第七話
その後、ヒイロの住むアパートに行き銀行強盗の具体的な方法について二人で話し合った。決行日を明日と決めた後、本番に向けコンディションを整えるため今日のところは解散ということになった。
の、はずだったが。
「どうしてお前はまだ俺の部屋にいるんだ? 自分の家がないのか」
「そんな訳なかろうが。余とて一年もこの地におるのでのう」
それは、さっきミリシアの口から語られた事実であった。どうやら同じタイミングで爆発に巻き込まれた二人だったが、この世界へたどり着く時期にラグが生じているようなのだ。
「そういえばお主、気になっていたのじゃが。余のようにお主もダイタニアから持ち込む事が出来たアイテムなどはなかったのかえ? 余の宝石ほどではないだろうが、それを売ればいくらか懐が温まろうに」
「多少は持ち込めたが、こっちの世界ではガラクタ扱いされるものばかりであったな。鎧などは売れたが『デカくて邪魔なだけだ』と叱られたな。他にも売れるものは売って少しの金にはなったが、手元に残ってるのはもう値段の付けられないものばかりだ」
「そうか。ところでお主、食事は取らぬのか? 少なくとも余と会ってから何も口には入れておらぬよな」
「かつての宿敵に飯をたかるつもりか? 俺は金欠ゆえに一日に一食しか取らないようにしているぞ」
痩せ我慢、と言う風でも無さそうなヒイロの様子にミリシアはため息をひとつ吐く。
「それでは明日の作戦に影響が出るであろう。仕方あるまい、今日のところは余が『さあびす』してやるとしよう。しばしここで待て」
「おい、俺は普段から慣れているから、夕食など食わなくても──」
そう制止するヒイロの声を無視し、ミリシアは部屋を出て行った。
「妖狐め。なにか企んでいるのか?」
妙に親切な彼女の行いに疑念を抱いてるうち、耐えられぬほどの睡魔がヒイロを襲った。
(今日は色々と気苦労があったからな。……眠気が)
そうしてうたた寝をしたヒイロは、夢を見た。
その後、ヒイロの住むアパートに行き銀行強盗の具体的な方法について二人で話し合った。決行日を明日と決めた後、本番に向けコンディションを整えるため今日のところは解散ということになった。
の、はずだったが。
「どうしてお前はまだ俺の部屋にいるんだ? 自分の家がないのか」
「そんな訳なかろうが。余とて一年もこの地におるのでのう」
それは、さっきミリシアの口から語られた事実であった。どうやら同じタイミングで爆発に巻き込まれた二人だったが、この世界へたどり着く時期にラグが生じているようなのだ。
「そういえばお主、気になっていたのじゃが。余のようにお主もダイタニアから持ち込む事が出来たアイテムなどはなかったのかえ? 余の宝石ほどではないだろうが、それを売ればいくらか懐が温まろうに」
「多少は持ち込めたが、こっちの世界ではガラクタ扱いされるものばかりであったな。鎧などは売れたが『デカくて邪魔なだけだ』と叱られたな。他にも売れるものは売って少しの金にはなったが、手元に残ってるのはもう値段の付けられないものばかりだ」
「そうか。ところでお主、食事は取らぬのか? 少なくとも余と会ってから何も口には入れておらぬよな」
「かつての宿敵に飯をたかるつもりか? 俺は金欠ゆえに一日に一食しか取らないようにしているぞ」
痩せ我慢、と言う風でも無さそうなヒイロの様子にミリシアはため息をひとつ吐く。
「それでは明日の作戦に影響が出るであろう。仕方あるまい、今日のところは余が『さあびす』してやるとしよう。しばしここで待て」
「おい、俺は普段から慣れているから、夕食など食わなくても──」
そう制止するヒイロの声を無視し、ミリシアは部屋を出て行った。
「妖狐め。なにか企んでいるのか?」
妙に親切な彼女の行いに疑念を抱いてるうち、耐えられぬほどの睡魔がヒイロを襲った。
(今日は色々と気苦労があったからな。……眠気が)
そうしてうたた寝をしたヒイロは、夢を見た。
◯
「ココココ! よくぞ参ったな勇者御一行。ここまでのお主らの戦い、しかと見させてもらったぞよ! さぁてそのような満身創痍の状態で余に勝てるかぁ?」
これはヒイロの身からすると一ヶ月ほど前の光景だ。数多の魔物を従える魔王として人類に牙を向いた妖狐ミリシアと勇者ヒイロらによる何度目かの決戦の場面である。
「これで何度目の復活だ、妖狐ミリシア! いい加減、ダイタニアの征服などという馬鹿げた夢を抱くのはやめろ!」
場所はミリシアの住む魔王城の謁見の間。現実世界と違い、夢の中の彼女はたった一人でありながらも全盛期の力を有しているため、数で勝る勇者パーティーを圧倒していた。
「ヒイロ! これ以上は僕の魔力が持たない! さっさとやつにとどめを刺してくれよ! 今こそ、剣術ばかり磨いてきたお前の力の見せどころだろうが!」
そんなパーティーの中でも最年少、十二歳の少年魔法使い、キースの悪態に答えるのは暗殺者のヒオだ。
「キイー! あんたってばこんな状況でも、勇者様の悪口しか言えないワケ!? いいからあんたは気合いれて魔法ぶっ放しなさいよ! ちょっとでも手を抜いたら、ぶっ殺してやるんだから!」
「殺すだって!? 残念ながらそれは無理だな! 何故なら僕らは役立たずのヒイロのせいで全滅しちまうんだからさ!」
「今すぐ殺されたいのあなた!?」
などと始まった罵り合いを後ろに、ヒイロはなんとかダメージから復帰し立ち上がる。
「つ、強い。妖狐め、復活を果たすたびに力を上げていたようだが、まさかここまで膨大な魔力を得ているとは……くそ、今の俺ではやつに勝てぬのか」
既に幾たびも魔王を打倒してきたヒイロだったが、今回ばかりはそれも無理か、と諦めかけていたところで、
「諦めるのはまだ早いであります、勇者殿!」
そんな弱音を吐いてしまった彼を鼓舞するのは、誇り高き女騎士シァンだ。二十一歳という若さでありながら魔王討伐という重大な任務を帯びるほどの実力者であり、事実こうして他のパーティーメンバーが絶望する中でもヒイロを庇うようにして魔王へと立ち向かっているのだ。
「女である拙者の小柄な体躯を見て、バカにしなかったのは勇者殿だけであります! 拙者はそんな心の優しい勇者殿だからこそ、ここまで付いてきたのであります。そんなあなたが先に諦めてどうするのですか!」
「シァン……そうだな」
彼女の叱咤にヒイロも力を取り戻す。
「お前は屈強な男たちが集まる中でも、類稀なる才能を有していると評判だったが、事実は違う。俺はかつて見た、たとえ雨が降ろうが雪が降ろうが、周りの人間が寝ている間にも休まず鍛錬を怠らず努力を続けていたのを。人はお前の力を『天からの授かりものだ』と言うが、実際はお前の不屈の精神によって培われたと言う事を俺は知っているぞ。だから俺も──」
そう言って立ちあがろうとするヒイロをシァンが制止する、
「勇者殿……何をなさるおつもりですか! ここは単騎で挑まず拙者も共に!」
「どいていろ。もはや俺の気力も底を付いているが、お前を見習い最後まで足掻いてみるとしよう。これが正真正銘、俺の最後の攻撃だ」
ヒイロはそう告げると、王家より賜った聖剣グラムを構える。
「ココ! 面白い、決死の一撃という訳か。よかろう、ならば余も全力を持ってお主を屠ってやろうぞ!」
ミリシアはそう言った側から身体から魔力を漲らせ、最後の攻撃の準備を始めた。その攻撃はたとえ万全の勇者パーティーが相手取ったとしても、受け止め切れるかどうか分からないレベルの脅威を孕んでいた。
「おやめ下さい勇者殿! あなた様の身体は既に限界を超えております、まずは拙者が先行して魔王の隙を作ります故!」
「それではお前の身に危険が降りかかる。リスクを取るのは俺一人で充分だ。仲間も守れるのであればこの命など、どうなっても構わない──!」
「よくぞ申した勇者ヒイロよ。では喰らうがいい、我が奥義!」
「行くぞ妖狐! これが人間の意地だ!」
二人の死力を尽くした攻撃が激突した後、ヒイロの視界は眩い光に包まれる。
(やはり俺はここで死ぬのだな。ああ、少しも後悔はない)
誰に言われるまでもなくヒイロは自身の状況を、そう客観的に判断してみせた。
(だが、ここまで付いてきてくれた仲間達はどうか、俺たちの攻撃に巻き込まれないでいて欲しいものだ)
「ヒイロ!」
「勇者殿ー!」
「勇者様!」
意識が途切れる直前、最後に耳にしたのは仲間達の悲しげな絶叫であった。
(俺の事はどうでも良い。せめて仲間達だけでも無事でいてくれ)
そうして、彼の意識はシャットダウンされてしまったのである。




