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第三十話

「ふっ……ふっ。これは中々にキツイな、ヒオ」

「すごいわ勇者様! 前と変わらず、力強い動き!」

 ミリシアが去った後、おもむろに何かをし始めた二人に、シァンが尋ねる。

「あの、お二人は何をして御座るので?」

「見ての通り、腕立て伏せをしつつ、今後の動きについて考えている。魔物がいない世界とは言えど、鍛錬は怠る理由がない」

「ヒオ殿が勇者殿の上に乗られているのは?」

「一人でするよりも腕への負荷が強まるからな」

「そんな! 勇者様はワタシに密着をして欲しいと言ったじゃない! あの言葉は嘘だったのね!?」

「妙な勘違いをするな。俺はただ、背中の上に乗ってくれと言っただけだ」

 つまりミリシアなき今、三人は次なる動きについて考えあぐねているという状況であった。

「お言葉ですが勇者殿! 筋トレしてるばかりではリトルシスターとやらを倒せませぬ! ここは二、三級市民から、共に戦う仲間を募るべきかと思うで御座るが、いかがか!?」

「あら、戦いしか能がないダメ騎士の癖に、良い考えじゃない。どう思います、勇者様?」

「却下だ。仮にうまく行ったとして、市民が犠牲になるような事は避けたい。これは俺達が勝手に始め、勝手に終わっていく戦いにしたい」

「さすが勇者様! ほらダメ騎士! 変な案を出してごめんなさいって謝りなさいよ!」

「相変わらず自分勝手で御座るなヒオ殿ー。でもそれが懐かしいで御座る!」

 などと話していると、突然部屋の扉が勢いよく開かれた。その先には、さっき帰っていったはずのミリシアの姿があった。

「あれ!? 魔王殿は家に帰ったはずでは? あ、何か忘れ物でござるか?」

「んな訳ないでしょ! きっとあれから勇者様への愛が溢れて、我慢が出来なくなったのよね!? でも、もう手遅れよ勇者様は今、ワタシの下で喘ぎ声を出しているんだもの!」

「……ヒオ、俺が苦しんでいるのが分かるなら、背中から退いてくれ」

 あらやだごめんなさい、と慌てて床に移動したヒオをスルーし、ミリシアは余裕の笑みを浮かべて告げた。

「ふん、余の想像通り、やはりお主らは次の手が決められず困っているようじゃのう」

「なんだと?」

「余の『読める図書館』の力が必要なのじゃろうかと思い、仕方なく帰ってきてやったぞよ。ほれ、余を誉めよ。崇めよ」

 突然の手のひら返しに、ヒイロは訝しげに尋ねる。

「お前はあれほどリトルシスターへ挑む事に反対をしていただろう? どうして急に戻ってきたんだ? 何か企んでいるのか?」

「何も企んでなどおらぬわ! 失礼なやつじゃのう!」

 反射的にそう答えたミリシアだったが、一度咳払いをし訂正する。

「いや! 企んでおるぞ、余は自分の利益のためにしか動かぬ。もし国の構造を変革出来たならば、余の権力、財産も鰻登りじゃ! 目の前に居る勝ち馬に乗らぬ阿呆はおらんじゃろう! うわぁ〜今からワクワクが止まらんぞ!」

 そんな彼女の態度を不審に感じたのだろう、三人はヒソヒソと内緒話を始める。

「どういう気持ちの変化だ? 俺にはさっぱりわからない」

「やっぱり勇者様への愛が抑えられなくなったに違いないわ! 新たな恋敵の誕生ね! 憎い……憎いわ!」

「きっと勇者殿の真っ直ぐな正義の心が、魔王殿にも通じたのかと思われます!」

「……なんというかお主ら、似たもの同士じゃのう」



「ふむ。出てきたぞ、リトルシスターに関する記録が」

 そう改まり、ミリシアは『読める図書館』から引き出した情報を読み上げる。

「生まれたのは今から約五十年前とされておるな。そこから逆算すると、十代の半ばには先の大戦を収めた功績を認められ、超大統領に就任したという事になるのう」

「って事は今年で五十代って事ね、まあトシがいくつかなんてワタシには関係ないけれど!」

「他にもっと情報はないのか、妖狐よ」

 先を促すヒイロに「せっかちじゃのう」も愚痴りながらも、ミリシアは続きを読む。

「リトルシスターに関する記録自体が少ないようで、情報の引き出しに時間がかかっておるみたいじゃ。おお、奴が住んでおるだろう住所が出てきたぞよ」

「ついに出ましたな! それではさっそく自宅へ突撃いたしましょう! 拙者について来るで御座る!」

「付いて行かないわよ! あんたはもうちょっと考えてから行動しなさい!」

「いや、シァンの考えも悪くないと俺は思ったぞ」

「ですよね勇者様!」

「ちょっと待てい! お主ら、変なところで行動的過ぎるわ! このバカども!」

 自身の与えた情報で、浮き足だった三人をミリシアは制止する。

「特に勇者よ! 元はお主のパーティーであろう? こういう時に一番冷静に判断すべきヤツが功を焦ってどうするのじゃ」

「面目ない。こういう作戦を練るのは普段、キースに任せていたからな。それに──」

「言い訳など聞きとうないわ!」

「この女、魔王の癖に勇者様に説教なんて……!」

「作戦は一つ! やはりリトルシスターの家に電撃戦をかける事が一番かと!

 ぎゃあぎゃあとやかましくなりつつあった空間を一喝するのはミリシアだ。

「攻めるにしても守るにしても、今すぐ行動する必要があるとは限るまい! 今日はあのドレッドイーターだかの件で皆も疲れておろうから、休息を取ると良い! 詳しい作戦についてはまたら明日考えるとする!」

 強引な幕引きであったが、今ここにいる四人は朝から動きっぱなしであるので、疲労が蓄積しているのも事実。

「それでは余は家に帰る。何かあれば念話を送るので、寝過ごすでないぞよ」

「なに勝手に仕切ってんのよ──は、もしかしなくてもこの後の展開ってワタシが勇者様のお家にお泊まりって事!? 布団の数が足りないからワタシと勇者様が同じ布団で寝ちゃったりするイベントが発生するって事ね!? あ、あんたは押し入れで寝るのよ」

「いえ、そうならないよう、拙者達で人数分の布団を買ってきたではありませぬかヒオ殿……」

「ここにおると頭がバカになりそうじゃ。また明日来るぞよ」

 などと言って帰宅しようとしたミリシアをヒイロが引き止める。

「待て。俺も途中まで送って行こう」

「なんじゃ? 妙な気を回しおってに」

「今のうち、お前に聞いておきたい事があるのだ」


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