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第六話

「ここが超大国ヒノクニ最大級の銀行『博愛銀行』か」

 ポルシェの助手席から降りたヒイロはその大きさを前にため息を吐いた。彼が今いるのは博愛銀行正面にある駐車場だ。運転席から降りてくるのはこのポルシェの持ち主であり、今回の主犯であるミリシアだ。

 主犯。そう、その表現はまさに彼女にこそピッタリだろう。銀行強盗を企てる者を他にどう言い表せるだろうか。

「こんなところに連れてきてどうするつもりだ。民が金を預ける施設なら、ダイタニアにもあったぞ。金など蓄えている者が悪い、などと言う理由で俺が犯罪に加担すると思っているのならとんだ勘違いだぞ」

 当然、こんなにも巨大な建造物などではなかったが。

「それにこの車はなんだ。まさか──」

「心配せずとも汚い金などではない。向こうの世界で身に付けていた宝石などを売った金ぞ。そしてここへ連れてきた理由もすぐわかる。ほれ、入り口を見てみろ」

 ミリシアに促され、銀行の入り口へと目を向ける。そこにはちょうど、銀行のガードマンらしき人間につまみだされた市民の姿があった。その後ろから小綺麗なスーツを着た男も付いてくる。

「お願いです支店長さん! どうかお金を下ろさせてください! 給料が引き出せないんじゃ生活もままなりません!」

「そう泣かずともよろしいでしょう。私どもはあくまでお客様のお金をお預かりしてるだけですから、お金を引き出したいのでありましたら、いくらでもお引き出し頂いて構いませんよ」

 つまみ出された客との会話を聞いたところ、小綺麗なスーツの男の正体はこの『博愛銀行』の支店長にあたる人物なようだ。

「いくらでもって……それが出来ないから困ってるんですよ! なんなんですか、引き出しの手数料が百万円って!」

 客の言葉を聞いた支店長は鼻で笑って応える。

「数日前に街中のテレカメラで告知をさせて頂きました通りです。『博愛銀行』はサービス品質の向上のため、一回の引き出しにつきの手数料を変更する運びとなったのです」

「明らかにおかしいでしょう! 元々二百円だった手数料が百万円に跳ね上がるなんて!

「おかしくなどありません。手数料は予告なく変更される場合があると事前に説明させていただいたかと存じます」

「説明の有り無しなんてどうでも良いんです! 自分の金を引き出すために百万円もかかるのは高すぎるって言ってるんですよ!」

 それまでは柔和な笑顔を作っていたスーツの男だったが、『高すぎる』という客の発言を聞いた直後、その態度を豹変させる。

「高すぎる、ですって?」

「そ、そうです! こんなふざけた事が通ると思うな!」

 客の男も相手の雰囲気が変わったことに気付いたのだろう。強気な態度は崩さないまでも、言葉の端に怯えが浮かんでいた。

「少しはモノを考えてから言えよ貧乏人……」

「び、貧乏人って俺のことか?」

「当たり前だこのトンチキ。我々『博愛銀行』は小鳥のエサすらも買えないような二級、三級市民のはした金を四六時中保管しておいてやるんだ。お前が寝てる時もハナクソをほじってる間も文句ひとつ言わずになぁ。それも一ヶ月やそこらじゃない、この先何十年もずぅっとだ。その労働の価値に対する対価が百万という手数料なんだ。もし払いたくないんだったら、お前の耳穴にでも小銭を詰めておくんだな。──おい、お客様がお帰りだ。丁重にお見送りして差し上げろ、なんといってもこの商売は信用が第一だからなあ。傷をつけたりするなよ」

 支店長が視線を送るとガードマンが客の襟首を掴んで、そのまま人目のつかぬところまで引きずっていく。

「く、くそぉ! 俺の金を返しやがれええぇぇ!」

「ふふふ、百万円が貯まりましたら、またのお越しをお待ちしております。お客様」

 という一連の流れを見ていたヒイロはミリシアに説明を求める。

「いまのは一体……」

「あれがこの国一番のメガバンク『博愛銀行』の姿ぞ。つい先日から金を引き出す際の手数料を阿呆のようにあげてのう。二級以下の下級市民は自分が預けた金を引き出すことが出来なくなったのよ」

「銀行とは金持ちも市民も分け隔てなく使う施設のはずだろう? このような暴挙、一級市民だって認めるはずが」

「一級市民はもう何年も前に銀行を使わなくなっておるのだ。奴らは自分の資産は自分で管理するようになり、今となっては博愛銀行の利用者は二級市民以下しかおらぬ。噂では銀行のやつらは、市民の金を着服し、資産運用に利用しているといわれておるようだが真相は闇の中よ」

「金が引き出せない以上、市民も不正を確認する手段がないということか」

「そういう事じゃ」

 この超就職難な時代に何とか職にありつけた者たちの金が、あのような形で奪われているとは、ヒイロは今日まで考えもしなかった。このような状況がテレカメラのニュースで報道されないのは、きっと被害に遭っているのが二級以下の市民ばかりだからだ。

「当然、下級市民の間に不信感は広がりつつある。しかし、博愛銀行の警備は厳重そのもの。並の人間がいくら集まっても正面玄関すら突破できずじまいであろうぞ」

「並の人間なら、か」

 ヒイロはミリシアの言葉を反芻し、告げた。

「俺は決めたぞ。妖狐よ、お前の口車に乗ってやる」

「コココ、どういう意味かえ? はっきり言葉にして申してみよ」

「俺はこの博愛銀行に強盗として押し入る。そして市民の金を奪い返すぞ」

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