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第三十七話

「ミミー? ちゃんと戸締りをしたかー?」

「はい、お母様。これで暴徒が入り込むような事は断じてないでしょう」

 そりゃよかった、と返すユイ達がいるのは彼女の自宅リビングであった。ミミと二人、ソファーに座りながら大型のテレカメラで観ているのは、先ほどから流され続けている超大国ヒノクニ浄化作戦のニュースだ。

 ニュースでリトルシスターの発言がテロップという形で繰り返し流されている。

『三級市民達による理不尽な暴動』『普通の人間には一切関係がない』そんな言葉をユイやミミを含めた無関係な一級市民達は信じ込み、傍観していた。なぜなら何十年も昔からリトルシスターは常に正しい事を発信し続けているからだ。

「外は危ねえやつが多いらしいから、ミミも気を付けろよ」

「はい、お母様」

 事実、三級市民の現実をその目で見た彼女達ですら、生まれたばかりの真実を信じ込んでしまっている。でも大丈夫、可愛らしくて無害そうなリトルシスターが間違った事を言うはずはないのだから。

 人生はロングショットで見れば喜劇だ、とは誰が言った言葉だろうか。まるでその状況を再現するかのように、ドローン撮影で中継されるのは、遠距離からの曖昧な映像ばかり。

 そこには現実で流れる血や、痛みに苦悶する人間の表情などは存在しない。甘ったるく加工された真実がテレカメラ越しに届けられていた。

 画面一つ通すだけで身近な暴力すらも、どこか遠くの出来事に感じられてしまうのだ。合間に挟まるペットショップやファストフードの広告が、暴力や差別が当たり前のように存在しつつも、ここが安全な世界であると言う認識をより一層強固にする。これこそがキースの語る『人々を支配するのは恐怖ではなく。可愛らしくて無害なものこそが人の心を捉え、家畜にする』という構造のモデルケースと言えよう。

 しかし、どれだけ技術が進歩しようとも本当の真実というものは隠しきれない。テレカメラ内の映像に、ユイ達にとって見覚えのある光景が映った事で、二人は与えられた真実に違和感を持ち始める。

「なあ、今映ってるのって、ヒイロ達の住んでるアパートじゃねえか?」

「似てるだけじゃないでしょうか?」

 きっかけは単純なもので、フィクションのように思われていた光景の中に、自身の知るものが登場する事により、急速に失われていたはずの現実味が戻ってくるのだ。

「まさか、ヒイロ達も危険な目に遭ってるんじゃないか?」

「そんなはずはないでしょう。あの方達は貧しいかもしれませんが、善良な市民ですよ」

「それもそうだが……じゃあ今ああやって殴られてるヤツらだって、実は何も悪い事なんてしてないんじゃないか?」

「お母様……それはあり得ませんよ。きっと」

「なぜそう言い切れるんだ?」

 ユイの問いに、ミミは言い淀む。

「リトルシスターが……テレカメラがそう言ってるからです」

 二人はテレカメラの映像に目を向ける。するとそこには、

「おいアイツ……ヒイロんとこにいたシァンじゃねえか?」

「え、どちらです?」

「ほら、建物とかめちゃくちゃ崩れてるあそこ! あんな事出来んの他にいねえだろ!」

「確かに! 妙な機械に襲われているようです!」

 この時、彼女らが偽りの中から本当の真実を見出せたのは奇跡でも偶然でもない。彼女らはほんの少しかも知れないが勇気を出し、現実という空間で三級市民の世界や、異世界からの来訪者であるヒイロ達と交流を持っていたからこそ、偽物の情報の中から、偽りのない事実を発見する事ができたのだ。

「あの機械も市民を襲ってるドローンも全部……ウチが作った製品だ!」

 テレカメラには依然、人々を安心させる為のテロップが流れ続けている。『三級市民達による理不尽な暴動』『普通の人間には一切関係がない』と。

「何がアタシらには関係ねえだ! 同じ国で暮らしてる人間が苦しんでるのに、関係がないなんて言ってられるかよ! ミミ! こんな状況、ヒイロ達だけに任せちゃおけねえ、アタシらも動く!」

「はい、ご一緒します、お母様」

「まずはあそこで市民に襲い掛かってるウチの製品達をストップさせるぞ。なあにこういう時のために緊急停止装置はこっちで用意してあんだよ!」

「ですがお母様、国の意向も聞かず勝手にそんな真似をして大丈夫なのでしょうか?」

「後のことなんて関係ねえ、今は致命的なバグが見つかったとか言ってアレを止めるのが先決だ!」

 かくしてユイ達は出来合いの現実を抜け、自らがなすべき事をなすために動き出すのであった。


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