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第二十話

「バーカ! その腕は作り物よ! これがワタシの一族に伝わるスキルの一つ、変わり身の術よ!」

「卑怯者! あなたの敵は私だったはずです、ミリシア様から離れなさい!」

「ケラケラ! イヤよ! ワタシはね、こいつの事がずっと嫌いだったの! 魔王だかなんだか知らないけど、何度も勇者様に会うために蘇ってきて! ほんといやらしい女よ!」

 正体を表したヒオは他の下級市民同様、廃棄寸前のゴミから拾ってきたらしき古ぼけた服を着込んでいた。

「か、勘違いも甚だしい……誰があんなのに会いたいと思うかえ」

「嘘よ! そんなこと言って勇者様を独り占めしようしてるくせに、このメス犬!」

 首元に毒が仕込まれた爪を突きつけられていながらも、ミリシアは気丈に振舞っていた。しかし、それも表面上でしかなく、彼女が絶体絶命の状況であるということは火を見るより明らかであった。

「なあおい、アンタよ。さっきからずっと気になってんだが、どうしてそんなミリシアを敵視してるんだ?」

 そんな状況に口を挟んだのは、ユイだった。何か手違いがあれば、ミリシアの命が失われる緊迫した状況下であっても、どこか彼女は相手を威圧するオーラを発していた。

「決まってるじゃない! これ以上この女のせいで、勇者様のお耳や目が汚れないようにしたいだけよ! 悪い!?」

「そうか、じゃあやっぱりオマエはあの勇者が好きって事なんだよな?」

「ええそうよ! あんな気高い方とずっと一緒に旅をしてきたんだもの! 恋の一つや二つ産まれたっておかしくないでしょう?」

「ああ。理解出来るよ、でもだからこそ、そんな風に躍起になってその女を殺す理由は無いんじゃないかって思うんだよな」

 ぴくり、とヒオの額に血管が浮き上がる。

「何が、言いたいのよ」

「オマエはさ、ミリシアにビビってるんだろ? 『自分とこの女で勇者様を取り合ったら絶対に敵わなーい』ってさ。だから今のうちに殺しておきたいって訳だ」

「だ、黙りなさいっ! それ以上ふざけた事言うなら、あ、あんたを先に殺すわよ!」

「アタシは構わねえよ。だけど、それで最後にしろよ。オマエみたいな可愛い娘が誰かを恨みながら生きるなんてもったいねえぜ。もっと前向きに生きる道を探せよ」

「え?」

 ユイの言葉に意表をつかれたのだろう。ヒオはまるでミリシアへの怒りを忘れたかのような呆然とした瞳で、ユイを見つめていた。

「分かるぜ。いきなり知らない世界に放り出されて寂しかったんだよな? それで久しぶりに会えた自分の好きな人が、大っ嫌いなやつと一緒にいてパニックになっちまったんだろう?」

「……うん。そうなの」

 微笑をたたえながら歩いてくるユイに、ヒオは素直に頷く。

「素直になれたじゃねえか。それじゃ、オマエはこれから何をするべきか、自分で分かるよな?」

「はい。ミリシアと……そこの女の子に謝りたいです」

「そうだそうだ、よく分かったな。偉いぞ」

 ヒオの答えに満足したらしい、ユイは彼女の身体を優しく抱きしめてやった。すると、ヒオも顔を赤らめて、

「あ、ありがとう。……ねぇ、あなたの事、ママって呼んでも良い?」

 そんなことを言い出した。

「ちょっといきなり何を言い始めるのですかあなた! お母様も『しょうがないなあヒオは』みたいな顔しないで下さい! というかあなた、戦ってた時のキャラが違いすぎませんか!?」

「おいおい心配すんなってミミ。アタシには既にオマエと言う娘がいるんだぜ?」

 突如として自分の母が奪われかけ、大慌てなミミを安心させるようにユイは告げる。

「そうですよねお母様。いくらなんでもこんな出会ったばかりの女にママなんて──」

「ああ。既にオマエやココアという娘がいる以上、もう一人くらい娘が増えてもおかしくねえよな!?」

「絶対おかしいですよー!」

 人気のない商店街に少女の悲しみの声が響いた。

「余を放っておいて何をしとるんだこやつらは……シァンや勇者も何をしとるんだか分からんし」

 ため息混じりにミリシアはそう不満を漏らすのであった。


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