第三十二話
翌日、再び皆がヒイロの住む『夕刻荘』に集合した直後、昨日と比べてやけに外が騒がしい事に四人は気が付いた。アパートを出てみると、どうも騒ぎの原因はテレカメラに映し出された内容が関係するようで。
『──って事でぇ、こうしている今もこの国に寄生してある悪〜い人たちがたっくさんいるんだお!』
テレカメラの中ではリトルシスターが豪奢な書斎めいた部屋で、こちらに向け話しかけていた。
『それでそれでぇ! どうすればこの国がもっと良くなるか考えてみたんだお! そしたら私、リトルシスターがすべき事が分かったんだお! 道路で暮らしていて、お金も稼げない三級市民みたいなダメダメ〜な人たちをぜーんぶタイホしちゃえば良いんだって! そうすれば真面目に働いている人達だって気分が良いよね!?』
「なんだと……?」
画面の向こうから響く声に、ヒイロは思わず自身の耳を疑った。この統治者は今なんと言ったのだ、と。
『あ、今の話で心配になった人もいるよね? でも心配ご無用だお! これはフツーの人には関係ない話だお! ほんのちょっぴりのお金すら稼げない人達に「めっ」ってするだけだからぁ』
「お金すら稼げない人達だと? ふざけるな、捕まったら俺たちはどんな目に合わせられるんだよ!」
いきなりの宣言に怒りを隠せない三級市民の言葉に反応するかのごとく、リトルシスターは応える。
『あ、とーぜん捕まった人達も大事にするお! 私がお願いして作って貰った収容所でお金を稼いでもらうお! ご飯も食べれるしシャワーもあるお!』
それから次々に市民らが連れて行かれるだろう収容所の写真が映し出される。
映し出される内容はどれもこれも清潔感に満ちた施設の写真ばかりで、居住スペースが狭いという点に目を瞑れば、出来たばかりの公共施設といった風で、嫌悪感が産まれにくい内装をしていた。
そして最後に収容所の入り口に張り出された、キャッチコピーが映し出される。
『労働は自由なり』
『幸福とは社会貢献なり』
『真実はリトルシスターの言葉にあり』
直後、画面がリトルシスターの顔へと切り替わり、
『って事でぇ。悪〜い人達のタイホは、今この時間から始まるお! お家の外に居る人は一級市民だってタイホしちゃうから気をつけて欲しいお! あ、もちろん抵抗とかしちゃだめだお! 変な事したら警察の人に鉄砲で撃たれちゃうからね!』
そんな宣告によって、テレカメラの中継は終了した。刹那、街に住む三級市民に混乱が走った。誰もが警察に捕まるまいと、どこかに身を隠そうと行動を開始したのだが、時すでに遅く。
「うわああああ! じゅ、銃を持った奴らが直ぐそこまで来てるぞ!」
リトルシスターはヒイロ達の一手先を取っていた。見える範囲だけでも十数人の武装した警察達が押しかけており、惨劇が起こるのも時間の問題といった状況だ。
「助けてくれぇ!」
市民の内何人かが、兵隊の制止を振り切り走り去ろうとしたが、逃げ込んだ先にも既に銃火器を搭載したドローンが待ち受けている。
「し、死にたくない……!」
そんな言葉が聞こえた直後、激しい銃撃の音があたりに響き渡る。
「危なかったで御座るなあ。逃げる時は、周囲の観察を怠らぬ事! それを怠れば今のように袋の鼠になってしまうからなあ」
「ああ……ありがとう」
しかし、寸前のところでシァンがお得意と槍術で銃弾を防いでみせた。
「よくやったシァン! お前は引き続き、市民の安全を守れ。可能な限り犠牲者が出ないようにしろ」
「承知したで御座る!」
「じゃがヒイロよ。このまま防戦一方では、じきに怪我をする市民が出て来るぞよ」
「そこについては考えがある。ミリシアよ、ヒオと共にリトルシスターの住処へと行ってもらえるか?」
「え、どうして勇者様ではなく、魔王なんかと二人でいかなくちゃ行けないの!? っていうかいつの間に勇者様から魔王への呼び方が変わったの!? ワタシ、すんごく気になる!」
説明が面倒だと感じたヒイロは、ヒオの後半の質問はスルーした。
「お前とミリシアをペアにする理由はだな、こちらの防戦を行う人員と、リトルシスターの居場所へと攻める人員の二手に分かれさせたいのだ。そして攻めるチームには『読める図書館』を持つミリシアが必要。ともすれば、もう一人はこの中で隠密行動に向いたお前しかいないだろう、ヒオ」
「大事な質問をスルーされた気がするけど今は良いわ──つ、つまり勇者様、この任務はワタシ以外の人間には頼めないって事よね!?」
「まあ、そういう事だ」
「ケラケラケラケラ! 分かったわ! ワタシ、あなた様の愛に必ず応えるわ! そうと決まれば、とっとと着いてきなさい! この際、あんたが魔王だろうがミリシアだろうが関係ないわー!」
そんな会話を終えたヒオは意気揚々、と言った様子で警察達を昏倒させながら、通りを進撃していく。
「行ったか……だが、なぜヒオはあんな急にやる気を出したんだ? 俺たちは守り、あいつら二人は攻め、と適材適所でしかない指示をしただけなのだが」
「さあ? 拙者にも分からんでござるなぁ」




