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第三十五話

「この感覚、ミリシアの念話か?」

 ミリシアの飛ばした念話は市街地にて防戦中のヒイロの元へ届いた。ついさっきリトルシスターの住処へ到着したと言う連絡が届いたので、さてはその続報かと思ったのも束の間、

『すまぬ勇者よ……リトルシスター確保は失敗じゃ。こちらは魔法を使うと思しき敵に襲われ、ヒオは既に凶弾に倒れた。残ったお主と騎士だけでもなんとか逃げ切ってくれ』

 そんな絶望的な内容に思わずヒイロは声を荒げる。

「魔法を使う敵だと!? ミリシア、お前は無事なのか! 状況を詳しく聞かせてくれ!」

 返事を待つも、彼女からの念話はそれっきりとなってしまった。

「あの二人に何かあったで御座るか!?」

「ああ。相当まずい状況のようだ。シァン、心苦しいのだが……」

「一切承知しております! ここは拙者にお任せして、勇者殿はお二人の元へお向かいください!」

「感謝する」

「お言葉ですが勇者殿、あの二人が屈する程の敵ならば準備をするに越した事はないかと思うで御座る。でも、勇者殿はこちらの世に価値のあるものは持ち込めていないと言う話でございましたよね? ミリシア殿から以前自分はそのような話を聞きました」

 心配するシァンに、ヒイロは一瞥を返す。

「無論。こちらも相応の準備をしてから向かうつもりだ、それにシァン。俺は『こっちの世界ではガラクタ扱いされるものばかり』を持ち込んだとは言ったが、『あちらの世界から武器を何一つ持ち込めていない』などとは一度も言ったことはないぞ」

「……つまりどういう意味で御座るか?」

「この国の人間や建物はあまりにも脆すぎるが故に使用を控えていたが──魔法使いが相手となれば、存分にあれを振るっても問題ないと言う事だ」

「まさか、勇者殿」

「お前の予想通りだシァン。幾多の魔物を屠り、魔王を鎮めし聖剣。俺はここでその力を振るわせてもらおう」



 数分後、自室へと何かを取りに戻ったヒイロの後ろ姿を見送り、シァンは照れ臭そうに笑った。

「えへへ、かっこよく見送ったつもりで御座るが、果たしてこれだけの相手を自分一人で捌けるもので御座ろうか?」

 現実に振り返って考えると、先ほどまでは数十人単位だった警察やドローンの数も今は百を越えている。単純に反抗をするだけなら、三級市民の中でも自主的に行なっている者もちらほら居るが、防衛線の崩壊が近付いているのは火を見るより明らかであった。

 そしてダメ押しのように、新手となる敵が彼女の前に立ち塞がる。それは超大国ヒノクニに住む者からすれば人型の戦闘用兵器と判別出来る見た目をしていたが、果たして相対したシァンはその正体を理解する事は出来ただろうか。

「見たところ普通の人間には見えませぬが、壊してしまえる分、人と戦うより気楽で御座る!」

 機械については知識の薄いシァンだったが、直感的に人体の中心部である胸部を槍で一突きする。並の装甲なら容易く破壊する一撃だったが、手元に返って来るのは奇妙な感触だった。

「なんと! 拙者の槍が通らぬとは!」

 一歩身を引いたシァンの姿を見て、人型兵器が携帯していたアサルトライフルを構える。これまでの相手ならば数秒回避した後、対象を昏倒させるといった手段が使えたが、こちらの攻撃が通らない以上、持久戦になるのは目に見えていた。流石のシァンであっても鉛玉を何発もその身に食らえば命の保証はない。

「しかし、拙者の一撃を防ぐとは……やはり防御魔法が付与されていると考えるのが自然。さらに傷一つ付かないところを見ると、最高位の魔法使いによって施されたものでござろう。そんな事が出来る人物なんて、拙者は一人しか心当たりがありませんな……!」

 そうこうしている内に、こちらの退路を阻むように警察による包囲網が完成しつつあった。

「申し訳ありませぬ勇者殿。せめてこの命に代えてでも、可能な限りたくさんの方をお助けしますので。……お叱りはあの世でお聞かせ頂ければと幸いで御座る」



「先ほど急に現れた人型の兵器は、明らかに魔法の力でもって強化されている」

 言いながらヒイロが手にしていた剣で一薙ぎすると、周囲に殺到していた人型兵器が嫌な音を立てて吹き飛んでいく。これといった装飾もないシンプルなデザインであるが、これこそが今日まで彼が押し入れに隠し持っていた聖剣グラムだ。

 ヒイロはミリシア達が最後に消息を絶った住宅街に向け、全速力で急行していた。道中に現れる人型兵器程度であれば、グラムを振るうだけで四散していくので彼の行く道の邪魔にはならない。

「このレベルの付与魔法、まさかあいつもこの国に来ていると言うことか。──むっ」

 何度目かの人型兵器の到来に、彼は無意識で剣を振りかけたが、

「た、助けてくれえ! 身体が勝手に!」

 こちらに向かって来るのが、戦意のない市民である事に気付き、慌ててその手を止める。だが、その向こうには、市民もろともこちらを撃ち抜こうとする人型兵器の姿も見えた。

「ちぃ!」

 考えるよりも先に、ヒイロは射線上に居た市民をその身で庇う。結果、何発かの銃弾が彼の肉を引き裂いた。

「く……やはり銃弾も魔法による強化が施されているか!」

 更に攻撃の手は緩まない。周囲に集まった市民は魔法でコントロールされているらしく、包丁やコンクリート片といった彼を殺めるための道具を手にしていた。つまりここにいる市民はヒイロに対して人質として作用するだけでなく、彼を殺すための兵士としても存在していると言う事だ。

「そしてこの効率的かつ悪趣味な作戦、やはりお前なのか──キース・ブリューケル!」


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