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第四話

 確かに現在のミリシアの姿はダイタニアの頃とは少し違っていた。地面まで届いていた長髪もバッサリと切り落としているようだし、絢爛豪華な着物よりも動きやすそうな服を着て、何よりも妖狐と称された原因である狐耳もどこかへ消え失せているようだ。

「見た目が変わったとはいえど、俺は勇者だ。お前がまた『魔王』として悪事を働こうというのであれば容赦はしないぞ」

「ココココ! だから今はただのミリシアだと言っておろうに! 『魔王』として人間共を駆逐するのも悪くなかったが、今の余にはそのような野望はないぞよ」

 そう、二人はかつて『勇者』と『魔王』として憎み、戦った過去がある。それも一度や二度ではなく、ミリシアは勇者ヒイロに討伐された後、何度も甦りを果たしてきたので、そこらの人間と比べても二人の因縁は深いのだ。

 そもそもヒイロがこうして超大国ヒノクニの地へ転移してきたのも、彼女との何度目かの決戦の結果なのだ。

「俺がこの世界に来たばかりの頃は、てっきりお前の魔法によるものかと思っていたが、その様子ではやはり違うわけだな」

「うむ。余の記憶ではお主との攻撃魔法が衝突したところまでは覚えておるのじゃが……気付けばこの世界に居ってのう。何故このような事態になっているのか余にも分からぬのよ」

 と、二人が過去の因縁から現在に至るまでの話に花を咲かせかけていたところだったが、

「て、てめぇら! さっきからウダウダと何喋ってやがる!」

 ヒイロもすっかり存在を忘れていた金田が、大声を上げた。二人が会話をしている間、懸命な消火活動が行われたのだろう。頭部の炎はすっかりと消火されたようだ。

「俺様はお前らなんかと違う一級市民様だぞ! お前らのような市民とは違うんだ! 理屈は分からんが、俺様をこんな目に遭わせやがって、タダじゃおかねえ!」

 金田は怒りのあまり泡を吹きながら懐から拳銃を取り出す。超大国ヒノクニでは『自衛のため』の武器保有が認められているのだが、人を殺傷し得るほどの装備は非常に高価なので、自衛とは名ばかりの金持ちが貧乏人を一方的に殺害するための建前のようになっていた。

「こいつは正当防衛だ! お前らのようなクズはここできっちりと殺しておかないとなぁ!」

「むぅ。お主さっきから、ぎゃあぎぁあうるさいのう。少し黙らせて──」

「待て、俺がやる」

 ミリシアが次なる魔法を行使する直前、先に動いたのはヒイロだった。

 元とはいえど勇者である彼の運動能力は一般人をはるかに凌駕しているため、金田の手から拳銃を奪うなんてことは朝飯前なのだ。それに留まらずヒイロは金田のこれ以上の蛮行を止めるべく、彼の親指の骨を折ってみせた。

「ぎゃあああ! お、俺様の指がぁぁぁぁ!」

「金田さま!? 大丈夫ですか!」

 慌てふためく金田とボディガードを見下ろしながら、ヒイロは告げる。

「ただの骨折です。病院とやらに行けばすぐに治してもらえることでしょう。しかし」

 ちらり、と彼が横目に見るのは、この騒動のきっかけとも言える母娘の姿だ。彼女らは目の前の現実に対し、逃げ出すことすら出来ず、ただ震えるだけだった。

「この国には高額な医療費を払えない人間が大量に居ることをお忘れなきように。もしまた、あなたが弱者を痛めつける場面を自分が見かけた際は……今度は命を奪います」

「わ、分かった! 俺もこれからは心を改める! おい、行くぞ!」

 転がるように路地を後にした金田を見送った後、ヒイロが母親に声をかけるとこんな言葉が返ってくる。

「助けてくださりありがとうございました。ですが、あの男にはもっと酷い罰を与えるべきだと思いました。あいつは私の娘を殺そうとしたんですから……!」

 震える声で告げる母親の言葉にヒイロは応えた。

「ええ。自分であればもっと的確にあの男を痛めつけることが出来たことでしょう。ですが、力を持つからと言って何をしても許される訳ではないかと思います」

「でも、実際は一部の高所得者が私たち貧乏人を虐げる世の中なんです! 失業者は増え続けるばかりなのに国は一切の支援を行わないどころか金持ちを優遇する法律ばかりを作っています! ちょっとくらい仕返しをしてやるくらい良いじゃないですか!」

「もう良いよ、お母さん。ほら行こう」

 ヒートアップした母親を制するように、娘がその手を引いた。

「ええ……熱くなってごめんなさい。いつかこのご恩、お返しをさせていただきますからね」

 そういって一礼すると、二人はヒイロ達の前から立ち去るのであった。



「『高所得者が貧乏人を虐げる世の中』か……」

 母娘を見送ったヒイロはそうため息を吐く。

 この世界に来て一ヶ月程度の時間しか経過していないが正直、彼女の発言は間違っていないと彼自身も気が付いていた。

 コンビニのバイト中に読んだ新聞や、テレカメラに流される情報を見るだけでも超大国ヒノクニの上層部は自分を始めとした二級以下の市民の存在を無視しているという事は簡単に推察出来る。

 いまこうしている間にもどこかの路上では餓死寸前の人々がいるのだ。

「俺のしている事は自己満足に過ぎないのか? だが、俺にこの社会構造を変えることなど……」

「悩んでおるようじゃのぅ。余が相談に乗ってやっても構わないぞよ?」

 そんなヒイロの独り言に楽しそうに応じるのはミリシアだ。

「まだ居たのか。用がないのであれば帰れ。俺はついさっき失業してな、仕事探しが忙しいんだ」

「コココ、相変わらず面白みのない男よのう。だがお主、ここで余と巡り会えて運が良かったのう」

「どういう事だ?」

 めんどくさそうに続きを促すヒイロ。彼の脳内は家賃を滞納している大家への対応についてで支配されており、ミリシアの言葉など聞き流そうとしたのだが、

「勇者よ、余と銀行強盗をしないか?」

「……は?」

 そんな彼女の突拍子もない発言に、彼の思考は完全に一時停止するのであった。


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