見すれば、間違いなく二人とも処罰されるだろう。

それでも、もし二人が強い思いでつながっていたとすれば。


そう思うと、ローズはますます母親を軽蔑してしまうのだった。


しかし本当のところはまだ分からない。


もちろん、本人たちに聞くわけにもいかないので、ローズはひとり逡巡していた。

まだ憶測にすぎないことを、どうやって確かめよう。


それにもう一つの懸念があった。

ローズの髪は薄い栗色だが、リリーの髪はノエルと同じ白銀なのだ。


それが侍女たちの噂に信憑性を持たせていたのだろう。

もしかして自分たち双子の父親はノエルでは…。


と、思いかけたところでローズは首を振った。


まさか、そんなことあるわけがない。

勿忘草の意匠など、どこにでもあるかもしれない。

たまたま同じようなものができただけ。

そう自分に言い聞かせて首を振った。


「ローズ、どうしたの?」

夕食後のリビングでくつろいでいたリリーが首を振るローズに驚いて声をかけてきた。


「え?!いや、何でもない」

「なにか心配ごと事?」


心配そうな顔でこちらを見ている。リリーに相談したらなんと言うだろう。

きっと、まじめな性格のリリーのことだ、自分以上に母親を嫌悪するに違いない。


「なんでもないわ。それより、明日のパーティーにハッシュ卿は来て下さるの?」

話を変えるためにリリーに聞いてみた。


「な、なぜ今彼の話が出てくるの?」

いきなりハッシュ卿のことを聞かれてリリーの声が上ずった。


「……彼は、今回は宮殿の護衛だそうよ。」

「あら、残念ね」

「何がよ?」

「さあね。なんでもないわ」

ローズは訳知り顔でリリーを見る。


明日は周辺国の王子や貴族の令息たちも招待されている。


そうやって、これから自分たち王女に相応しい相手を見つけなければならない。

恋と呼べるようなものは、もうきっと今しかできないことはリリーだけでなくローズももちろん分かっていた。


弟であるヒースは明日の舞踏会には出ないと言い張っている。


端正な顔立ちの弟を思い出す。

ひとたび舞踏会に出れば王子という地位とその見目麗しい見た目だけで注目も集まるだろうが、あの弟はどうやらまだ面倒臭ささの方が先立つようだ。


女の子と踊るより、魔導書の研究の方が楽しいんだのと言っていた。


まだ恋を知らないのだろう。

ローズは幼い彼が少し羨ましくなった。


そして、すっかり恋する男となった幼馴染を思い出した。

「リリー、明日はロビンが侯爵家子息として参加するそうよ」

「あら、そうなの?」

「せっかくだし一緒に踊ってみたら?」


ローズは少しロビンに助け舟をだしてみた。

「どうして?」

この王女様はハッシュ卿のこと以外は本当に鈍感なようだ。


「それは、ほら、誰も踊ってくれなかったら可哀そうじゃない?」

「まあ、そうね…」


リリーは少し考えているようだったが、その間ぐらいなら、自分が他国の王子の相手をしても良いだろうとローズは考えている。


リリーとしても気心の知れた相手の方が緊張せずに済む。

彼女も社交界が得意なタイプではないのだ。


そして一度くらい、自分たちの護衛騎士の思いに報いても良いのではないかとも思う。

もし自分たちが他国に嫁ぐことになったら、こんな機会は今後数えるほどもないかもしれないのだから。


そう思いながらローズはため息をついた。

明日は母親とノエルにどんな顔をして会えばいいのだろう。

目の前で美しい白銀の髪が揺れた。


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