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第五話

「ほぅ。ここがお主の借り住まいか。主人と同じで面白みのない部屋よのう。一応、『えろほん』とやらを探しておくかのう」

「部屋を荒らすなら帰ってもらえるか? それに家賃すら払えてない俺が家具など買えるはずないだろう。このちゃぶ台も冷蔵庫も大家さんから借りてるものだから壊すなよ」

 詳しい話は人目のつかない場所でしたい、というミリシアの提案を受け自室へ案内をした訳だが、失敗したなと内心ヒイロは後悔していた。

 彼が住むのは築年数五五年の『夕刻荘』という名前のアパートだ。無職ながら二階建ての二階角部屋に堂々と住まう事が出来たのは、ひとえに大家の寛大な心持ちのお陰であろう。

 六畳一間で収納付き。電気光熱費が無料という好条件であるのだが、ユニットバスであるというのと、エアコンが絶賛故障中であるのが玉に瑕だ。

「お主の部屋、テレカメラはないのかえ? この国では全世帯に設置し、情報を得る権利があるとかいう法律があったろうに」

「その法律は五十年ほど前にリトルシスターとやらが超大統領就任後に制定したものだろう。この建物はその法律制定よりも以前に建てられたからな、おそらくこんな場末のアパートであるゆえに見逃されていると思われる」

「そうか。それはそれでこれからの計画をコソコソと話す必要もなくなるし、都合が良いのう」

「ついついお前の口車に乗ってしまったが、こっちの世界でも強盗は犯罪だろう?」

 ヒイロが一応確認すると、

「当たり前じゃろう。どこの世界だろうと強盗は強盗、犯罪は犯罪じゃて」

 ミリシアは悪びれる訳なく頷く。

「ならば一考する余地もない。罪もない人間の資産を奪うなどは、出来ん」

 この世界に来たばかりではあるものの、ヒイロは超大国ヒノクニで生きる人々に愛着のようなものを感じつつある。それゆえに必死に彼らが貯蓄した大事な資産を盗むなんて真似は、彼の道徳心が許容しない。

「そう結論を急ぐでない。そして、必ずしも銀行強盗が悪とは限らないであろう?」

「なに寝言を言ってるんだ貴様」

 やはりこの女、住む世界が変わっても『魔王』なのか、と失望したヒイロだったが。

「人の話は最後まで聞けい。お主、こちらの世に来てまだ一ヶ月かそこらであろう? その程度の期間でこの国の何が分かると?」

 妙に自信ありげな彼女の態度が少し気になった。

「その口ぶりではお前はさぞ詳しいようだが、そちらの知識も俺とそう変わらないだろう?」

「それが違ってのう。どうやらダイタニアとこちらの世界は時の流れが違うようでな、余がこの国へやってきたのは今から一年ほど前になる」

「一年も……?」

 驚いたヒイロの顔を見てミリシアは『一本取った』と言いたそうに頷く。

「つまりお主よりも余の方が、この超大国ヒノクニの社会構造に詳しいと言えようぞ。例えばヒイロよ、さっき会った金田のような富裕層、つまるところ一級市民がこの国全体の何パーセントを占めているか知ってるかえ? 」

「分からん。一五パーセントとかか?」

 記憶を頼りにヒイロは答える。街中に置かれたテレカメラから得られる好景気な情報を見るに、この国の上位僧となる一級市民は相当数いると思えたのだが。

「残念。わずか五パーセントよ」

「──っ!」

 想定よりもずっと低い数に絶句したヒイロに対し、畳み掛けるようにミリシアは告げる。

「良いかヒイロよ! この超大国ヒノクニでは上位たった五パーセントの人間が国の総資産の七十パーセントを独占しておるのだ! 対する国民の失業率は三十パーセントを超えておる! これが何を意味するかお主は理解しておるか?」

 元魔王、ミリシアが告げる言葉に元勇者であるヒイロはその絶望的な数値に思わず生唾を飲む。

「労働者は、わずか五パーセントの富裕層のために奉仕しているということか」

「それどころではない! つまりこの国に住む二級、三級市民を足した九五パーセントの人間が享受すべき金銭をたった五パーセントの一級市民が理不尽に独占している事を意味するのじゃ! そしてこの国の統治者はこの金持ちばかりが得をする仕組みを作っておるのはお主も承知しておろう!」

 そうだ、近頃のニュースでも富裕層を優遇する法律が制定されているのをみると、大多数の貧民と少数の金持ち、国の関心がどちらに向いてるかなどヒイロですら想像がつく。

「だが、そんな事実を知ったところで俺にはどうしようもない話だ……こちらの世界での俺は勇者でもなんでもない、ただの失業者だからな」

「そうじゃないとすればどうする?」

「お前は知っているのか、どうすれば理不尽なこの国の現状を変えられるのか」

「これこれ、余が先ほど提案したじゃろうに。もう忘れたのかえ?」

 もったいぶるように溜めて、彼女は告げた。

「勇者ヒイロ・ヨリシロンよ、余と共に銀行強盗をするぞ」

「は?」

 憤ったヒイロはミリシアを問い詰める。

「馬鹿な。どうしてそんな事でこの国の現状が変えられると言うのだ……!」

「ふむ。お主は『博愛銀行』という名前に聞き覚えはあるか?」

「テレカメラのニュースで見たことがあるな」

「ならば付いてくるが良い。お主にはこの国の現実とやらを見させてやろうでは無いか」


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